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お気楽のすすめ (2/2)

 掌の上のそれは、見た目からして飴の包みだった。一つの包みに小さな丸い粒が二つ入っているフルーツ味で、どこにでも売っている。ロシナンテ自身も昔はよく食べていたものだ。
 それがどうしたのかとロシナンテが見やると、ナマエは少しだけつまらなそうに口を尖らせた。

「アメくれた。コドモあつかい。オレもうわかくないのに……××××?」

 ロシナンテの知らない言語を交えながら、どう見ても子供が拗ねているような顔で寄越された発言に、在りし日を思い出したロシナンテが噴き出しかけた口元を押さえて顔を伏せる。
 そういえば、小さなロシナンテの口に入っていた飴の出所は、大抵とある海兵のポケットだった。
 いつも同じ味だったが、あまり甘いものを口にしない彼がロシナンテの為に買ってくれているのだと思えば嬉しかった。
 ロシナンテもすでにちゃんと海兵として働けるようになり、久しく飴など貰っていなかったが、どうやらロシナンテの『親』代わりであったかの海兵は、ロシナンテが拾った目の前の青年も可愛がるつもりらしい。
 一体ナマエをいくつだと思っているのか分からないが、自己申告の年齢よりも随分と若く見えるナマエの外見のせいもあるのだろう。

「ロシナンテさん?」

「……あの人なりの贈り物なんだ。おれも昔はよく貰っていた。怒らず食べてあげてくれ」

 ひとまず弁護を口にして視線を向けると、ナマエは少しばかり首を傾げた。
 少し考えてから、んん、と声を漏らして、その手がひょいと自分の掌の上にあった飴の包みをつまみ上げる。
 両手で丁寧に包みを開いて、飴を取りやすいようにしてから包みを自分の掌へと戻し、あいた手が中からのぞく一粒をつまんだ。

「じゃあ、ハンブンで」

 はいドウゾ、とロシナンテの方へ包みを乗せた手を差し出しながら、つまんだ一粒を口へ入れたナマエが笑う。
 少し目を瞬かせてから、ロシナンテもわずかに笑みを浮かべて、ありがたく包みを受け取った。

「ありがとう、ナマエ」

 礼を言えば、ナマエは嬉しそうな顔をする。
 どうにもナマエは、不思議な雰囲気の青年だった。
 どこから来たのかも分からず、つまりはいつ自分が元居た場所に帰れるのかも分からないのに、焦っている素振りすら見せない。
 周りに慣れようと努力していて、一か月である程度の会話は交わせるようになった。
 一度だけ、不安にならないのかと尋ねたロシナンテに返された答えを、ロシナンテは思い出す。

『マイニチたのしーほうが、いいよ』

 あっさりと笑って言い放ったナマエの考え方が民族的なものなのか持ち前の明るさからくるものなのかは分からないが、確かに、日々を鬱々と過ごしていても仕方のないことだ。

「そうだ、今日の夕飯を誘いに来たんだった。予定がなければどうかと思って」

「ゴハン? いく、ダイジョーブ」

 飴をつまみながら尋ねたロシナンテへ、ナマエが弾んだ声を出す。
 嬉しそうに笑う相手に自分も穏やかな気持ちになりながら、一粒の飴を口へと放り込んだロシナンテは、勢い余って喉奥まで転がったそれに盛大に咳き込んだ。
 慌てたナマエに背中をさすられて、少しばかり恥ずかしかった。



end


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