- ナノ -
TOP小説メモレス

かまって! (1/3)
※ボルサリーノ外見のみ幼児化注意
※戦争編以前
※何気に異世界トリップ主人公



 ボルサリーノの部下であるナマエは、どうやら子供好きであるらしい。
 小耳に挟んだそんな噂話を、何となく確認してみようとボルサリーノが思ったのは、トシトシの実とやらの能力を人工的に作り出す実験の対象となって、もはや自分でもあまり覚えていない頃の幼い背格好になってしまったからだった。
 光人間としての能力は使えるようで、小さな姿になってしまったボルサリーノに大笑いをした大将青雉の膝は後ろから光の速さで蹴り飛ばした。
 とても痛そうな音を立てていたが、呆れた顔の大将赤犬が言った通り、自業自得である。
 そして、効き目が切れて元に戻るまでの間の数日間を休みとして振り当てられてしまったボルサリーノは、以前聞いた噂を思い出して町へと繰り出した。
 てくてくと歩きながら、ぶかぶかの帽子を被った頭にナマエという名前の青年の顔を思い浮かべる。
 ナマエは、漂流しているところを一般の海兵が保護した青年だった。
 住む場所をなくして行くあても無いという彼は、保護を受けている中で海軍内での文官としての職務に就き、今はボルサリーノの元で日々書類整理に精を出している。
 『暴力』に少しのためらいを見せるその様子からして、平和な場所で生きてきただろうことは想像に難くない。
 そして、そんなナマエは、どうも、『大将』に少しの怯えを抱いているようだった。
 これは、恐らく上司として一番長い時間を共にしているボルサリーノしか気付いていない事実だろう。
 ボルサリーノやクザンのふざけた話には冗談を返すが、基本的にナマエはボルサリーノや他の相手へ対してにこりとも笑わない。
 真面目な顔の下に怯えた姿を隠しているのだと気付いてから観察してみたが、青雉や赤犬、元帥等に対してもナマエは似たような態度を取っていた。
 実際、三人の大将はそれぞれ海軍最高戦力の異名を持つロギア系悪魔の実の能力者で、海賊を駆逐するために鍛えたその腕は人間など簡単に殺してしまえる。
 海軍にいながら暴力を厭うナマエが大将達に怯えるというのは、まったく持って不思議ではない。
 不思議ではないのだ。
 だが、それが面白いか面白くないかはまた別の問題である。
 もう少し優しくしてあげなさいや、とボルサリーノがうんざりとした顔の青雉に言われたのは、果たしてどれほど前のことだったろうか。

「……まァ、この格好ならばれないよねェ〜」

 小さな子供の姿になってしまったボルサリーノは、その足を巨大図書館のほうへと向けていた。
 今日のナマエが休みで、休日の彼はいつも大人しく政府ご用達の図書館に入り浸っているということを上司であるボルサリーノは知っているのだ。
 時々訪れる図書館へ入り込み、顔を上げた司書に子供らしく挨拶をして、一般解放されている区域へと足を踏み込む。
 入り込んだそこできょろきょろと周囲を見回したボルサリーノは、読書スペースの一角で、うずたかく本を積みながら椅子に座っている青年を見つけてにんまりと笑った。
 小さな足がぱたぱたと動いて、絨毯に足音を吸い込ませながら移動する。
 本に没頭しているナマエを見上げてからその横の椅子を引いてちょこんと座ると、少し置いてボルサリーノに気付いたらしいナマエが、ようやくその目を本からボルサリーノのほうへと向けた。
 相変わらず鈍い相手を見上げてにこにこ笑うボルサリーノに、不思議そうにしながらナマエが口元を動かす。

「どうしたんだ、坊や。俺に何か用事か?」

 本に栞紐を挟みながらそう尋ねたナマエに、ううん、とボルサリーノは首を横に振った。

「おにィさん、ごほんをたくさんよむんだねェ〜」

 青雉あたりが聞けばまたしても噴出したに違いない子供のような口調を放ったボルサリーノに、そうかな、と何も知らないナマエが首を傾げる。
 その手が、積まれた本の上に持っていた本をそっと置いた。
 今のボルサリーノがテーブルに座った時と同じ位の高さの本の塔が、ナマエの正面と左右に一本ずつ聳えている。
 その状態でそんな不思議そうな顔をされても、全く説得力がない。
 だから、そうだよォ、と呟いたボルサリーノは、一般の海兵と同じくらいの身長であるナマエを見上げて首を傾げた。

「しらべものがあるのォ?」

 何度か通常の姿のときにも放った質問をして、毎回はぐらかしてくれていたナマエをじっと見上げる。
 唐突な問いかけに目を丸くしたナマエへ、お手伝いしようかとボルサリーノが尋ねれば、ナマエはその口に笑みを浮かべた。
 ボルサリーノには向けたことも無いような珍しいそれに子供の姿をしたままボルサリーノが戸惑ったところで、ひょいと伸びてきた大きな手がボルサリーノの小さな頭を帽子ごと捕まえる。
 がしがしと頭を撫でられて、ずれた帽子をボルサリーノが慌てて両手で押さえると、それに気付いたナマエの手がそっと動きを止めた。

「優しいんだな、ありがとうな坊や。でも、ちょっと坊やに手伝ってもらうには難しいかなァ」

「そんなことないよォ〜、しらべもの、じょーずなんだからァ」

 手を離したナマエに言われて、ボルサリーノはわざとらしく唇を尖らせる。
 すねた子供に見えただろうその仕草に、穏やかな顔をしたままのナマエがそっとその手で積んだ本の一つに触れた。

「家への帰り方を調べてるだけなんだ」

 そうしてぽつりと寄越された言葉に、ボルサリーノは瞬きをする。
 住む場所をなくして行くあても無いからと海軍へ入ったはずのナマエは、ボルサリーノの戸惑いに気付いた様子も無く、塔の一つを半分に分けて他の二つの上へと積んだ。どうやら、本を片付けるつもりらしい。
 傍らにおいてあったカートへ本を積み込むナマエを見やって、ぴょんと椅子から降りたボルサリーノの手がカートを掴む。
 本を積み終えたナマエを見ながら背伸びをしてカートを押せば、片付けに付き合おうとしていることを把握したらしいナマエが、またも笑ってから椅子を立った。
 ナマエの手がひょいとカートを掴んで、からからと小さく音を立てながらカートを押し始める。
 ボルサリーノがぶら下がる様に取っ手に捕まっていても、ナマエは何も言わない。
 しばらくそのままで移動してから、人のいない分類の大きな本棚の影まで入ったところで、カートにぶら下がったままのボルサリーノが首を傾げた。

「……おうちのばしょがわからないのォ?」

 ボルサリーノが落とした問いかけに、本棚の端で足を止めたナマエが頷く。

「そう、分からないんだ」

 あっさりとボルサリーノの言葉を肯定して、その手で本を掴んだナマエは、少し開いていた本棚の隙間にその本を押し込んだ。
 せっせと本を片付ける彼の傍で、ボルサリーノはその棚に並んでいる本の背表紙を確認する。
 そこに書かれていた文字から、ナマエが前にしているその棚が、グランドラインでの異常な事象をまとめたところだということが分かった。
 もしや、ナマエは何かおかしな事態に巻き込まれて『住む場所も行くあても失った』のだろうか。
 休みのたびに図書館へ通いつめているのは、失ったその場所を諦め切れないからなのか。
 とすれば、つまり、いつかは海軍を離れて『帰る』つもりなのか。
 そこまで考えると何となく面白くなくて、カートからそっと離れたボルサリーノは、大きめの帽子を落とさぬよう片手で押さえながらナマエの姿を見上げた。




戻る | 小説ページTOPへ