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お気楽のすすめ (1/2)
※海兵ロシナンテとトリップ主人公(無知識)
※ワンピース内での言語が日本語ではないという設定
※主人公の喋り方がカタコト気味



 ロシナンテがその青年を浜辺で拾ったのは、海軍の演習中のことだった。
 自分たちの行った攻撃がどういった被害を及ぼすかを確認させるという目的のあった無人島周辺での演習で、島の崖下に位置する砂浜を巡回するのがロシナンテの担当だ。
 砲弾の流れ弾で砕けた岩を見やり、どういった状況か報告できるよう手元のメモにいくらかの情報を残しながら歩いたロシナンテは、足元の柔らかいものに気付かず思い切りそれを踏みつけて転んだ。

「いっ!」

 声を漏らしながら、どうにか受け身を取って岩の破片が散らばる砂浜に転んだロシナンテは慌てて起き上がり、自分が踏んだものを確認した。
 そうして、そこに倒れていた青年の姿を見つけて、目を瞬かせる。
 砂浜にうつ伏せで倒れている青年はロシナンテよりも小さく、一般人としては標準の体付きだ。その肩口には靴跡があり、自分が踏んだ相手だということを把握して慌てたロシナンテは、それからそこがどこなのかを思い出して顔を真っ青にした。
 この島は、海軍の記録によれば『無人島』だ。
 演習の前に軽く確認はされたが、その時も原住民や大型の動物がいると言った報告はなかった。
 だからこそ海軍の軍艦はつい先ほどまで遠慮なく砲弾を撃ちあい、今はこうして『被害状況』の確認をしている。

「…………おい!」

 どこからかの漂流者が、それに巻き込まれてしまったのか。
 そんな想定に青ざめながら、ロシナンテは這うようにして倒れている青年へと近寄った。
 体にかかっている岩の破片を払ってやりながら、外傷がないことを確認しつつ、起きろ、と言葉を放つ。
 頭を打ったのだとしたら揺らさないほうが良いのか、このまま軍医を呼んでくるべきかとぐるぐると悩んだロシナンテの目の前で、ぎゅっと青年が眉を寄せた。
 小さく声を漏らして、それからようやくその瞼が開かれる。
 ロシナンテよりも随分と年下に見える相手に、大丈夫か、とロシナンテが声を掛けると、何やら不思議そうに青年はロシナンテを見上げた。
 ゆっくりと起き上がり、じっとロシナンテを見つめた青年の頭が、右に傾く。

「…………××××?」

「…………え?」

 そうして、青年の漏らした言葉らしき音の羅列の聞き慣れなさに、ロシナンテも青年と同じ方向へ首を傾げた。







 言葉の通じぬ青年は、ロシナンテの予想通りどうやら漂流者であるらしい。
 公用語すら使わないままで文明の発達した島がグランドラインにあるのかどうかは、ロシナンテには判別がつかない。
 ひょっとしたら空島の人間かと確認されたが、青年の体は青い海の上に生きる他の人間達とほとんど同じだった。
 ひとまず海軍によって保護された彼は、移民として登録されてマリンフォードへと連れて帰られた。
 どうにか聞き取れた名前は『ナマエ』で、身元を保証する人間の欄にはロシナンテの名前が記されている。
 それはロシナンテが彼を発見したからで、かつてロシナンテを拾い育ててくれた海兵の勧めもあってのことだった。
 元『身元不明』である自分が誰かの身元を保証する人間になるだなんて、ロシナンテには想像もできなかったことだ。

「あ、ロシナンテ、さん」

 三日ぶりに顔を出した店で、店先の掃除をしていた青年がロシナンテに気付いて笑顔を向けた。
 海軍御用達の雑貨店に彼が雇われたのは、マリンフォードで暮らしていくと決まって五日目のことだ。
 かつてロシナンテがそうされたように、ロシナンテは彼の面倒を逐一見ていくつもりだったのだが、その話をしたときにナマエが『自立したい』と頑なに言い張ったからだ。
 ナマエはまるで言葉は通じなかったが、どうやら書き文字ならある程度理解できるらしい。
 書いた文字を読み上げる時の言葉もロシナンテ達にはまるで通じぬものだったのだからおかしな話だが、お互いに文字である程度の会話は出来るので、確かに右も左も分からぬ幼子を保護するように扱う必要はない。
 それならばと用意されたこの働き口は、恐らくロシナンテの『親』代わりの海兵が手を回してくれたものだ。
 家は雑貨屋の隣の建物の二階で、日当たりが良くて気に入っている、とナマエは先日たどたどしく言葉を綴っていた。

「どうぞ、こっち」

 働き出してからすでに一か月、慣れた様子で箒を片付けながら店先に置いてあるベンチを指で示されて、ロシナンテはひとまずそこに腰を下ろした。前に一度後ろ向きにひっくり返ってからというもの、ベンチはしっかりと壁に沿う形で固定されている。

「いらしゃいませ、こんにちは。ナニかゴイリヨーですか?」

 店主から習った言葉を滑らかに紡ぎながら、ナマエが出口側の棚からひょいと箱を一つ手に取る。
 それはロシナンテが好んで吸うようになった銘柄の煙草で、ロシナンテが頷くと、嬉しそうに笑ったナマエがそれを紙袋へと入れてからロシナンテの方へと運んだ。
 いつもの金額を支払って紙袋を受け取りながら、ロシナンテがナマエを窺う。
 ベリーを受け取ったナマエはすぐに店の中へと入っていき、それからまたすぐにロシナンテの傍へと戻ってきた。

「もう随分様になってるな、ナマエ」

 制服として扱っているらしいエプロン姿の相手に言うと、何度か言われたことがあるのか、はいオカゲサマで、とナマエは妙に流暢な返事を寄越した。
 その小さな体がロシナンテの傍らに座り込んで、隣から小さな目がロシナンテを見上げる。

「ロシナンテさん、ゲンキそう、よかった」

 穏やかな声でそういう相手にありがとうと笑って、ロシナンテが軽く片手を動かす。

「最近、何か変わったことはなかったか?」

「かわった、こと……んー、おおきいヒト、きた」

 こんな、と両手で大きさを示しているが、座ったナマエが記した大きさはロシナンテとそれほど変わらない。
 おれくらいか、と頷いたロシナンテに、眉を寄せたナマエはベンチから立ち上がり、ロシナンテの前に立ってからロシナンテの少し上あたりを示すように両手を動かした。

「これくらい」

 頭が大きかったから、と言い放ったナマエの手が、今度は自分の顎や目元を示す。

「ひげみつあみで、メガネまるいの。カイヘーさん?」

 コートを着てたからと笑うナマエの言葉に、思い当たる人物が一人いる。
 しかし、随分な肩書となった誰かさんがまさか自分から雑貨店に足を運ぶとは考えにくく、微妙な顔をしたロシナンテの前で、そうだ、とナマエが軽く手を叩いた。
 その手がそのままエプロンのポケットへと入り込み、出てきたものをロシナンテへと差し出す。



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