いいんだ、

君の答えは

わかっているから。



Before hearing
your answer.




オレは椿が好きだ。

いつからかなんてのは覚えていないけど、気が付いた時にはもう好きだった。
なんでまたあいつ!?と自分に驚いた。
普通に考えて、顔を合わせるたびに喧嘩してる相手を好きになるなんてありえない。
しかも男だ。

そうやって頭でうんぬんと考えて否定してみても、結局は椿に会ったときに勝手に速くなる鼓動とか頬が熱くなることとかで今まで否定していた椿への想いを受け入れてしまった。
そうせざるを得なかった。

だけどその気持ちに気付いたということはオレにとっての死刑宣告が言い渡されたのと同じで。

あの椿がオレを好きだ、なんてことはそれこそ天と地が逆転しない限りありえないだろう。


だからオレは決めたんだ。

今の関係だってたいして良くもない。
ならいっそのことこの想いを椿に告げて、とことん否定してもらえばいい。
そうしないときっとオレは諦められないと思うから。

自分勝手だとわかってる。
これで椿を傷つけてしまうかもしれないというのもわかってる。
それでも、どうしても、こんなつらい恋はいくらオレだって続けたくないんだ。

だから、ごめんな。
椿。

どうかこんなオレを許さないで。


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夢を、

見ているんだ。



ボクは藤崎が好きだ。

いつからかなんていうのは覚えていない。
しかし、気が付いた時にはもう好きで。
だけど普通に考えて、顔を合わせるたびに喧嘩をするような相手を好きになるなんて苦しいだけ。
しかもそれが男なら尚更だ。
そう分かってはいても諦められないボクはなんて愚かなんだろう。

毎日のように藤崎のことを想っては胸の痛みで涙を流し、そのまま眠りについて夢を見る。
夢の中の藤崎はボクを受け入れてくれるからついつい藤崎が好きなボクは甘えてしまう。
それで、朝目が覚めたときに幸せな夢は現実とあまりにも違い、本当は残酷なものだと気付くんだ。

そして藤崎がボクのことを好きではないというのは本人に聞くまでもなく知っている。
なによりボク自身が藤崎にこの気持ちを気付かせないよう、本当はもっと近くにいたいくせに藤崎が近寄ってきてくれるのを拒んでいるのだ。
そんな女子のように可愛く柔らかい体を持っているわけでもなく、それとは逆でいつもツンツンしている相手を藤崎がわざわざ好きになるとは思えない。

だからこの想いには蓋をして、いつもの様に顔を見合わせただけですぐ喧嘩をするように振る舞う。

それしか自分には道がないんだ。


藤崎。
キミを想って、ごめん。
でもどうかこの気持ちを持つことだけは許してくれ。

伝えることは、しないから。


--------------------

どうか、

できるだけ遠い所へ。



椿を呼び出すのは簡単だった。

直接ここに来てくれ、とは言わずに椿の下駄箱に名無しの手紙を出したのだ。
責任感が人一倍の椿なら相手がわからなくても呼び出しに応じると知っていたから。

指定したのは16:00に屋上。

オレは教室に居ても特にすることはないし、スケット団部室に行けばなんやかんやと騒いでいるうちに待ち合わせ時間を過ぎてしまいそうだと思い、HRが終わってからすぐに屋上へ向かった。
屋上には傾きかけた陽の光りが温かく降り注いでいて、なんとも気持ちが良い。
そんな中、寝転んでしまえば睡魔に負けるのは早かった。


ふ、と肌寒く感じて目を覚ました目の前にはうっすらと星が見えるほど暗くなった空。
焦って体を起こすと『ぱさっ』と自分の体の上から何かが落ちるような音がした。
それを拾おうとしたところに横から手が伸びてきて、誰だと振り向き―――呼吸が止まる。

「やっと起きたのか、藤崎。
ずいぶんぐっすりだったじゃないか。」

椿がいた。

それもかなりの至近距離に。

「な…ん、で」

驚きすぎて声の出ない俺に小さくため息をついて椿はオレの手から奪ったブレザーを羽織る。

「こんなところで昼寝をしている貴様があまりにも寒そうだったから貸してやったんだ。
いくらお前でも風邪を引かれては困る。」

「そう…か。悪い。」

素直に謝るとふいっと顔を背け「で?」と椿が言う。

「…は?」

なんとも間抜けな声だったがいきなり「で?」と言われて何を言えばいいのかわからず聞き返してしまった。

「だから、ここへボクを呼んだのはキミだろう。
なんの用事だ。
特に用がないのなら帰らせてもらいたいのだが。」

この言葉を聞いて、そういえばオレが呼び出したんだった。と思い出し、焦りつつも覚悟を決める。

これでもう、椿と話をしたりしないだろうから。
これでもう、関わることもないだろうから。

これでもう、全て最後だから。


「あのな、椿。」

「…なんだ。」




「オレ、

お前が好きなんだ。」


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それは、

どんなに望んでも

手に入れられないと

諦めていた

言葉。



生徒会の仕事を済ませ、家へ向かおうと昇降口へ来たところで自分の下駄箱の中に白い紙が置かれているのを見つけた。
不審に思い、広げてみると
『放課後16:00に屋上で待ってます』と書かれている。
現在時刻は17:23。
つまり指定された時間は今より1時間と約30分前。
もう最終下校時刻はあと7分と迫ってきているし、さすがにいないだろうと思ったが生憎差出人の名前がわからない。
このまま放っておくのも気が引け、一緒に帰ろうとせっかく声を掛けてくれた生徒会の人たちには悪いが屋上へと足を向けることにした。

人のいない校舎の階段を登り、屋上へと出る。
夏に近づいてきたからといってさすがに夕方となれば風はまだ冷たく、頬を打つ。
そんな中、地べたに横たわるひとつの人影を見つけた。
まだ待っていたのかと思い慌てて駆け寄るが反応がない。
誰かわからなくてはしょうがないのでそっと顔を覗き込んでみるとそれは、気持ちよさそうに寝ている藤崎だった。

今まで見たことのない安心しきった藤崎の顔に一瞬心を奪われてしまったが、その表情とは裏腹に寝ている格好があまりにも寒そうで思わず自分のブレザーを脱いでかけてやる。
すると刹那微笑むように口元が少し上がり、一気に頬に熱が集中する。
その熱を冷ますように手をぱたぱたと動かしていると、もぞ…と藤崎が目を覚ましてがばっと物凄い勢いで体を起こした。
不覚にも少しびくっとしてしまったが、藤崎が起きた拍子に落ちたボクのブレザーを拾う前に奪い声をかけた。

藤崎は目を大きく見開きボクがいることに心底驚いたのか、寝起き特有のかすれた声を出す。

ブレザーを羽織ながら質問に答え、藤崎がここへボクを呼んだ理由を聞こうと「で?」と言うと、いかにも訳が分からないと言う顔をして

「…は?」

と聞き返されてしまった。
まさかボクを呼んだのはコイツじゃなかったのか。
そんな不安が頭をよぎる。
だが放課後にわざわざ好き好んで屋上へ来るものはなかなかいないことを思い出し、

「だから、ここへボクを呼んだのはキミだろう。
なんの用事だ。
特に用がないのなら帰らせてもらいたいのだが。」

と強気で問い詰めてみた。

この言葉を聞いて、藤崎は用事を思い出したらしい。
わざわざボクを放課後に呼び出すほどの用事を。


一呼吸おいて静かに藤崎が発した言葉は、
ボクを動揺させるには十分な威力を発揮した。

「あのな、椿。」

「…なんだ。」



「オレ、

お前が好きなんだ。」


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