お花屋さんは、ジョロで水かけをしていた。
お花屋さんの庭には、小さな泉があった。
良く見ると、底の砂に丸い模様が重なり、そこから水が沸いているのがわかった。
お花屋さんは、いつも晴れていた。
初めて来た日も、街は酷い嵐だったのに、ここは春の陽気だった。

「変なの」

私の声に、お花屋さんは振り返る。
少し驚いた顔をしたけど、すぐにふわりと笑って『いらっしゃい』と言った。

「2回も来て下さる方は初めてなんです、植物達も驚いています」

招かれた家のような花屋は、相変わらず植物だらけだった。
『どうぞ』と淹れられたお茶は綺麗な赤い色をしていた。

「ハイビスカスというお花のお茶です、大丈夫ですよ」

私がお茶を見つめすぎたのか、お花屋さんは、くすりと笑って再度『どうぞ』と言った。


「お花くださいな」

私はポケットから取り出した硬貨を、お花屋さんの前に突き出した。
お花屋さんは、ぽかんとそれを見つめていた。
お花屋さんがしばらくそのまま動かなかったので、私は再度『くださいな!』とお花屋さんに言った。
お花屋さんは、弾かれたように顔を上げ、私を見て

「ど、どの子にしましょうか?」

と真っ赤な顔で言った。
そんなお花屋さんを見て『変なの!』と私は言ったけど、お花屋さんは赤いほっぺたを両手で触りながら嬉しそうに笑った。


それから、かなりの時間をかけて私とお花屋さんは、お花を選んだ。
私が植物を育てた事がないと言ったら
『じゃぁ、育てやすい子がいいですね』と言って、
そこから持ち帰るのが大変だから小さいのがいいだとか、
お部屋のどの辺りに置きますかだとか、お花屋さんは私よりも真剣に花を選んだ。

「…アレは?」

お花屋さんが店中を探し回っていた時、私は窓の外に咲く小さな白い花を見つけた。

「スズランですか?」

お花屋さんも同じように外を見て言った。
白いベル型の連なった小さな花は、小さな風に揺れていた。
時折、葉の下に隠れて見えなくなった。

「スズランなら、あちらのスズランもありますよ?」

そう言ってお花屋さんが指したのは、さっきの花より、葉も花も大きくて、綺麗な花だった。
風に吹かれるとベルの形をした白い花は楽しそうに揺れた。

「あの子はダメなの?」

でも、私は風が吹くたび顔を出したり出さなかったりする白い花を見ていた。

「…お花に聞いてみましょうか」

お花屋さんは、ふわりと笑った。


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