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いじめっこと誕生日
※『いじめっこの法則』から続いているシリーズ設定
※若いレイリーさん注意
※子バギーと子シャンクスにも注意?
※時間軸が捏造すぎる
※元保父さんな無知識トリップ系主人公はロジャー海賊団クルー



「あ、今日って〇月◇日か」

 昨日の日付にバツをつけたナマエが言い放つのを、バギーは横から見上げて聞いた。
 朝方のこの時間、起きているのはコックとナマエ、それにバギーと見張りの一人くらいのものだ。
 バギーだっていつもならもっと寝ている。けれども今日はたまたま喉が渇いて起きて、訪れた先にいたナマエが『ほら』と笑ってバギーへ飲み物を用意してくれた。

「んーん?」

 大きなカップを手でもってぐびぐびと水を飲みながら、しかしバギーの口が声を漏らす。
 放られたそれを聞き、バギーの方を見下ろして、ナマエがにこりと笑った。

「俺の誕生日だなってだけだよ」

「んぶふ!」

 放られた言葉に、思わず口に含んでいた水を噴出す。
 びしゃりと目の前の壁が濡れ、何なら床とバギーの服までいくらか濡れたが、今はそれどころじゃない。

「あーあ、バギー、大丈夫か? 服は?」

「それはいいんだよ! ナマエ、お前!」

 屈んできたナマエが口元を拭いに来るのを受け入れつつ、バギーの眦がつり上がる。
 誕生日はもっと早くから騒ぐもんだろ! と上がった悲鳴は、恐らくオーロ・ジャクソン号の中をド派手に響き渡っていた。







「誕生日おめでとう、ナマエ! これやるよ!」

「ありがとう、シャンクス」

 にかりと笑いながら近寄ったシャンクスが差し出した贈り物を、ナマエが両手で受け取った。
 その手の上にあるのは、先ほどシャンクスが自分の『宝箱』から選んできた小さな剣だ。
 さび付いて鞘から抜けず、はめ込まれた飾りも宝石ではなくただのガラス。おもちゃのようなものだが、シャンクスがその手でしっかりと磨いてある大事な『宝』だ。

「いいのか、これ。大事にしてただろう」

 それを知っているナマエがそう尋ねてきたので、いいよ、とシャンクスは答えた。

「本当はもっといいのをやりたかったけど、ナマエがおれ達に誕生日だって教えなかったから」

 来年はもっとすげェのを期待してろよとその顔を見上げて笑うと、この年になってそこまで気にされると思わなかったよ、とナマエも笑う。
 年齢なんて関係ないだろ、とそれへ応えて、シャンクスの両手が自分の頭の後ろへ触れた。

「仲間のめでたい日は祝うもんだって船長も言ってたし」

『誕生日ィ!? そういう大事なこたァもっと早く言え!』

 朝方、シャンクスを起こしたのは、船長の放った大声だった。
 すぐさまどたばたと仕度を始めたオーロ・ジャクソン号は、偉大なる航路の中、遠くに見えた島影へ向けて進路を取り、今日の夕方にはその島へとたどりつく予定となっている。
 本来の予定からは外れた航路だが、宴をやるなら安全な場所がいいと進言したのは副船長だ。
 今頃は真面目な顔で手はずを整えているのだろう一人を思い出して、それからシャンクスが改めてナマエを見上げる。

「それにしても、ナマエも結構顔の皮厚いよな」

「ん?」

「レイリーさんにいーって引っ張られて『千切れる!』って叫んでたのに、千切れてないし」

 痛い痛いと騒いでいた男を見やってのシャンクスの言葉に、ああ、とナマエが声を漏らした。
 その手がそっと自分の頬に触れて、いくらかそこを撫でてから手を降ろす。

「俺も案外丈夫になったってことかもな……」

 多分昔だったら千切れてたよと遠い目をして言われて、そうかもな、とシャンクスは笑った。
 基本的に、この船の副船長はナマエに対して『意地悪』だ。
 しかしまぁ、今日のあれは間違いなくナマエが悪い。
 何せこの船で初めてナマエのその情報を知ったのが、船長でもなくかの副船長でも無かったのだ。バギーに罪は無いにしても、吐かなかった男には罪がある。

「千切れてたらおれが拾って宝箱に入れてやったのに」

「千切れた頬肉を? 怖いこと言わないでくれ」

 絶対そこで腐るぞと現実的なことを言い出す男に、入れるのはおれのじゃない『宝箱』だよとは思ったが、シャンクスはそれを口にはしなかった。







 夕方になって辿り着いた島の砂浜で、ロジャー海賊団は宴を始めた。
 食材は島で狩った動物で、コックの腕によってとても美味しい料理に代わっている。

「しかし、これは狩りすぎでは……」

「たくさん祝ってもらえてよかったじゃないか」

「あ、はい……」

 こんもりと重ねられた動物達を前に呟いたところでそう言われ、ナマエはそっと頷いた。
 キャンプファイヤーもかくやという大きさの炎が焚かれ、あちこちで海賊達が飲んで歌っている。
 時折乾杯の音頭と共に放られる祝福を受け止めて、そろそろ一時間。
 ナマエのすぐ傍にはレイリーと言う名の海賊が陣取っていて、先ほどからナマエは彼へ酌をしていた。
 この宴の主役は自分であった気もするが、盃を差し出されては注がないわけにもいかない。
 酒瓶から漂う香りですらも度数の強いそれで、それをあっさり水のように飲む男をナマエが見やると、ちらちらとその顔を焚火で照らした男の視線がナマエを見やった。

「なにか?」

「あ、いや……レイリーさんも狩り勝負とか好きなんだなと、今更ながら」

 ぽつりと言葉を放ってしまったのは、先ほどコックによって優先的に解体された動物が、この傍らの彼の戦利品であったからだ。
 連れて戻られたどれよりも大きい獲物に、珍しく負けたと船長が笑っていた。
 ついていくことすら敵わなかった狩猟勝負を思い出しているナマエの横で、ああ、とレイリーが声を漏らす。

「ここぞという勝負には本気を出すことにしているからな」

「へえ…………ここぞ?」

 相槌を零し、それからふと放られた言葉の違和感に首を傾げたナマエの目が、ぱちりと瞬いた。
 幼い様子にすら見えるそれを見やって、ふ、とレイリーの口元に笑みが浮かぶ。
 その手が手元の盃を持ち上げて、触れた唇が中に入っていた酒を舐めた。
 少し離れたところでは、大きな声で仲間達が歌を歌い、楽しそうに騒いでいる。
 その中にはバギーとシャンクスも混ざっていたが、バギーの方は少しばかり船を漕いでいた。朝も早かったのでそろそろ眠くなっているのだろう。
 船へ連れて帰ってやらないと、とそれを見やって立ち上がりかけたナマエの膝が後ろから叩かれて、かくんとその場に膝をつく。

「わっ」

「今日の主役はそこで大人しくしていろ」

 人のことを座らせて、そんな風に言い放ったレイリーが、離れた場所にいる仲間を一人呼んだ。
 そのままその手がバギーを示し、それを見た仲間が子供二人に声を掛ける。
 寄こされた言葉にバギーはいくらか抵抗したようだが、隣にいたシャンクスまでもが促して、船へ戻ることを決めたようだった。
 仲間の一人に連れられて船へ行く子供達を見送ってから、ナマエが改めてその場に座り直す。

「あの……引き留めるにしても実力行使はやめて貰えたら嬉しいんですが」

「口で言うより行動で示した方が理解の早い男がいるからな」

 この方が早い、と片手を持ち上げて揺らしたレイリーが、炎に照らされたその顔に笑みを浮かべる。

「誕生日おめでとう、ナマエ」

 手元の空になった盃を差し出しながら優しげな顔で言い放たれ、ありがとうございますと答えながら、とりあえずナマエはその空になった容器の中へ改めて酒を注いだ。
 宴はまだまだ続くようで、終わり際まで飲んでも、ナマエの隣にいる男が酔い潰れることは無かった。


end


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