「小僧、それは何のつもりだ?」 「こ、これは、鬼を殺してしまえる刀なんです。いうことをきいてくれないのなら、僕はこれで、あなたを刺します!」 短刀を盾のように突き出し、小僧は凄む。 小さな手がゆっくりと鞘から刀身を抜くと、錆ひとつない身から紫雲のような気が立ち昇った。 相変わらず胸をざわつかせる、忌々しい短刀だ。しかし何を怯えることがある。相手はちっぽけな小僧だ。厄介なものを人間共から取り上げるには、丁度良い機会ではないか。 体をぶつけ合って逃げ惑う魍魎どもを散らしながら、ずいと小僧に歩み寄る。 「ふん、そのような短刀でお前のような子供に何ができる。どれ、ひとつ遊んでやろう。かかってこい」 「こ、これで刺したら、あなたはきっと死んじゃうんですよ?」 「は、やってみるが良い。それとも、大人しく儂の朝飯となるか?」 煽ってやると、小僧は意を決したようにやーっと声をあげ、切り掛かってきた。 まんまと引っかかったものだ。その棒きれのような腕をちょいと掴んでぶら下げてやれば、いくら振り回そうがせいぜい空を切りつけることしかできまい。案の定小僧は無茶苦茶に刀を振ったが、一向に刀の本領を発揮させることはなかった。 やがて振り回すのも喚くのも疲れたのか、小僧はだらりと全身の力を抜いた。 「もう終いか。やれ、つまらんのう」 動かなくなった小僧を降ろしてやると、へたりと地面に座り込んだ。 悔しそうに土を掴み、大粒の雫が拳を濡らしていく。この年頃の子供にしては、やけに静かな泣き方だった。 「僕を食べますか?」 「童は食うても足しにならん。その刀を置いてとっとと去れ」 「嫌です。これは大事なものなんです。ご先祖様が、一番大事にしていたものなんです」 「ふむ……それだがな、小僧。この短刀、どうやって手に入れた?」 「家の蔵です。ご先祖様が大事にしていたものが、そこにはたくさんあって……」 「蔵を開けることが出来たのか。それならば何故、大人が来ない」 「いいえ、扉はまだ。でも僕なら、明かり取りの窓から入ることが出来るんです。あそこにはいろんなものがあるから、たまに入って、遊んで……あ、トミに怒られるから内緒ですよ」 「ほう……はは、そうか。やはりお前は、龍真の血を濃く引いておるのう」 「えっ? ほ、ほんとですか?」 ぱっと顔を上げた小僧の目が煌めいた。 その視線が、野次馬に戻ってきた魑魅どもに一瞬向けられ、またさっと戻る。 (6/43) 前へ* 最初へ *次へ栞を挟む |