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わるいひととなかよし (1/2)
※『わるいひとシリーズ』のトリップ系少年とドフラミンゴ
※しかしクザ誕
※意味怖的にほんのりと人が死ぬ表現があります注意



 ナマエがそれを知ったのは、ただの偶然である。
 来月に迫ったドンキホーテ・ドフラミンゴの誕生日、今年もまたプレゼントに頭を悩ませながらも、ナマエはドフラミンゴと共に海へ出た。
 王下七武海と言うものは、海軍政府に認められる代わりに、いくらかの『収穫』を政府へ納めるのが決まりだ。
 だからその分は働かなけりゃなと言いながらドフラミンゴは楽しそうに『悪いこと』をしていて、ナマエもそれを手伝った。
 もちろん、いくらか大きくなったとは言えナマエのできることなど限られているが、それでもナマエは間違いなく『悪いこと』を手伝った。
 世の中の人間がナマエのそれに眉をひそめたとしても、ドフラミンゴが機嫌よく笑っているのなら、ナマエは何も構わない。

「あららら……こいつァまた、派手にやったもんだ」

 チリリリン、と自転車のベルを鳴らした男が海上に立っていると、最初に気付いたのは見張り台にいたバッファローだった。
 船を引き留めた氷が海面を覆っていて、ドフラミンゴによって無惨に切り裂かれたガレオン船は、崩壊を無理やりつなぎとめている糸ごと霜が降りている。
 ドフラミンゴの『仕事』の帰りがけ、目の前を横切ったからついでに、というなんとも不運な理由で襲われたその船は海賊船で、船員は王下七武海を前に、素早く船を捨てて逃げ出していた。船長は見当たらないが、そもそもいたのかどうかも分からない。
 少し離れたところで、海面の氷に捕らえられた小舟の住人達が慌てているのが見える。

「フッフッフ! なんだクザン、手伝いに来たってか?」

「イジメをやってるみてェだから様子を見に来たら、どっちも黒旗だから呆れたとこだよ」

 冷気を蹴飛ばすようにふわりと海面へ降り立ったドフラミンゴが、体を糸で浮かせながら海軍大将青雉と対面する。
 その向かいでやれやれと肩を竦めた青雉は、いつものコートを着ていなかった。

「海軍の軍艦なんてなかったのに、あいつ、どっから来たんだすやん?」

「青雉は自転車があるから、海の上のどこにでも行けるんだよ」

「自然系は反則だすやん……」

 ひそひそと話したナマエの横で、バッファローが世の不条理を嘆くようにため息を零した。
 すぐ傍にはディアマンテが立っていて、ドフラミンゴと対峙する青雉を睨みつけているようだ。
 すぐに下へ降りないのは、先ほどドフラミンゴが命じたからだろう。ハンドサインを受けて、他の仲間達は敵船から宝を運び出す『仕事』を続けている。
 自分もそちらへ加わりたいと思ったが、ナマエはそれを禁じられていた。
 敵船は崩壊するところをドフラミンゴの『糸』で留められていて、もしもナマエがその糸に触れてしまったら、強固さを失った糸が千切れる可能性があるからだ。
 今は船底を氷が支える形になっているが、それがどれだけの支えになっているのかも分からない。
 荷運びくらいは出来ると思ったのだが、持ち帰られた荷物は大体が重たくて、ナマエ一人では引き摺っても運びきれなかった。いつの間にか船に乗っていた玩具達の方が、荷運びの役に立つ。
 結局ナマエに出来ることといえば、ただ船首のそばからドフラミンゴ達の様子を見守ることくらいだ。
 青雉に対峙するドフラミンゴは、楽しそうに笑っている。
 対する青雉は無表情だが、ひょっとしたら仲がいいのかもしれない。

「この後は海軍本部だ。ついでだ、乗ってくか?」

「海兵が、海賊の船に?」

 そいつァ大問題だなと呟く青雉に、今更問題行動の一つや二つ構わねえだろうとドフラミンゴが笑う。

「明後日はお前ェの『オタンジョウビ』だろう? ケーキの一つでも振舞ってやるよ」

 でかい蝋燭でも立ててやろうと続いたドフラミンゴの言葉に、ナマエはぱちりと目を丸くした。
 対面する青雉と言えば、何故だかとても嫌そうな顔をして眉を動かしている。

「……そう言う情報まで耳に入れてんのか。無駄でしょうや」

「フフッ! 情報は『力』だ、何が役に立つかは状況で変わる」

 大抵のことはここに入ってるさ、とドフラミンゴがその長い指で自分の頭を示したところで、少し高い笛の音がした。
 驚いてナマエが見やれば、大きな宝箱を運んできたらしいベビー5が、その手でつまんだ笛を吹いている。合図だ。
 それを聞いたドフラミンゴの体がふわりと浮き上がり、彼と同じく機嫌のよいフラミンゴの船首の上へとその足を下した。

「交渉は時間切れだな。ほうら、刻まれる趣味がねェんなら道をあけな」

「退けって?」

「納金に行く『王下七武海』を、まさか『海軍大将』が止めやしねェだろう、クザン?」

 ほとんど真上から男を見下ろして笑ったドフラミンゴに、やがて海軍大将青雉はため息を零した。
 その片手が大きく振り上げられて、ほとんど平らだった海面の氷に氷柱が立ち上がる。
 すぐそばで崩壊寸前だったガレオン船を貫き、ヌマンシア・フラミンゴ号の周囲を固めるように作られたそれに一度仲間達がざわついて、けれどもドフラミンゴが片手を使ってそれを制した。

「相変わらず、弱ェもんの味方だなァ」

 『正義の味方』ってのは大変だなと嘲笑うドフラミンゴに、そうでもねェよと言い返した青雉が改めて自転車のハンドルを握る。

「ま、好きにすりゃいい。おれには関係の無いこった」

 そんな風に言いながら、青雉が漕ぎ出した自転車が、自分で敷いた氷の上をすべるように走っていく。
 囲い込む氷の壁を迂回するようにしながら走っていくその自転車に、ナマエはそちら側に何があったのかを思い出した。
 氷に貫かれた敵船の向こう側には、先ほど逃げ出していったあの海賊船の船員達がいる。
 氷に囲まれてしまって動けなくなった小舟がどうなったのかを見ていないし、氷壁ですでにその姿も確認はできない。
 首を伸ばしてそちらを見やったナマエをよそに、ドフラミンゴが大きく身振りした。
 すでに氷柱に貫かれてガラクタ同然だったガレオン船が、音を立てて崩れていく。
 日差しでわずかに光ったのは、ドフラミンゴが操る糸だろう。
 目にもとまらぬ細さのそれがさらにふるわれて、海の上の氷が割かれる。
 一度、二度と切り裂かれたそれらは等間隔に細切れになり、真下にあった海がざばりとしぶきを上げた。
 あっと言う間に船の周りから氷が外れて、ヌマンシア・フラミンゴ号がゆっくりと前へ進み始める。さすがに氷壁は厚かったのか、そちらは少し削れただけだった。

「あいつもツメが甘ェな。トレーボル」

「べへへへへ!」

 声を掛けられて笑ったトレーボルが、いつの間にやら持っていた麻袋をぽいと海へと放り投げた。
 小脇に抱えられる大きさのそれは少しじたばたと動いていたが、氷にぶつかってそのまま海へと沈んでいく。
 中身は何だったんだろうとナマエは少しだけ考えて、どうでもいいことかとすぐに思考を放棄した。
 それよりも、するりと甲板へ戻ってきたドフラミンゴの方が大切だ。

「ドフラミンゴ、お帰りなさい」

「ああ」

 ナマエの言葉に返事をして、ドフラミンゴの手がひょいとナマエを持ち上げる。
 ナマエだって育ったはずだというのに、相変わらずその身はドフラミンゴの片手に支えられる大きさだ。
 いつかはドフラミンゴを同じように抱き上げてみせると思っているのだが、ナマエにはまだまだ成長が足りないらしい。

「このまま海軍本部に行くの?」

「まァな、面倒なことはさっさと済ませるに限る」

 ついでにマリンフォードでも観光するか、と笑ったドフラミンゴに、うん、とナマエは頷いた。






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