帽子屋 第二話
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 うなるような車の音。

 暗闇で鋭く光るライト。


 僕を照らし出したときには



 僕はもう、自分を見下ろしていたんだ。



〜帽子屋〜  ―第二話―



 急がないと、急がないと。
 妹が家で独りで待っているんだ。
 幼い頃に飛行機事故で両親を亡くし、僕が妹を育ててきた。
 歳の離れた妹。まだほんの小学三年生。
 最近やっと、割り算が上手にできるようになってきたのに。つい何をするにも独りぼっちにさせてしまう。
 人の居ない家の寂しさは、長い間一人っ子だった僕が、一番よく知っているというのに……。

「どちらにお急ぎですか?」

 突然、暗闇から浮かんできた声が、僕の足を止めた。
 いつもなら、誰に話しかけられたって一目散に家に帰るはずなのに。
 僕は、文字通り足を止められた。まるでその声は絶対の命令のように、僕の体を駆け出した格好のまま、ぴたりと止めてしまっている。
 何が起きているのか、理解できない。ただ、ものすごく嫌な予感がする。
 凍えるような恐怖から、冷や汗が頬を伝った。
 その時、見開いた僕の目の前に、まるで闇から抜け落ちてきたかのように、すっと黒ずくめの男が現れた。
 高いシルクハットを目深にかぶり、薄い唇が不気味な笑みを浮かべている。
 男は僕の目の先まで来ると、シルクハットを軽く持ち上げ、簡単に頭を下げた。
「こんばんは」
 笑みを含んだその声が耳に届いた途端、金縛りからとかれ、ガクッと膝が折れた。
 間違いない、この男のせいで体が動かなかったんだ。そしてこの妙な風貌、一体何者なのだろう。
 僕は荒い息を静めながら、恐る恐る男を見上げた。
 高い背の全身を覆う大きなマントをはおり、僕を見下ろす瞳は、両方が違う色をしていた。
 見たこともない、赤と青の不気味な瞳――男は引きつる僕の顔がさも楽しいものかのように、にやりと口元を上げた。
 僕は思わず、背中を走る悪寒に襲われる。
「……何方ですか?」
 僕はこぶしを握り、囁くように男に問いかけた。


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