帽子屋 第四話 国民は、国王の犠牲になるために居る。
そうさ、
私のために、世界はあるのだ。
〜帽子屋〜 ―第四話―
最近、体の調子が悪い。
常に吐き気はするし、腹痛は治まらない。酷いときには、それに頭痛が加わる。
足はひざ上ほどまで麻痺してしまい、寝床から起きることが出来ない。
見えない縄に縛り付けられているようで、まるで日々が地獄のようだ。
ベッドから離れられなくなった私のもとには、役立たずな召使いがやってくるだけ。
それも、国民の苦情ばかり持ってきやがる。
あいつらは、誰のおかげで生き延びていると思っているんだ!
「うるさい!!」
長々と百もの苦情を一本調子で読み上げていた執事に、ベッドの側にあったランプを投げつけた。
見事命中して破裂した破片や蝋に執事はヒィヒィと情けない悲鳴をあげ、顔を押さえて部屋から駆け出て行く。
なんと情けない! 苦情が何だ、何を威張り腐っている。しょせん、私のしもべでしかないくせに!
それなのに、民は最近税金を出さないそうじゃないか。
何を勘違いしているのか、数か月前まではヘコヘコと頭を下げて、どうか土地を地位をと家宝や賄賂やらを山ほど持ってきたくせに、私が年老い、こんな体になってからは、手のひらを返したように姿を現さない!
執事が投げ捨てていった長い羊皮紙を持ち上げ、隙間なく書かれた国民の名前に、わなわなと肩を震わせた。
「今、この苦情をよこした者を、すぐに縛り首にしろ! 一人残らず、全てだ!!」
威厳たっぷりの大声を張り上げ、羊皮紙を破り捨てると、若い召使いの娘は身を震わせてすぐに部屋を出て行った。
独りになった部屋の中で、私は鼻息も荒く、月光の差し込む大窓を眺めた。
神秘的な月明かりに浮かび上がる、何一つ不自由のなさそうな、裕福な私の国。こんなにも裕福になったのは、誰の力だと思っているんだ。
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