頂き物 | ナノ


 サークルでは、相変わらず1人で俺達を眺めているだけのライカだけど、最近少し変わった所もある。

 彼女は俺と目が合うと、無言のまま口の動きだけで「バーカ」と言ってみたり、時々思い出したようにライカお手製の弁当を差し入れてくれたりする。
 本当に時たまくれる弁当は、その日によって当たり外れがある。料理人が作ったのかと見紛うほど完成度の高いこともあれば、嫌がらせなのかと疑うほど質素(白米だけとか)なこともある。理由を訊いても、「なんとなく」の一言しか返ってこない。糠に釘、暖簾に腕押しとは、このことだ。

 メールに関しても、ライカは少し自由過ぎた。誕生日でもないのにバースデーメールが送られてきたり、何の脈略もなく怪談めいた内容が送られてきたり。彼女に殆ど友達がいない理由が、分からなくもない。

 俺に興味を持ってくれたのか、それとも単純にからかわれているのかは分からない。
でも、少しずつだが距離は確実に縮まってきている。俺はそう確信していた。

 だから、目の色のことを訊いても大丈夫だろうという結論に至った。目の色なんて人それぞれなわけだし、俺の中で仮説も立っていた。

 一緒に大学の食堂でランチをとっている時、思い切って尋ねてみた。

「なぁライカ、一つ訊いてもいい?」

「内容によりけりね」
彼女の尤も(もっとも)な言葉を無視し、続けた。

「……じゃあ訊くけど、間違ってたらごめん。ライカってさ、アルビノなの?」
ライカの肩がビクリと跳ねた。

「……気づいてたんだ」

「まぁ、最近になって、もしかしてって思ってさ。肌が白いし、外に行く時は絶対サングラスをしてるし」

「……ご明察。私は生まれつきの色素欠乏症だよ。私の場合は、眼と肌のメラニンだけが極端に少ないの。髪は何故か黒いんだ。まぁ、視力がちょっと悪くて紫外線に弱いこと以外は、他の人と変わらないわ」

「そうだね。ライカって、白雪姫みたいだよね。ライカの眼って、光の加減で色が変わるの知ってた? すっげー綺麗でさ、俺、いつも吸い込まれそうになるんだ」
まくし立てるように話した。少し喋り過ぎた気がしながらも。

「日本ではやっぱり白すぎて、目立っちゃうのが嫌だったんだけど、そこまで言われると悪い気もしない」
彼女は苦笑しつつ、満更でもないという風に言った。

 このことについては、訊こうかどうか本当はすごく悩んだのだが、訊いて良かったと思う。
お互い、知らないことが多すぎる。俺は彼女の過去も現在も、あわよくば未来も知りたいと思っている。無理な話だけど。


 その日も普段と同じように、俺は大学からまっすぐに帰宅して、すぐに風呂に入った。自分の部屋でくつろいでいると、ライカからメールが届いた。たった1行のその内容を読んで、愕然とした。
 慌てて電話をかける。そういえば電話をするのは初めてだ。そんなどうでもいいことを考えながら、ライカが出ますようにと強く祈った。

『ライカ! 今どこ!?』

『退? 駅前のレストランだけど』

『イタリアンのやつ?』

『ん』

『今行く』
ライカの驚く声を無視して、そのまま電話を切った。
 着の身着のまま自転車に飛び乗り、彼女が居るレストランを目指した。

 あんなことを急にメールで送られてきたら、行かずにはいられないよ、俺は。たとえそれが、君のいつもの笑えないジョークだとしても、今回のはちょっと度が過ぎるだろ?

『私、大学やめる。今までありがとう。』
……だなんて。



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