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惚れてんだよ気付け馬鹿 (1/9)
※暴力表現あり
※名無しオリキャラ注意
※企画提出作品
※NOT異世界トリップ主はCP9



 おれとカクは、とても仲が悪い。

「カクのばーか!」
「うるさいわい! ガキのような口ばかり叩きよって!」

 相手の拳をいなしながら相手を罵ると、イラ立ちで顔をしかめたカクの蹴りがこちらの腹をめがけて放たれた。
 慌てて鉄塊を使ったが、腹立たしいことにめり込んだ足の勢いに負けて体が後ろに滑る。
 演習場のあちこちがえぐれているのはおれ達がやり合ったからで、その大地におれの足が跡をまた刻み付けた。
 痛みに眉を寄せながら片手を患部へ添えて、おれは足を降ろした相手を睨み付ける。
 おれのそれを見やったカクが、おれが先ほど放った一撃で血を零している口元を軽く拭いながら、相変わらずおれには可愛さの分からない丸い眼に怒りをにじませて、鋭く舌打ちした。

「いつもいつも、ことあるごとに仕掛けてきよって。なんじゃと言うんじゃ!」
「お前が気に喰わないんだよ! お前だってそうだろ!」

 湧き出るイラ立ちのままに声をあげる。
 今日はおれから仕掛けたが、カクだっておれに仕掛けてくることが多い。
 一昨日は、おれが給仕へ話しかけているところにとびかかってきた。
 その前は確か廊下で角を曲がったところで衝突したからで、一緒にいたジャブラがゲラゲラ笑った後で止めてくるまでやり合った。
 そうだ、そういえばあの時はカクの蹴りが廊下の備品を壊してしまって、おれは悪くないはずなのにおれまで怒られたんだった。
 思い出すと更なるイラ立ちが湧き、もう一発殴ってやろうと拳を握ったところで、パンパン、と睨み合うおれ達の間に割って入るように誰かが手を叩いた。
 カクと揃ってそちらを見やると、おれとカクをあきれたように見やったおれ達の二つ上の同僚が、その片手を使って自分の眼鏡を押し上げる。

「カク、教官が呼んでいるわ」
「!」

 放たれた言葉にカクが慌てた様子で居住まいを正し、今行く、と短く言葉を紡いだ。
 その目が一度だけこちらを睨み付け、握った拳から突き出された親指が下を向く。
 挑発的な仕草に舌を出したおれを置いて、カクはその場から駆けだした。
 きっともともと教官に呼ばれていたんだろう。怒られたらいい気味だ。

「……ナマエ、貴方達はどうしてそう、仲良く出来ないの」

 そんな言葉が寄越されて、出していた舌を引っ込める。
 足音すらほとんどさせずに近寄ってきたカリファの目がおれを見つめ、その頭がふるりと横に振られた。

「そこまでルッチとジャブラを見習わなくてもいいんじゃないかしら」

 あちこちで喧嘩ばかりして、と呟くカリファが言う二人は、おれとカクより何年も先にCP9となった諜報員だ。
 よくジャブラがルッチにつっかかったり、ルッチが構われたいときに挑発を仕掛けている。
 あの二人は仲が良いだろうとおれは判断しているので、カリファの言葉に眉を寄せた。
 おれの様子にため息すら漏らして、カリファの手がハンカチを取り出す。
 白いそれを受けとって、おれは頬を軽くこすった。
 少しひりついた痛みがあるので、擦り傷でも出来ているらしい。

「それで、今日の原因は何?」
「今日? 今日は……あー……なんだっけ」

 寄越された言葉に少し悩んで首を傾げると、カリファがおれの名前を咎めるように呼んだ。
 眉間に皺を寄せた美人を見やって、慌てて借りていたハンカチを返す。

「カクに殴られたから飛んじまっただけだよ。そんな顔するなよ」

 さすがにおれだって、顔を見るだけで殴りかかるなんていう通り魔みたいなことはしない。カクがおれを怒らせるようなことをしなかったら、仲良くしてやることだってできる。
 理由がなかったわけじゃないんだと手を広げてみせると、ハンカチを片付けたカリファがもう一度ため息を漏らした。

「……一昨日はカクの方から仕掛けたんだったわね。その仕返しかしら?」
「いや、あれは一昨日でやり返してるし。一昨日のあいつはいつもに輪をかけて理不尽だったよな、急に木刀だもん。あの給仕の子に惚れてんのかな」

 そうだとしたら、驚きと恐怖で硬直していたあの子を落とすのにはかなりの労力が必要となるだろう。ざまァ見ろと言ったところである。
 おれの言葉を聞いて、先週の貴方も理不尽だったわよ、とカリファの口からあきれのにじんだ声が出た。

「カクはブルーノと組手をしていただけだったでしょう」

 そうして言われた言葉に、おれは先週のことを思い出した。
 ちょうどこの訓練場で、カクがブルーノに鉄塊を習っていたんだ。
 その目は真剣にブルーノを睨み付けていて、おれが見ていることになんてまるで気付いた様子もなかった。
 だというのに鉄塊を使っているブルーノを後ろに傾がせることすらできないカクに、笑ってやるつもりだったのにとてもむかついたのまで思い出す。
 イラ立ちはそのまま舌打ちとなって漏れて、おれはふいとカリファから目を逸らした。

「カクがぜんっぜんブルーノに勝てないから、情けねェって言ってやっただけだろ?」
「嵐脚を出しながら?」
「当ててねえし」

 カクだって直前でやっと気付いてきちんと避けていたし、ブルーノに至っては全部鉄塊で防いでしまった。

「……貴方達はどうしてそう、普通に仲良く出来ないの?」

 面白くなかったことに頬を膨らませると、先ほどと少し違う言葉を繰り返したカリファの両手がおれの顔を両側から挟む。
 潰された頬から押し出された空気がふしゅりと唇を滑って出て行って、少し口を尖らせたままのおれを見つめたカリファに、おれはそのままの顔で返事をした。

「カクが悪いんだよ」
「またそんなことを言って」
「おれをイライラさせるんだから、カクが悪い。思い出した。今日はフクロウを独り占めにしようとしたんだ」

 紙絵を習いたいと言ってフクロウを演習場に誘っていたから、イラ立ったおれがカクへと飛びついた。
 余裕の顔で紙絵を使おうとしたのにおれの拳を食らったカクの怒った顔ときたら、なかなかに愉快だった。
 ついでに言えばフクロウの方は、得意の剃でさっさといなくなってしまった。きっと今頃はどこかで楽しく噂話を集めているんだろう。
 おれの返事を聞いたカリファが、軽く眉を動かす。
 そうやると教官にそっくりだ。父親なんだから当然だろうか。

「……まったく、もう」

 いい加減にしなさい、なんて言葉と共につねられた頬は、なかなか痛かった。







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