or…?


花嫁の控室では、真っ白い華やかでありながらもシンプルなドレスに身を包んだ彼女が、青を基調とした小さないわゆるウェディングブーケというものを持ってボクを待っていた。

「あ、佐介さん。
よくお似合いです」

ふわり、と花が咲くような笑顔を見せた彼女はこちらへ歩み寄った。

「ありがとう…君もよく似合っているな。
とても綺麗だ」

ありきたりな褒め言葉を並べる。
頬を染め恥じらう姿は本当に可憐だと思うが、心臓はいつもと変わらない速さで鼓動していた。

どうしても藤崎でないとボクは駄目なんだ…

先程思ったばかりのことをまた感じさせられる。
きっとこんな虚しいことばかりをずっと続けていくんだろう。

付き人に話し掛けられていた彼女はこちらを向き、式場へ向かいましょう、と当たり前のようにボクの腕に今は白い手袋で包まれた細い腕を絡ませて歩き出した。

だが、どうしても先程から気になっていることがある。
それは藤崎がボクに手紙を渡す際に言った『絶対に結婚式が終わってからだぞ?』という言葉。
結婚式の前に読まれるのでは都合が悪いような内容なのか?

ならば、読んでやろうじゃないか。

あんな、いかにもボクが気にするだろうとわかる言葉を発した藤崎が悪いんだ。

「すまないが、先に行っててくれないか。
控室に忘れ物をしたみたいだ」

少しぐずった花嫁だったが、ボクが譲る姿勢を全く見せなかったことで意外と早く諦めて式場へと向かってくれた。

自分の控室へ戻り、静かに手紙を開く。








読み終わったボクは、時間が迫っていたことに気付き急いで部屋を出て式場内へ向かう。

ぎりぎり間に合い、十字架と神父の前で花嫁を待つと、自分の父と腕を組みゆっくりとした足取りでこちらヘ向かってくる花嫁。

ボクの隣に着き、誓いの言葉をつぶやいて、彼女の顔にかかっているベールを上へ持ち上げてボクはキスを−−−−−しなかった。


式場内が一気にどよめきに包まれる。
目の前の花嫁もどうして?という困惑の表情だ。

花嫁だけに聞こえるくらいの声で謝り、招待者席に向かって涙を堪えながらこう言った。

「誓いのキスはお前となんだろう?」

すると一人の男…藤崎が席を立ち、小さな声でありがとう、と言うのが聞こえる。

もう溢れてしまった涙が頬を滑るのを感じながら、ボクは藤崎のもとへ走り、抱き着いた。



あんな手紙を寄越しておいてなんで藤崎まで泣いてるんだ、と思いながら静かに目を伏せて

誓いのキスを。



もうボクはとっくに藤崎から離れられなかった。
付き合う前から捕まっていたのに今更気がつくなんて。



手を繋ぎ、外へ出るとそこにはまるでボクたちを祝福するかのように、晴々とした青い空と綺麗な花吹雪が舞っていた。












『椿


椿のことだから、たぶんオレがこの手紙を結婚式の前に読んでほしいから何度も「式の後に読め」って言ったことに気付いたと思う。

回りくどいやり方だけど最後にオレの気持ちを伝えることを許してほしい。


付き合い始めたとき、最初にお前言ったよな。
「ボクは将来女性と結婚して子供を作り病院を守らなければならないから、君とは短い付き合いになる」
どうだ?
結婚するまでって、長くなかったか?
もう付き合って5年だ。

少なくともオレには長かった。
だから考えた。
どうすればお前と離れないで済むのかを。


子供のことは当たり前だけど、オレ達2人の遺伝子を受け継ぐ子供は作れない。
でも2人の子供として育てることはできる。

そう、養子だ。

養子なら血縁関係は持てないとしても、戸籍上ではれっきとした家族になれる。

そんな簡単にいくと思っているのか、とかなんとかお前は言うかもしれない。
それに椿の父さんや母さんが反対するかもしれない。

なら何度でもお前を説得するし、父さんや母さんにだって許しを貰いにいく。


これじゃあ駄目か?


オレは付き合い始める前から椿が大好きで、高校3年のときフラれるのを覚悟で告白した。
まさかオーケー貰えると思ってなくて、お前が真っ赤になって頷いてくれたときにみっともなく号泣したの、覚えてる?

今はあのとき以上にお前を愛してる。
お前から少しでも離れられないようになっちまったんだよ。

世界でたった一人しかいない、お前が大好きなんだ。


頼むから、椿。

オレを選べ。



藤崎佑助』