いじめっこの自然律 (1/2)
※若いレイリーさん・子シャンクス子バギー注意
※元保父さんな主人公はロジャー海賊団クルー
「いいかバギー、おだてられて変なもん買わされるんじゃないぞ」
心配そうな顔をして、身をかがめた青年が囁いた先で、赤い鼻の少年がばしんと自分の胸を叩いた。
「当たり前だろ! 見てろよ、すっげェの買ってくるから!」
「それが心配なんだ……」
胸を張って言葉を零す少年に、向かいのナマエの口からはとても情けない声が出る。
そのやりとりを見ていたもうひとりの少年が、大丈夫だって、と明るく言葉を零した。
「おれも一緒に行って見張っててやるし」
「は?!」
さらりと寄越された言葉に目を見開いて、鼻の赤い少年が傍らを見やる。
「なんだよシャンクス、お前ついてくるのかよ!」
「おれも買いたいのあるし、ちょうどいいだろ」
「派手に邪! 魔! だ!」
「そう言うなよー」
歯を剥く仲間にけらけらと赤毛の少年が笑って、二人のそんなやりとりを見ていたナマエがやっぱり心配だと眉を下げたところで、その頭ががしりと掴まれた。
そのままぐいと後ろに引っ張られて、うわわわわと声を漏らしてのけぞったナマエの視界に、後ろから覗き込んでいる海賊の顔が逆さに入り込む。
「いつまでやっているんだ。さっさと行くぞ」
「レイリーさん……やっぱりこいつらも一緒に……」
「用事が違うからな、駄目だ」
情けない声を出したナマエに向けて、レイリーと呼ばれた彼はぴしゃりと言葉を落とした。
そのままさらに後ろへ頭を倒されて、情けなくもナマエがしりもちをついたところで、ようやくその頭が解放される。
促されるまま立ち上がって、ナマエは改めて少年らを見下ろした。
「くれぐれも気を付けるんだぞ」
「任せとけ!」
「分かってるって」
少年たちの返事を聞いても、心配そうなナマエの顔は変わらない。
その様子を眺めたレイリーが、先程ナマエの頭を掴んだ時のようにガシリとナマエの腕を掴まえて、行くぞ、と言葉を置いてその場から歩き出した。
引きずられてタラップを降りていくナマエへ手を振る赤毛の少年の横で、赤い鼻の少年がちらりと隣を見やる。
「今日の副船長は派手にゴキゲンだな」
「やっぱりナマエと二人で出かけるのがうれしいんじゃないか?」
久しぶりだもんな、と笑う赤毛の少年の言葉に、それもそうだな、と赤鼻の少年が頷いた。
※
ナマエの口走った『ノックアップストリーム』という不可思議な海流について調べる為には、海洋学に詳しい人間を捜す必要がある。
『空島』と呼ばれる場所の噂は今回の島にも流れており、買い物ついでに専門家を捜して歩くのが今回のレイリーの行動目的だ。
引きずられて一緒に船を降りたナマエも、港町に入ってからと言うもの、レイリーの真似をして情報を集めながら船の為の買い付けを行っている。
「あ」
しかしその途中で声を漏らしたナマエに気付き、視線を向けたレイリーは、ナマエが注目している対象が何かを確認して軽く目を眇めた。
しかしレイリーが何かを言う前に、店主に代金を払ったナマエがそのまま今見つけた『もの』へと近付いていく。
「こんにちは、どうしたんだ?」
路地の端でぐすぐすと泣いている少女の前で屈みこんだナマエの口から漏れているのは、なんとも優しげな声音だ。
「……またか」
その様子を眺めて呟きつつ、レイリーの手が今ナマエがベリーを払った店主から荷物を受け取る。
かのロジャー海賊団の副船長を荷物持ちにさせた男が、今のように子供へ近付いていくのは、今日のうちでもう三回目だった。
最初は友人らと駆けまわって転び肘を擦りむいた少年で、二回目は手放した風船が木に引っ掛かっていた少女だ。
その二回と同じように、ナマエの手が泣いている子供の頭を軽く撫でて、宥めるように声を掛けている。
「今度は何だ?」
荷物を抱えて近付いたレイリーが訊ねると、ナマエの手がひょいと少女を抱き上げた。
「旅行者の迷子みたいなんで、そこの集会所に連れていきたいんですが」
「……好きにしたまえ」
いいですか、と問うてくるその目を見やって肩を竦めたレイリーが、歩き出したナマエの横に並ぶ。
まだその目を潤ませて、わずかに嗚咽を漏らしている少女は、その小さな手でしっかりとナマエの服を掴んでいた。
よく見れば膝には怪我をしていたらしく、先程買ったばかりのナマエのハンカチが巻かれている。
出会ってすぐに他人に縋るだなんて、このご時世、誘拐されても仕方ない。
そんな風に思ってはみるものの、例えばレイリー相手にだったなら少女もそんなことをしないだろうと言うことが分かるだけに、レイリーの口から漏れたのは仕方なさそうなため息だった。
「よしよし、もうすぐお母さんに会えるからなー」
優しげな声で子供に話しかけているナマエは、随分と子供に好かれる男だった。
ロジャーに拾われて海賊になったが、海賊らしからぬ面倒見の良さを持っている。
シャンクスとバギーもよく懐いていて、ナマエが仲裁に入るせいか、以前より騒がしい喧嘩をする頻度は減っていた。
「ナマエは本当に子供が好きだな」
ちらりと傍らを見やってレイリーが呟くと、港町の中央辺りにある集会所へ向かいながら、そうですねとナマエが返事を寄越した。
「もともとそう言う仕事してましたしね」
ナマエが口走ったのは以前と同じ台詞だが、やはりレイリーには、子供の扱いに長けた賞金稼ぎと言うのが今一つ想像出来ない。
そうか、と適当に相槌を打ったレイリーに気付いた様子もなく、泣き止んできた少女の背中を優しくさすりながら、ナマエが口を動かした。
「もし結婚して子供が出来てたら、かなり育児に協力できる父親になれたと思いますよ」
「ほう」
しみじみと呟く相手に、レイリーが軽く眉を動かす。
そんな相手がいたのかね、と視線を向けて尋ねると、レイリーの視線が頬に突き刺さっていることも知らないナマエが、いやあ、と困ったような笑みを浮かべた。
「残念ながら全く」
「そうだろうな」
「いや、酷くないですかそれは」
呟くナマエにレイリーが頷くと、自分から言った癖をしてナマエの口から非難がましい声が漏れる。
自分の方へ向けられた視線を見返してから、レイリーはそのまま正面へ目を逸らした。
「こんな『稼業』で、結婚も何もないだろう」
レイリーが乗っている船は、ロジャー率いる海賊船だ。
当然、同じ船に乗っているナマエもまた『海賊』であり、海兵に見つかれば捕縛されることは間違いない『悪』である。
ひとところに留まることが出来ない生き方をしていて結婚するのならその相手を船に乗せるしかないだろうが、もしもナマエにそう言った相手がいたとしても、レイリーにはその『誰か』の乗船を諦めさせるだけの舌があるのだ。
ロジャーがその『相手』を気に入ってしまえば話は別だろうが、ナマエが船のことで頼ってくるのは基本的にレイリーだった。
何せロジャーは豪快で、学ぶ相手には適さないのだから仕方ない。
だからロジャーに話す前にナマエはその話をレイリーにするだろうし、そうなればレイリーはロジャーの耳に入る前にその『相手』を諦めさせるだけのことだ。
「それもそうなんですけど」
あっさりとしたレイリーの言葉に頷いて、少女を抱きかかえたままのナマエが軽く笑う。
レイリーの考えていることなど何一つ分かっていないようなその顔をちらりと見やって、レイリーの口にも笑みが浮かんだ。
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