おお振り(短編) | ナノ







リズミカルなピアノの音が
聴こえてくる。窓を開ける
と更に近くで聴いているよ
うな感覚に陥る。
俺は窓から見える、その音
の主を見つめた。
髪が長くて、ふわりと優し
そうで楽しそうに弾く横顔
になんだか照れてしまう。

なんであんなに魅力的なん
だろう。目が離せなくなる


「はあ、」


ため息がでるくらいで自分
でも気持ち悪いと思った。

家が向かいなのに苗字し
か分からない。名前も声
も知らない。話してみた
いと思った。だって、あ
んなに楽しそうにピアノ
を弾く女の子は初めて見
たから。


「こんにちはっ」


ぼーっと眺めていたら、
その子が窓から身を乗り
出して頬をほんのり染め
ながら俺に話かけてきた


「こ、こんにちは!」
「あの、もしかしてうるさかったですか?」
「いや、むしろもっと弾いてて下さい」


俺がそんなこと言うのも
迷惑だよなとへにゃりと
笑った。


「あはは、分かりました」


ふわりと笑うその子に
名前を聞くとその子は
控えめにあの、と言う


「んー?」
「あの名前、ふみきくんって言うんですよね」
「えっ!」
「えっ!?違いましたか」


慌てて謝るその子に
俺の名前あってるけど
なんで知ってるんですか
と言うと、ふみきくんの
お母さんの声がふみきー
!って呼んでるのが聞こ
えたからと笑った。それ
で知ってるんだと俺もつ
られて笑った。


「あ、またこうやってピアノ聴いててもいいですか?」
「もちろんです」
「練習の邪魔してすんませんでした」
「いえ、それじゃあふみきくんまた」


そう言うと家の中に
入って再びピアノと
向き合うその子に俺
はそっと目を閉じて
音を聞いた。



恋の旋律


(俺のために弾いて)
(くれているような)
(気がした)

20110613.






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