そうだ、どうして忘れていたんだろう。俺は、初めてライカに会った時から、彼女が涙を見せた時から、気づいていた筈じゃないか。 彼女には弱さがあるって。それも、容易には人に見せたがらない弱さが。 今こうして好きだと言ったのだって、かなりの勇気が要ったに違いない。何でもないことのように言ったのはきっと、拒絶されるのが怖かったから。 その手にそっと触れた。 細くて、柔くて、でも凛としていた。 この冷えた手に、彼女の全てが詰まっているような気さえした。今壊れてもおかしくないような脆さと、決して折れることのない凛とした強さの、矛盾した両方を感じた。 俺は決心して、彼女の手に触れたまま言う。 「ライカが大学をやめても、また2人で会えばいい話だよな。……だって、俺も君が好きだから」 普段よりも優位に立てたような錯覚がしたのも束の間。 ライカの口元がふっと緩んだかと思うと、コーヒーの香りがふわっと漂って、鼻をくすぐる。 気づいた時には彼女の顔が目の前にあって、赤茶色をした双眸が俺を捕らえていた。 俺は、そのまま唇を盗まれた。 そっと眼を閉じる。 すると、俺も無意識の内に、自分の唇を彼女のそれに押し当てた。 この世のものとは思えない程柔いものが唇に当たる、幸福な感覚。……コーヒーのほろ苦い味がする。 まるで、世界の時間が凍りついたみたいだ。 永遠とも思える時間が過ぎてライカが顔を離す。 彼女が珍しく頬を染めて、いたずらっぽく笑う。そして、たった一言、「よろしく」とだけ言った。俺が照れながらも微笑み返したことは、言うまでもない。 人はそれを初恋と呼ぶんだろう (初恋の定義はスイートビター) →あとがき |