木製人形の恋 (1/2)
※カク誕
※ほぼ子カクな上果てしなく捏造
※名無しオリキャラが微妙に出現中
結局のところ、ナマエという名前の男がどういう存在だったのかを、カクはよく知らない。
ただ、カクよりずいぶんと年上であるらしい彼は、とある島へ他のCPの『潜入任務』の同行者として連れていかれた半人前のカクを、妙に可愛がってくれた男だった。
半年に一度の季節によって海が荒れ、出航できない間をこの島で過ごすことになった『親子』というのがこのたびカクに与えられた設定で、それを演じることの重要性をカクはよくよく知っている。
色んな人間に警戒されぬまま話しかけることのできる人なつっこさと、口の堅さから選ばれた『息子』たるカクを置いて、今日もカクの『父親』は正義のための任務に忙しい。
「おお、今日も来たのか、カク」
「ジャマじゃったか?」
「そんなことはないさ」
だから今日もカクは一人で港の見える高台へと来ていて、人気のない休憩所の置かれたそこで、先客であるナマエがそんなカクを迎え入れた。
二枚ガラスの向こう側に覗く海や空は余すことなく荒れていて、港の船が海原を目指していく様子は無い。
こんな荒れようでは海の生き物ですらも大変な目に遭うのではないかと思うほどで、すごいのう、と声を漏らしたカクは雨に濡れていた合羽を脱ぎ捨てた。
ぽい、と床へとそれを放り捨てて、そのまま乾いた床の上を歩いてナマエへ近寄る。
そして、そのまま子供がよじ登ったのは椅子に座るナマエの膝の上だった。
ここへ来るたび繰り返していたその行動に、もはやナマエも何も言わずに受け入れて、預けられたカクの背中を受け止めながら、そうだなァ、なんて言葉を零す。
「この分じゃ、船が出せるようになるまで、あと一週間はかかるな」
「イッシュウカンか。ながいのう」
「まァ、こればっかりは仕方ない」
わざとらしく口を尖らせたカクの前で肩を竦めて、黙って受け入れるしかないさとナマエが言う。
もちろん、天気や海をどうにかできるわけがないのだからその発言は当然だ。
男の膝に座ったまま、ぶらぶらと軽くその細い足を揺らしたカクは、それから頭を擦り付けるようにして真後ろの男を見あげた。
「ナマエも、イッシュウカンはながいとおもわんか?」
この度のこの天気は、例年より少し荒れが強いらしい。
普段なら大丈夫だからと、港の近くへ出て『波に攫われた』島民もいる。
タイミングがいいのか悪いのかと言って笑っていたカクの『父親』役は、今もカクの知らぬどこかで正義を執行しているはずだ。
つまりはカク達にとっては好都合であるこの天気だが、ナマエ達のような一般人にとってはあまり歓迎できるものではないだろう。
カクの問いかけに、仕方ないことだからなァ、とナマエが言葉を紡ぐ。
それからその手がひょいと伸びて、自分の方へ向かってそびえていたカクの長い鼻を軽くつまんだ。
「むっ」
鼻先を軽く撫でられて、むずがるように顔を逸らしたカクが、両手で自分の鼻先を軽く覆って隠す。
「ハナはやあじゃというたのに」
口を尖らせあえて子供っぽい言葉を紡いだカクに、何だか見てると触りたくなるんだよな、とナマエが呟く。
その顔はとても穏やかで、まさしく一般市民のそれだった。
この島へ訪れたカクが、どうしてか一番仲良くなった相手は、このナマエだ。
カクの『役目』は『父親』役が万が一にもおかしな疑いを掛けられないよう純真な『息子』として過ごすことで、一般人と親密になることに何か問題があるとは思えない。
一人と親交を深めるカクへ『父親』役も最初は注意を促していたが、ナマエがこの島でも一目置かれている存在であると聞いてからは逆にカクを褒めただけだった。
漏れ聞こえた話によれば、ナマエもまたかつてはどこかの島からかわたってきた旅行者であり、今はこの島の何かを気に入ってこの島へとどまっているということだ。この島のあちこちの作業効率を良くする道具達は、このナマエが考えて作ったものであるらしい。
まあしかし、ナマエがどんな功績を持っていようと、カクには関係が無い。
カクはどこにでもいる、普通の旅行者の少年なのだ。
たまたまこの島に足止めされて、天気の悪さに暇を持て余し、こうして顔見知りになり『懐いた』相手のところを訪れている。それだけのことだ。
まるで自分の現状を肯定するようにそんなことまで考えを回して、頬を膨らませたカクがつんと顔を逸らすと、ごめんごめん、とナマエが謝罪を口にした。
「そんなに怒らないでくれ」
なだめるようにそんなことを言いながら、よしよしとその手がカクの頭を優しく撫でた。
カクが知る『大人』の手とは全く違う、人を殺せそうにない柔らかな掌を受け止めて、それからカクはちらりとナマエを見やる。
「……もう、せんか?」
「しない、しない」
問いかけたカクへ、ナマエはあっさりそう答えた。
つい昨日もきいた台詞だ。口も目もまるで本気のそれでは無い。
一目見ただけでそれは分かったが、しかたなくカクはそっと鼻を隠していた手を降ろした。
「それじゃあ、こんかいだけトクベツにゆるしてやろう」
偉ぶった調子で言葉を放てば、ありがとうと言い放って、それからナマエが軽く身じろぐ。
椅子の後ろ側に置いてある鞄へ手を伸ばしている様子の相手に、首を傾げたカクもその顔を向けた。
普段なら持っていないその鞄は、カクが見たことのない装丁のついた、少し古びた様子のものだ。恐らく長い間使っているのだろう、丁寧につくろった後もある。
「なんじゃ?」
それへ手を入れて何かを取り出したナマエに問いながら、その膝に座ったまま、カクは少しだけナマエから距離を取った。
わずかな警戒を浮かべる子供を見下ろしたナマエの手が、それからそのまま持っていたものを自分とカクの間に差し出す。
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