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少年バギーとトリップ主の仮装大会
※少年バギー注意
※主人公はトリップ主
※なんとなく『海賊王生誕祭/バギー』と同設定



 島をあげての仮装大会が行われている、とナマエ達が知ったのは、昼頃だった。
 祭りとなればロジャー海賊団がそれに参加しないわけもなく、島へ降りてすぐに適当な仮装をして出かけたクルーもいれば、浮かれた仲間達に笑って同じく島へ降りて行った者もいる。
 そうしてバギーと言う名の少年は、そこそこの額のベリーが『賞金』として掲げられていると知ってから、すぐさま近くに居た男の裾を掴んで引っ張った。

「派手に優勝するぞ、ナマエ!」

「張り切ってるなァ」

その手で拳を作った少年を前にしてそんな風に言いながら、しかしナマエはバギーが服を引っ張って歩き出すのに逆らわなかった。
 それに気分を良くして倉庫に連れ込んだバギーが、さて、と倉庫のあちこちに置かれている物品を眺めて思案する。
 さすがにすべてを倉庫の物で補えるわけもないのだから何か買い足す必要があるだろうが、出費は必要最低限に抑えたいものだった。バギーの『貯蓄』はそこそこの金額がたまってきているが、何せ先日『大損』をこいたばかりなのだ。

「何をすりゃァ優勝できると思う?」

「やっぱり、すごく目立って注目される格好がいいんじゃないかな」

「やっぱそうだよなァ」

 バギーへ言葉を返したナマエが倉庫の端の箱を漁るのを横目に捕らえつつ、バギーも頷いた。
 ハロウィンと呼ばれるこの日、バギーとしてもそれにちなんだ格好をしたいところだが、船から島を見やった中でも魔法使いや狼男と言った分かりやすい格好は溢れていた。あれでは目立つことなど出来ないだろう。
 もっと奇をてらったものが良いのか、しかしあまりにも『ハロウィン』の雰囲気とかけ離れては優勝が遠のくのではないか。

「……ん〜……」

 厚みのある唇を軽くへし曲げ、眉間にしわを寄せて唸ったバギーの耳に、がしゃん、と派手な音が響く。
 唐突なそれにびくりと上に跳ねてしまったバギーは、慌てて音の出所へその顔を向け、思い切りものにまみれてしりもちをついている犯人に素早く詰め寄った。

「何を派手に倒してんだ、すげェ音だったじゃねェか!」

 びっくりしただろうと怒りながら、バギーの手がさっさと男が抱えるようにしていた物品たちを奪い取る。
 ナマエと言う名の彼は、かつてバギーが見つけた漂流者だった。
 出会い頭にバギーの赤い鼻を引っ張ったとても失礼な奴だが、自分がどうしてグランドラインにいるのかもわからないと言って困惑をその顔に浮かべたナマエは、まちがいなく困っていた。
 あまりにも哀れな、縋るような眼差しに見捨てておけなくなったバギーが船へ連れて帰って船長たちに頼み込んだあの日から、ナマエはロジャー海賊団のクルーである。
 バギーより幾分年上のくせに頼りになるようで頼りなく、ナマエを構ったり面倒を見るのはバギーの仕事だった。
 バギーが独立した暁には、最初のクルーとして連れて行ってやるつもりでいる。バギー自身はそう宣言してはいないが、ナマエもそのつもりだろう。

「ん? 鎧?」

 ガシャガシャと音を立てながらナマエの上からどかしたものを箱へ放り込んだところで、それが何なのかに気付いてバギーが丸い目を瞬かせる。
 そうそう、とそれへ頷き、ひょいと立ち上がったナマエが、今度は慎重に手を動かして、箱の中身の一つを手に取った。
 少しサイズの大きいその防具は、確かに鎧の一部分だった。
 つい先日、海の上をさ迷っていた無人の船からロジャー海賊団が失敬したものだ。
 どこそこの国の騎士団のものだと教えてくれたのは副船長だったが、あまり値打ちが無いらしいそれの評価はバギーの中では低く、もはや国名すら覚えていない。
 なんでそんなものをと首を傾げたバギーの前で、ナマエがそれをバギーのほうへと差し出した。

「仮装するならこれがいいんじゃないか」

「ん? おれに騎士の恰好をしろって?」

 確かにそれは格好いいだろうが、ただ騎士の姿をしただけではまるでハロウィンらしくない。シーツでもかぶって『オバケ』のフリをした方がまだいいのではないだろうか。
 バギーの言いたいことが分かったのか、ちゃんとハロウィンぽくなるからさ、と微笑んだナマエの手が鎧を改めてゆっくりと箱から取り出していく。
 途中でバギーの方へとそれが押し付けられて、両手で抱えながらバギーが怪訝そうな顔をナマエへ向ける。
 やがて最後に兜を取り出し、それをぽんとバギーの頭の上へと乗せてから、ナマエの両手がバギーの頭に触れた。

「だってほら、この前、悪魔の実の能力者になっただろう?」

 あれを使わない手はないと思うんだ、と言葉を紡いだナマエは、なんとも楽しそうだった。







「くすぐってェぞ、ナマエ」

「もう少し、もう少し……ほら、出来た」

 顔に絵の具を塗りたくられて眉を寄せたバギーからの言葉に言い返して、最後の一筆を終えたらしいナマエがまんぞくげな顔をした。
 終わったよ、と言いながら片手がバギーの肩に触れるのを見上げて、バギーの意識が自分の体を動かす。
 横倒しになった視界ではいまいち方向感覚がつかめず、両手で持っていた時分の頭の向きを直したバギーは、ナマエが用意した姿見の中にあった自分の姿に、おお、と感嘆の声を上げた。

「こいつァ派手にイケてるじゃねェか!」

 にかりと笑ったバギーの視界に入ったのは、鎧を着込んだ首のない騎士と、その両手が持ち上げる浅い兜の中の、血まみれのメイクを施された人間の頭だった。絵の具が少しばかり兜や掌側に移っていて、より一層血まみれに見える。
 バギーの喜びを反映させたように体が胸を張り、それから右や左へと傾いて姿見の中の角度を変える。
 鎧の中に入っているのはバギーの体なのだから、バギーの思い通りになるのは当然だろう。
 バギーには少し大きいものだったが、バラバラの実の能力者に掛かれば、ある程度のサイズ調節など簡単なことだった。
 売るつもりだった悪魔の実を不慮の事故で口にしてから、仕方なくいくらかやってきた練習も役に立つ時を迎えたらしい。

「きっと、これなら優勝できるぞ」

 自信をもって言葉を放つナマエに、そうだな! とバギーも答える。
 頷こうとしたが頭は手の上にあったので、とりあえず両手でこくりと頭を動かした。
 こんな姿、バラバラの実の能力者でもなければできないものだ。生首を抱えた首のない騎士など人の目を引くに決まっているし、鎧自体は本物だから本格的だ。

「サーベルでも腰につけてった方がいいんじゃねェか」

「いや、でももし歩きながら転んだら危ないから」

「おれが転ぶわきゃねェだろうが!」

 何を言ってるんだ、とぐいんと体をうごめかしたバギーは、そこでぐらりと足元がふらついたのに『あ』と声を漏らした。
 バランスを崩した体が傾き、慌てて目を閉じたところで、正面からがしりと支えられる。

「慣れてないんだから、ゆっくり動かなきゃだめだ」

 優しくそんなことを言いながら、バギーの姿勢を直させたのはナマエだった。
 大人ぶったその顔を見上げてしまって、バギーはむっと眉を寄せる。
 いつもならへまをしたナマエを助けるのがバギーの役目だというのに、なんだか少しあべこべだ。
 しかし確かに、首を手元に置きながら素早く動くというのは、なかなかに難しそうだった。視界が揺れすぎると酔ってしまいそうだ。
 転んでサーベルで鎧に傷をつけてしまったら、いくら何でも怒られてしまうだろう。

「……仕方ねえ、サーベルは諦めてやる」

 納得して答えたバギーの横で、それは良かった、と笑ったナマエがひょいと籠を掴み上げる。
 中身が空っぽの小さなそれは、島の仮装大会に参加するための道具だった。
 あちこちの家々を回って菓子を脅し取りながら、素晴らしい仮装を見せびらかして歩くのだ。

「ナマエは仮装しねェのか?」

「俺は籠係がいいな」

 バギーの分をしっかり持って歩くから、と答えたいつもの姿のナマエに、ふうん、と声をもらしたバギーは、まあいいか、と一人で考えた。
 さすがにナマエの首は外れないし、バギーと同じ姿にはなれない。
 それに早く降りなければ、仮装大会の優勝を逃してしまうかもしれない。

「よし、じゃあ派手に行くぞ!」

 気合を入れて拳を握ったバギーに、おー、とナマエが同じく拳を握る。
 そうしてガシャガシャと音を立てて歩き出したバギーは、ナマエという供をつれて、颯爽と島へと降り立った。
 島民に悲鳴をあげられて、それから『仮装』だと気付いて笑われたり不思議そうにされたりするハロウィンの一晩は、なかなかに楽しいものだった。
 しっかりと優勝まで勝ち取ったバギーが見やった先で、ナマエが満足そうな顔をしていたので、きっとナマエも楽しんだのだろう。


end


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