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強制エンカウント (1/2)
※『おてがみ』シリーズ
※2年後時間軸捏造(たぶんパンハ前)
※基本的に麦わらの一味
※いつの間にかキャメル合流済



「お?」

 青い海が広がる彼方、新しく作った単眼鏡を試していたウソップが、そんな風に声を漏らした。
 さらに『ん〜?』と唸る様子に、それを見上げていたトナカイ船医が首を傾げる。

「ウソップ、どうしたんだ?」

 何か見えるのか、おれにも見せてくれとぴょんぴょん飛び跳ねだした仲間に、おうちょっと見てみろよ、なんて言いながら手を伸ばしたウソップが、自分より小さなチョッパーをひょいと抱えた。
 持ち上げられたまま渡された単眼鏡に片目を当てて、チョッパーもまた狙撃手が見ていたのと同じ方向を見やる。

「……あれ?」

 そうして、先ほどのウソップと同じように、その口から不思議そうな声が漏れた。
 久し振りに安定した海域に入ったためか、サニー号が進む海原はすっかり平穏そのものだ。
 もちろん気象が変わりやすいのも新世界の特徴であるのだから安心はできないが、甲板で日光を浴びてのんびりしている航海士も何も言っていないのだから問題はないはずである。
 しかし、チョッパーとウソップが見やった彼方には、少し不思議なものがあった。

「…………ペンギン?」

「それにしちゃでかくねえか?」

 単眼鏡から顔を離して、船医と狙撃手がそろって顔を見合わせた。
 ほかほかと日光を浴びながら昼寝をしている巨大なペンギンが、この陽気ではある筈もない氷の大地に寝そべっているのである。
 とても気持ちよさそうな様子だが、島すら見当たらぬグランドラインの海原には似つかわしくない光景だ。
 例えばどこかで氷山から氷ごとはぐれてしまったのかとも思ったが、それならばもう少し不安そうにしているはずだ。昼寝をしているだなんて落ち着きすぎている。
 それともまだはぐれたことにも気付いてないのだろうか、なんてことを考えたチョッパーの横からひょいと手が伸びて、チョッパーの手にあったウソップ特製の単眼鏡が奪われる。

「んー? なんだあれ、でっかい鶏肉だな!」

 どうやらチョッパーとウソップのやり取りに気をひかれてきたらしい麦わら帽子の船長が、そんな風に言いながら彼方を見やった。
 瞳を輝かせているルフィを見やって、おいおい、とウソップが声を漏らす。

「ルフィ、お前あれ食うつもりかよ」

「あいつ、群れからはぐれちゃってるのかもしれないぞ」

 哀れなペンギンかもしれないとチョッパーが訴えるのを聞いて、船長は軽く首を傾げた。
 それから少しだけ考えるそぶりをして、よし、と一つ頷く。

「それじゃあ、近寄ってみるか」

「近寄るのかよ! あんなにでっけェんだぞ、凶暴なペンギンだったらどうすんだ!」

「そしたら食う!」

「えー!」

 慌てるチョッパーとウソップを相手ににししと笑って、ルフィはそのまま後ろを向いた。

「おーい、ナミー」

 そのまま甲板でチェアに寝転んでいた航海士へ近寄っていく船長を見やり、慌てて顔を見合わせたウソップとチョッパーが、それからそろって彼方を見やる。
 どうしよう、どうする、なんて言葉がお互いにその口から洩れて、困ったような視線はそのままペンギンのいるほうへと注がれた。
 偉大なる航路の海にいる生き物には、幾度も襲われたり叩きのめしたりしながら進んできたのだ。
 あのペンギンがそういった『害意のあるもの』ではないと、どうして言えるだろう。

「……あいつ、気付いて逃げてくれねェかな」

「いやでもよ、気付いて襲ってきたらどうする?」

「べ、別に怖くはないけど、サニー号に何かあったら困るよな?」

「もも、もちろんこのおれ様がいるんだからそんなことある筈もねェ、けど、万が一って話だよな」

 ひそひそと言葉を交わす二人の後ろで、ルフィの提案を聞いたらしい航海士が『何言ってんよ』と声を上げる。
 しかしながら、航海士がどれだけ言おうとも結局は船長の言う方向に船首が向くことくらい、チョッパーにもウソップにもわかりきったことだった。







 ペットや仲間といった動物を船に乗せて海を渡る『海賊』や『海兵』、そして『船乗り』は多いだろう。
 しかし、船も持たずに動物を連れてグランドラインを行く人間は、そうはいないのではないだろうか。

「あららら……何してんの、おたくら」

 サウザンド・サニー号が近寄るのに気付いたらしいペンギンが目を覚まし、大きなその体が起き上がった向こう側から顔を出した大男に、船の上の人間のうちの半分がその目を見開いた。
 帽子にサングラス、氷の大地に立つにはふさわしいコートを着込んだくせに胸元の随分開いたシャツを着こんだその人間が、なんという名前かを麦わらの一味は知っている。
 何もかもを凍らせる氷結人間は、麦わらの一味が初めて遭遇した『海軍大将』だ。
 その強さも恐ろしさも十分によく知っている麦わらの一味にとって、今はもはや『海軍大将』でもない『青雉』は、恐怖とはまた別の意味で特殊な人物の一人だった。

「……あ〜! 『青雉』!」

 その二つ名を呼び、麦わらのルフィがその目を輝かせる。
 わずかに身構えた剣士やコックを置いて、いち早くぴょんと船を飛び降りたその体が、氷の大地に降り立つ。
 足元が濡れていたのか、滑った拍子にたたらを踏んで踏みとどまり、ルフィは正面から『青雉』と呼んだ男を見上げた。

「ひっさしぶりだなァ!」

「そっちも相変わらずみてェで」

 朗らかに言葉を放つルフィに軽く頭を掻いて、噂を聞いたよ、と『青雉』が相手を見下ろす。
 吹いた風が冷たさを孕んでいるのは、その足元の氷が原因であることは明らかだった。
 ルフィのおおよそ倍の大きさを持つ『青雉』の後ろには、そんな彼よりもさらに大きなペンギンがいる。
 警戒するようにルフィを睨み付け、その体に隠れていた大きな荷物を隠すようにしながら、ちらちらとサニー号を気にしてくちばしの赤みを増したペンギンに、笑みを零したルフィが軽く手を振った。
 何してんの、とそれに呆れてから、『青雉』が言葉を落とす。

「それで、何か用事でもあんの?」

 問いかけながら、何の用事もないならさっさとどこかへ行け、という態度を崩さない『青雉』が、少しだけ足場を移動した。
 まるで何かをルフィの視界から隠そうとするようなそれに、気付いたらしいルフィが首を右へ傾ける。
 それに合わせて『青雉』が左へ移動し、逆へ首を傾ければまた逆へ移動した大男によって視界を遮った。
 数回に分けての攻防の後、改めて不思議そうな顔をした麦わら帽子の海賊が、軽く頭に手をやりながら言葉を零す。

「何してんだ? こんなとこで」

「……何って、そんなのおたくらには関係の」

「クザンさん……?」

 そっけなく返されるところだった『青雉』の言葉を、遮ったのは大男の後ろ側から洩れた声だった。
 それが聞こえたルフィの前で、ややおいてため息を零した『青雉』が、ちらりと後ろを振り返る。
 それに合わせてルフィもまた、『声』のほうを覗き込んだ。

「いいタイミングで起きるねェ、ほんと」

「……あれ? 船……って、ライオン?」

 声を零しつつ、ごしごしと目元をこすってひょこりとペンギンの横から顔を出したのは、ペンギンに比べてあまりにも小さな青年だ。
 体のほとんどが寝袋に入っていて、防寒対策はばっちりなようである。
 そして、会ったこともないはずのその顔を、ルフィは知っていた。

「あ! ナマエ!」

 びしりと指さしてその名を呼んだルフィのそばで、やっぱり知ってんのか、と『青雉』が声を漏らす。
 名前を呼ばれた青年のほうは、ぱちぱちと瞬きをしてから、『ルフィだ』、とどことなく嬉しそうな声をその口からこぼしていた。






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