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昨日は、マルコの誕生日だったらしい。
俺がそれを知ったのは昨晩のことだったが、宴と言うのがかなり進んだ頃のことで、おめでとうを言うタイミングも逃してしまった。
そのことを少し後悔していたのか、俺は夢の中でもマルコに出会った。
おめでとうと言ったら、少し笑っていた気がする。多分全部、ただの妄想だ。
「今日の体調は?」
「あ、気分は……別に」
聞かれて答えると、ふむ、と声を漏らしたマルコが何かを紙に書き込む。
医者みたいだなとそちらを眺めてから、あの、と俺は言葉を零した。
「マルコさん、あの……」
「『マルコ』だ、ナマエ。昨日も言わなかったかよい」
「……マルコ、は」
声を掛けると遮られて、仕方なく言い直す。
どうも目の前の彼は、『さん』付けや敬語が嫌いらしい。
この海賊団は疑似家族のようなもので、家族になるのだから遠慮はいらないと、そう言われたのは昨日のことだ。船長は大男で、最終的には俺のことを『息子』にすると言ってくれた。
訳も分からない状況に一日置かれて、食べ物を食べられて、ようやく少しものが考えられるようになってきた今、この状況には疑問ばかりが沸いて出る。
「なんで、俺のことを?」
そもそも、この海賊団が島へ立ち寄ったのは、この航海の最中に決まっただけであるらしい。
ログポースとか言うのが良く分からないが、何か指標になるものがあって、それが行き先を決める。それはつまり、俺と出会ったのも偶然であるという意味だ。
けれどもマルコは、どうしてか俺を連れて帰った。
漏れて聞こえた話を何となく思い出した限り、わざわざ『俺』を探して、連れて帰った。
どうしてだろうかと見つめた先で、何だ、と声を漏らしたマルコが言う。
「あのまま拾われねえほうが良かったかよい」
「それは……感謝してるけど、でも」
逆に聞かれて答えながら、もごりと口ごもる。
なぜ、の答えは貰えないのだろうか。
俺はどうして、ここにこうしているのかも分からない。
自分の日常への帰り方すらもだ。
「どうして」
吐き出した声は疑問と言うには少しとげとげしく、それに気付いて口を閉じた俺の前で、ふ、とマルコが息を吐く。
ため息のように聞こえたそれに逸らしかけていた視線を戻すと、どうしてだか目の前の相手が笑っていた。
「まァ、おいおいな」
しばらくは悩んでろって言っただろよい、と続いた言葉に、昨日言われたことを思い出す。
『ま、今日から十日は悩んどけ』
あの時俺の兄貴分でもなかったはずなのに、『弟を助けるのは兄貴の役目だ』なんてわけの分からないことを言っていた海賊は、なんだか少し楽しそうだった。
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