子マルコと誕生日 2020
※『海賊王生誕祭/マルコ』のロジャー海賊団クルーであるトリップ系主人公と捏造少年マルコ(短編より前の話)
※ほんのりと捏造
顔を合わせれば喧嘩をするのが『海賊』の流儀だ。
どこで出会おうと大概それは変わらずに、今回もロジャー海賊団と白ひげ海賊団は随分と長く戦った。
いつもの通り最後は勝敗もうやむやになって、仲良く物資の『奪い合い』だ。
秋島を経由してきた俺達の船は普段より食糧が多くて、敵船の方は衣類と酒の類が多いようだった。
多いぞ少ないぞこれはどうだこっちがいいぞと声を掛けて物を差し出し受け取る様子は、もはやただのプレゼント交換である。
わいわい酒を飲み始めたみんなは大変楽しそうで、やれやれと肩を竦めてから、俺は船の方へとつま先を向けた。
「ナマエ!」
けれどもそれを呼び止めた高い声と共に、がしりと何かが足にしがみ付く。
おっと、と体が傾きそうになったのをこらえて、俺は自分の足元を見やった。
「元気だなァ、お前」
言葉を放った先には、俺の足に両腕どころか両足も回した子供がいる。
夜は休戦だったとは言え、三日も戦いそれぞれの仲間がそれなりに怪我もしたというのに、子供の姿は綺麗なものだ。
腕や手足の力も相当で、子供ってのは無尽蔵な体力を持っているんだなと、俺は少しばかりげんなりした。
ぎゅっと俺の足をとらえたままの子供が、そんな俺を見上げて少し不思議そうに首を傾げる。
「ナマエ、つかれてるよい?」
「三日戦って疲れてねえ海賊がいるか」
「オヤジはヘーキよい!」
むふん、と胸を張って言われるが、それで言えばうちの船長だって負けてはいない。今も元気に仲良く酒を飲んでいる。
俺は普通の人間なんだよとそれへ答えながら、俺は片手で子供の頭を押しやった。
しかし、俺の求めなんて気にした様子もなく両腕と足を動かした子供が、さかさかと人の体をよじ登る。
「あ、こら」
「ここにするのよい」
言葉と共に人の背中へ無理やり張り付いてきた子供に、お前な、と俺はため息を零した。
この子供は、白ひげ海賊団の人間だ。
誰の子供なのかも俺は知らないが、いつの間にかあのモビーディック号に乗っていて、たまに見かける顔だった。
出会うと声を掛けてくるようになったのは、いつだったかの島で船長達が飲み比べをした後だったろうか。
俺の何が気に入ったのかわからないが、マルコと言う名のこの子供は、俺を気に入ったらしい。
「ナマエ、これ、ナマエにやる」
人の肩にしがみ付いたまま、そんな風に言い放った子供の手が、俺へ何かを差し出してくる。
寄こされたそれを片手で受け取った俺は、それがどうやらネックレスの類であるらしいと気が付いた。
金細工に小さなガラスがはめられた飾りと、それをぶら下げる鎖だ。
「また随分いいもんを寄こしたな」
売れば酒代にはなりそうなそれを指でつまむと、きょうはトクベツよい、と俺の背中にしがみ付いている子供が笑う。
「だってナマエ、このまえタンジョービだったよい。〇がつの◇にち!」
「…………ん?」
にんまり笑いながら寄こされた言葉に、俺は少しばかり首を傾げた。
確かに、数日前にあった〇月◇日は、俺の誕生日だ。
ロジャー海賊団のみんながめでたいと祝ってくれて、ちょうど上陸していた秋島では随分と色んなものを食べた。
しかしそれは俺と仲間達の話であって、白ひげ海賊団の一員であるこの子供が祝うのは、おかしな話ではないだろうか。
そもそもなんで知っているのだろうか。
そんな問いを視線に乗せてしまった俺を見上げて、くふふ、とマルコが楽しそうに笑う。
「まえにナマエがいってたよい。ちゃんとかいといた!」
偉いだろうと言わんばかりの発言に、俺は何も言えなくなった。
本当に、なんでこんなに懐かれているんだろうか。まるで分からない。
しかし、寄こされた好意の塊を突き返すようなことも当然できず、俺はそっと手元のものをポケットへとしまった。
俺の趣味には程遠い装飾品だが、あとで『宝箱』にでも入れておこう。
「そいつはありがとうな」
「よい! タンジョービおめでとう!」
とりあえずの礼に、子供はとても嬉しそうな顔をする。
海賊船に乗っているくせに、こうしているとまるで普通の子供のようだった。
少し瞼の厚いその目が、それから少しだけ不思議そうな色を宿す。
「ナマエは、うたげはやらねェのかよい?」
「俺の誕生祝いはもう終わってるし、今日は船の方に用事があるんだ」
「めしよりだいじな?」
となりにすわるんだったのに、とよく分からない主張をする子供に、座るんなら仲間のところに座れよ、と俺は少しばかり呆れた。
片手をとりあえず背中の子供に添えて、落とさないように気をつけながらきょろりと周囲を見回す。
相変わらず、白ひげ海賊団は放任主義だ。
しかしちくちくと視線が刺さるのは変わらないので、俺が下手なことをすればひどい目に遭うだろう。これだけ仲間がいれば助けてもらえそうだが、『子供』にかわいそうなことをするなと、逆に怒られる可能性もある。
適当な相手に預けていくかと考えた俺の肩口で、何故だかマルコがすんすんと鼻を鳴らした。
「どうした?」
「ナマエ、ミルクのにおいがするよい」
「……あー」
人の肩を勝手に嗅いできた子供の言葉に、なるほど、と俺は声を漏らした。
不思議そうな目で先ほどの俺と同じようにきょろりと周囲を見回したマルコが、その目をこちらへ戻す。
「……ナマエはミルクのむのかよい?」
「なんでだ」
思わず問い返した俺に、だって匂いがしたから、とマルコが答える。
そうじゃねェよと俺が呟いたところで、海側から強い風が吹いた。
それと共に、ほんの少しだけ聞こえた泣き声に、おっと、と声が漏れる。
「起きたな、ありゃ」
「…………あかちゃん?」
遠いが確かな主張を寄こす泣き声に、俺にしがみ付く子供がぽつりと呟いた。
少し呆然として聞こえたそれに首を傾げつつ、俺は支えていた子供の体をするりと自分の背中からはがす。
掴んだ子供を下へ降ろすと、そこでようやく気付いたらしい子供が俺の腕を捕まえた。
「ナマエ、あかちゃんがいるのよい!?」
「いるっつうか……まあ……?」
先程より目を見開いている子供の言葉に、何と言ったらいいものかと首を傾げる。
ロジャー海賊団に赤ん坊がやってきたのは、つい最近のことだ。
落ちていたと子供を連れて帰ってきたのは船長で、犬猫を拾うように持ってくるなと怒っていたのは副船長だった。
子供が平気な奴らが世話をするのが殆どで、俺もそちらに入っている。誰が抱くより俺が抱いた方が泣き止むというのがみんなの弁だが、高くて怖いからじゃないかと俺は疑っていた。
赤ん坊がいるのに白ひげ海賊団と喧嘩を始めた時はどうなることかと思ったが、まあ何とか終わったし、これから行く冬島で赤ん坊が使えそうな毛布も手に入ったようだから、一応意味のある戦いではあったんだろう。
「だ……」
「だ?」
ぷるりと震えた子供の手が力を込めて、それに気付いた俺が逸らしていた視線を戻すと、どうしてだか目の前の子供が俺を睨みつけていた。
どうしようもなく傷付いた顔をして、鼻と言わず頬と言わず、丸みのある額まで真っ赤になっている。
目がうるりと涙を浮かべて、それが見えたのかそれともそれ以外の理由でか、近くにいた『白ひげ』の人間の気配が不穏になった。
どうしたんだ、と少し慌てた俺へ向けて、マルコが言う。
「だれのこよい!! マルがいるのに!!」
――――後に、まるで修羅場のようだったなと言って笑っていたのは、船長だった。
end
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