気を失っていたらしく、気付いた時には、覗きこんでくるユニの顔が見えた。
痛みより、全身を包む寒さで斬られたことを悟った。左目が開けられない。声にならない吐息で呼びかけると、穴の空いた喉を空気が触って痛かった。
相棒の歪んだ頬に触れる。初陣の時みたいに、ビビって強張った顔をして、それは俺の良く知っている、ユニ・カルヤライネンの一番好きな表情だった。
なんだろう、ユニ、全部、赤い、あぁ、そっか――
「おれの…歌は、おまえを…鬼にしちゃうんだなぁ…」
顔をくしゃくしゃにして笑う相棒を赤鬼にしちゃうのも、
見知らぬ土地に連れて行かれちゃうのも、
父さんと母さんを守りきれなかったのも、
たくさんの人の命を奪ったのも……
俺の、歌だ。
そっか、“鬼”みたいなのって、俺だったんだ。
そっか、俺の……せい、だ。
*
俺の傷は、腹から左目にかけ、一度胸を横に切り裂くようにして、稲妻状に斬りつけられていたという。
腕のいい医者が居たおかげで、奇跡的に一命を取り留めたが、その代償に声を出すことが出来なくなっていた。
三日三晩眠り続けた後、清潔な病室でそれを告げられても、不思議と悲しみは感じなかった。
むしろ、どこかほっとしていた。白い壁の所々に浮かんでくるあの赤い世界をもう見ずにすむと思うと、歌なんかもう一生歌えなくていいとさえ思った。
少なくとも一週間は面会謝絶とされ、主治医にユニだけ手引きしようかと言われたが、断った。
左目は潰れ、もう一生開くこともできない。それに斬りつけられた時のショックからか、髪は所々白髪交じりになってしまった。
こんな姿見たら、あいつビビっちゃうって。
どうせ、使い物にならなくなったウタヨミだ。もうすでにユニに新しいウタヨミが当てがわれていても不思議はないし、無理にあいつの人生に残りたいってわけでもない。
出来ることなら、死んだものとして扱って欲しかった。
それでもユニは、時々尋ねてくるという。看護婦に「そろそろ折れたら」と促されたが、やっぱり会う気にはなれなかった。
「そう。でもね、寝たきりでいると足腰弱っちゃうの。足は動くんだから、たまには散歩でもしてきたら?」
えー、いいよ、俺、ベッドでゴロゴロするの好きだもん。枕を抱きしめて、駄々っ子みたいにそれを体で現してみる。
「ダーメ。ほらほら、お願いだから。いってらっしゃい」
美女にお願いされちゃしょうがない。手を引いてー、なんて茶化しながらも、結局傷を負って初めて、院内を散歩することになった。
案の定、このまだら髪は人目につくようだった。あーあ、やだな。仮にも軍に所属するものとして、あるまじき姿って感じ。
何考えてんだろ。俺、もうウタヨミじゃないのにさ。