小説 | ナノ


▽ なんでもねだり 〈2016年〉


KANA-BOON
『なんでもねだり』より
歌詞をお借りしています


「ナールト!明日デートしよう!」
明日が非番であることを伝えると目の前の彼女は満面の笑みで言った。底抜けに嬉しそうに言うものだから、思わず胸が高鳴ってこっちも嬉しくなった。



なんでもねだり



翌日になってオレの家まで迎えに来た彼女に付いて歩いていく。君と過ごすこの時があまりにも幸せ過ぎて…。

――あまいあまいアイスクリームのよう

オレの手を引くために君の手が近づく。あぁ…、顔が茹だる。

――触れただけで溶けそうだ

振り返る君の笑顔は相も変わらず嬉しそう。その顔は…、勘違いして良いのか?と問いただしたくなる。だけど彼女が言っていた「好きな人がいる。でも言えないんだ」と、その一言がまだ胸に突き刺さる。
あの時の彼女の表情は切なげで、でも綺麗で。

――白い白い素肌が透けるようだ

今日の肌だって変わらず

――まるで今朝のミルクみたい

例えが自分らしすぎて情けない…。こういうのサスケだったら…っ!途中まで考えて首を大きく振る。違うサスケは関係ねぇ、これはオレの問題だってばよっ!
急に首を振り始めたオレを振り返り不思議そうに見つめられる。
「ハハッ、なんでもないってばよ…」
苦しい言い訳を苦笑まじりに伝えると、彼女は笑顔を返す。それ以上は聞かずにまた歩みを進める。ありがたいんだけど…、ちょっと寂しいってばよ…。



デートと言われて案内された先は木の葉でも人で賑わう繁華街。オレが好きな一楽もこの通りに連なっている。
早速、腹ごしらえに一楽に行くのかと思いきや、歩く先々で店にある品物に目を奪われているオレの想い人。なかなか前に進めない歩調にうんざりしつつも、彼女の目をキラキラと輝かせ魅入る姿に鼓動が速くなる。どうやら彼女の思惑は買い物らしく気になる店を見つけては手を引かれる。君は知らないだろう、不意に掴まれるその手が熱を生むこと。その熱にやられたのか、手を繋ぐ度にだんだんと意識がふわふわ薄くなる。こんなにも幸せな一時を手放してなるものかと深い睡魔と似た感覚に必死に抗う。けれど、彼女を見つめていて時々目が合うと更に意識が遠のいていった。



デートとは名ばかりに荷物持ちをさせたかったらしく、意識がはっきりすると

――もう両手いっぱい

珍しくデートとか言うから期待したのにそんな自分が阿呆らしくなる。昨夜、今日が来るのをどれだけ楽しみになかなか寝付けなかったことか…。この睡魔も彼女のせいに違いない。まぁ、隣を歩けるのだから善しとしよう。底抜けに明るいのは自他ともに認めている。そんなことを難しい顔で考えていると自分の腕にどんどんと包が積まれて行く。

――ハイヒールとバッグと人気のタルトと、まだあるの?

「すみませーん!これとこれとこれ、ホールでください」
そ、そんなに買って食えるのかってばよ…?
女の食欲は時としてすごいと知ってるけど、それは食い過ぎじゃねぇか?

――あれがほしい、これがほしい

「まだ持てるよね?」
「おぅ!オレを誰だと思ってるんだってばよっ!」
いざとなれば影分身で持ち手は2人になるしな。

――わがままな君に見とれてる

「今日、ナルトを誘って正解だったよー」

――あれがほしい、それもほしい

「ねぇ、もう1件行っても良いかなぁ?」

――わがままな君が好きさ




「ここって…?」
うずたかく積まれた荷物のバランスに気を付けながらかなりの距離を歩いた、気がする。または荷物に気を取られそう感じるだけかもしれねぇが、少なからずオレの知らない場所だった。
一つ入口を通り過ぎると目の前に両開きの扉が一つ。想像していない状況に混乱していると、彼女と視線が合う。気付くと彼女の後ろには見知った顔が立っていた。
「これと…、これとこれ!じゃ、あとはよろしくー」
手持ちの荷物のいくつかを取ると彼女は小さく手の平を振って扉の向こうに消えていく。
「じゃっ!さっさと始めるか」
先に声をかけてきたのはシカマルだった。
「とりあえず全部あけてみるか。っと、これはタルトだな?先に運んどくわ」
自慢の鼻で嗅ぎわけたのかタルトの入った箱の袋をキバが持っていく。やはり扉の向こうに消えてほどなく帰ってくる。扉は大きさの割に少ししか開かれず中は見えない。
「これ、権兵衛が買ったもんだろ?勝手に開けて良いのかよ?」
「よろしくっつってただろー」
シカマルが言いながら包の包装を遠慮なしに剥がしていく。帰ってきたキバも同じように片っ端から箱を開いていく。
「ほれ!さっさと着替えろ。みんな待ってるんだからよ」
着替える?みんな待ってる?不透明な情報にまわらない頭が余計、混乱する。一つ分かるのは目の前に広げられた衣装一式。黒ネクタイに肌触りの良さそうな白いシャツ。シルエットが整った黒ベスト。黒いラインの綺麗なトラウザー。この場に不似合いなカーテンを拵えた簡易な着替えスペースで言われるがままに着替えてみる。簡易な割に姿見の鏡にうつる自分の姿が、我ながら。
「カッコいい」
「そりゃ権兵衛の見立てだからな」
声に出ていたらしい。っつか、なにこいつは我が物顔でしたり顔してるんだ?権兵衛の手柄だろうが!まさか"name2"の想い人って…っ。
「準備できたんならさっさと出てこいよ」
キバに促されイヤイヤと首を振ってカーテンを開ける。
「中々、様になってんじゃねーか」
鼻を鳴らして褒められるがあんまし嬉しくねー。それよりも早く権兵衛に見せたかった。
「そんじゃ!行きますか…」
しゃがんでいたシカマルがよっと立ち上がるとキバと2人、扉の脇に控える。
「さぁ、主賓のお出ましだ!」



同時に2人が扉を押すと両開きの扉は勢いよく開いていく。ギギギと重厚な音が聞こえたのは最初だけで小気味よい音に遮られた。
「ナルト!お誕生日おめでとー!!!」
クラッカーの音とともにもらった言葉にきょとんとする。誕生日?今日って…、オレの!!?
「ほらほらぁ、ボーッと突っ立ってないでさっさと入りなさいよ」
綺麗に着飾ったサクラちゃんに腕を引かれ、部屋に入ると花やレースで飾られた品の良い会場であることを理解した。思えばシカマル、キバも洒落た衣装を着ていた。長机の上には所狭しと並べられた料理。いのやチョウジ、ヒナタにシノ。同期はもちろんゲジマユやヤマト隊長までいる。見知った顔に囲まれて視線を走らせると大きな鍋の後ろにはテウチのおっちゃんまでいる!みんな…、オレを祝いに来てくれたのかと思うとズッと鼻がなった。
「みんな…、ありがとうってばよっ!」
声が少し掠れる。いつの間にか涙が滲んでる。まぁ、嬉しくて泣いてるんだし、少しくらい良いよな!
「感謝しなさいよー。この日のためにみんなあくせく働いて休みとったんだからー」
いのの言葉を半分聞き流しながら、権兵衛の姿を探す。ここへ案内してくれたのは彼女だ。今、着る衣装を用立てくれたのも、自分の買い物に見せかけてこのパーティに必要なものを買っていたのも彼女らしかった。日頃の想いもあいまって権兵衛にありがとうって言いたかった。なんなら今の勢いで告白までしちまいそうだってばよ…。
「なぁ、権兵衛は…?」
近くにいるヒナタに声をかけると一瞬ビクリと肩を揺らすが、おずおずと答えてくれた。
「権兵衛ちゃんは…、着替えてるからちょっと遅くなるみたい」
確かにオレも着替えたしな。女の支度は結構、時間がかかるみたいだしオレよりも到着が遅くても仕方ないのかもしれない。少しがっかりしていると、女性陣が何やら集まって騒ぎ立ててるみたいだった。
「だから普段からもっとこういうの着れば良いのにー」
「普段からこんなの着てたらただの変態だよ!」
いのに返す聞き慣れた声が気になって、足を運ぶ。
「どうしたんだってばよ?」
女性の垣根を一言でかき分けて姿を現したのは…。
「権兵衛…?」
そこにはやはり目的の女性がいた。けど…、でも…。
「どーおー?綺麗でしょー?」
権兵衛の肩を掴んでしたり顔のいの。素直に頷くのはしゃくだが、確かにそこには綺麗な女性がいた。
黒いチャイナドレスを身にまとって体のラインが顕になる。普段、胸の大きさがわかりにくい服を着ているからそれだけでドギマギするってのに…。際どいところまで入ったスリットが白い太ももをより魅力的に権兵衛の肌を演出する。縁どりは紅。金にも見える黄色い細い刺繍は唐草模様を描いていて、まるで権兵衛の体を覆い締め付けるように全身に及んでいる。それがあまりにも妖艶で…、恥じらい頬を染める愛らしさが相反してオレの中の男が疼く。
「綺麗…だってばよ…」
「ありがとう…ナルト」
花が開くように笑うその姿に、オレは言葉を失った。って言うか、可愛すぎるんだってばよ…っ。
「よーぉ、やってるかー?」
言って入ってきたのは。
「カカシ先生!我愛羅とカンクロウまで来てくれたのか!?」
火影に就いて多忙と戦う恩師や他里の友人まで…。3人とも木の葉のものとはまた違う礼服に身を包んで、口惜しいけどカッコいい。カカシ先生なんて手足が長いから余計に似合ってて。いや、オレも背、伸びたし!負けてない。負けてないってばよ…!
「ナルト、誕生日おめでとう。遅れて悪かったな」
「カカシ先生が遅れてくるのはいつものことだってばよ」
先生はそう言われると少しバツの悪そうに笑った。
「ナルト、こうして直接祝いの言葉をかけられることを嬉しく思う。おめでとう」
「我愛羅ありがとうってばよ!」
「チビも随分 大きくなったじゃん」
「それは祝いの言葉じゃねぇってばよ!」
目を尖らせて返す。こんなやり取りが楽しくて仕方がない。最近は忙しくなってこんなにゆっくり話ができるのは久しぶりだ。
「権兵衛もご苦労さん。まー、キレイになっちゃって」
言って権兵衛の頭に手を置く。それに少し嫉妬しつつ、それを止める権利はオレにはまだない。
「ご苦労さんって?」
「なんだ、ナルトまだ知らなかったのか。権兵衛が我愛羅くんたちが来れるように砂の親善視察を提案してくれたんだよ。それにこれだけの面子を揃えるのは並大抵のことじゃないからね。影分身で人の数倍 任務をこなしてたんだ」
他の面子もいつもよりハイスピードでやってたけどね。と付け加える。
「みんな集まれる方が楽しいじゃん」
視線を向けると苦笑混じりに権兵衛は言う。
「それだけじゃねーぜー」
急に肩に腕をかけられバランスを崩す。シカマルだ。
「今日のおまえの着てるもの一式揃えるために、デートに呼び出して幻術でおまえ眠らせてる間に似合いの服はどれだ、サイズは合うかも権兵衛がやった」
確かに買い物している最中のはずなのに、意識が遠くなった時があった。
「ごめんっ!」
視線を送るだけで権兵衛は申し訳なさそうに手の平を合わせて謝ってくる。
「けどデート出来て嬉しかっただろ?」
肩に手をかけたシカマルがまわりに聞こえないよう、耳打ちしてくる。
「そりゃー…」
「まっ!それがオレたちからの誕生日プレゼントってことで」
ヒラヒラと手を振りながら離れていく。
「それとこのドレス勧めたの私だから」
いつの間にか近くにいたサクラちゃんも耳打ちしてくる。ビクッと肩を揺らすと「感謝しなさいよー」と肩をポンポン叩かれた。なんていうか…、嬉しいんだけどちょっと怖いってばよ…。
周りを見回すとみんなニヤニヤしながらこっちを見てる。なんだよ、みんな知ってんのか…?
「ごめんね、ナルト。多少のサプライズがあったほうが余計嬉しいかなと思って…」
オレの気を害したと思ったのか権兵衛は弁明するように早口にまくしたてた。
「そりゃ幻術つかって意識を奪うとか友達にやられるの嫌だろうけど、うぅ…、ごめん…」
言い訳しながら自分がしたことの大きさを省みたのか尻すぼみに声が小さくなっていく。
「ちょっと驚いたけどさ、オレのためにこれだけやってもらって悪い気はしねーってばよ」
頭の後ろで腕を組んでニカッといつものように笑った。それを見て権兵衛も安心したのかニッコリと笑う。だから…、その笑顔は勘違いしそうになるってば…。
「権兵衛って好きな人いるんだよな?」
「えっ、なに急に…」
なんか周りの応援とか、この場の雰囲気とかそういったものに押されて勢い付く。
「前、言ってたじゃんか」
「い、いるよ…っ」
その言葉を聞いて少し心が沈む。やっぱりいるのかよ…。けど今のオレはそんなもんじゃ止まらないらしい。多少権兵衛を困らせてでも、オレが権兵衛を好きだって、伝えたくてしょうがなくなった。
「んじゃあそいつのこと好きで良いからさ!オレが権兵衛を好きだってこと覚えといてってばよ」
心臓がバカみたいにはしゃぐ。顔が茹だるし、体も少し震えてるかもしれねぇ。でも…、言った。言った!
「え?えー!!?」
対して言われた権兵衛はというと顔を真っ赤にして、オレを睨みつけてきた。なんだよ、その反応は…。いくらオレでもちょっと…、傷つくってばよ…。
「ナルトってサクラのことが好きなんじゃないの!!?」
「へ?」
思ってもみなかったことを訊かれ情けない声が出た。え、それってどういう…?
「ごめん、みんな。ちょっと席はずさしてくれってば」
目の前の女の子の手首をつかんで2人で外に出る。



建物を囲むように木々が立っている。建物の周りを少し走って、大きな木の下まで走る。2人とも息を切らして向き直る。権兵衛の顔は真っ赤だった。たぶん…、オレも真っ赤だ。
「サクラちゃんのことはもうとっくに諦めてるっていうか、サスケと幸せになって欲しいって思ってるってばよ」
「サクラがサスケを好きでもずっと諦めなかったじゃん!アカデミー卒業する頃からずっと好きって言ってたし」
「好きだからこそ、幸せになって欲しいっていうか…、オレ今は別に好きな人いるし…」
「それが私?」
未だ信じられないのか、なんとも頼りなげな声だった。
「オレずっと片想いだと思ってるんだぞ!」
「なんで??」
「権兵衛好きな人がいるって言ってたじゃんか!」
「だってナルトがサクラのこと好きだと思ってたから、言えないと思って…」
「オレが好きなのは権兵衛だってばよ!」
「え?え?嘘じゃない?やっぱり幻術にかけたこと怒ってる?」
あー!もうどうすれば伝わるんだってば!!
「あのさぁ!」
権兵衛の手を引く。彼女の頭を自分の胸に押し付けてやった。
「嘘ついてるだけでこんなに速くなるかってばよ!」
さっきから自分の心臓がうるさくて仕方ない。
「これで信じられたか?」
権兵衛が顔をあげると困ったように顔を真っ赤にして、次の瞬間には。
「私も…、ナルトが好き」
泣きそうになりながら笑いかけてくる。だからその笑顔は…。もう我慢しなくてもいいんだよな?
権兵衛の左腕を引っ張って右手で権兵衛の首を引き寄せる。さっき買ったハイヒールを履いているために顔と顔の距離が近い。自分の本能がそうさせるのかかぶりつくように権兵衛にキスをした。やばい、女の子の体ってこんなに柔らかいのか?冗談抜きに幸せ過ぎて溶けそうだ。
「じゃあこれからは権兵衛はオレの彼女な」
鼻先を合わせて、近すぎる距離で視線を合わす。権兵衛の目しか見えないけど頬を掴む手は温かい。相変わらず権兵衛の顔は真っ赤みたいだ。
「よろしくお願いします」
ニッコリ笑って権兵衛が言った瞬間。
「「「「「おめでとー!!!!!!」」」」」
いつの間にか建物の上に、さっき会場にいたほとんどの人間がいるみたいだった。まさか…、全部見られてた!?
「気付かなかったのは当人同士ばかりってねー」
いのが茶化すように言ってくる。
「もぅ、ずっとやきもきしてさっさとくっついちゃえばって思ってたんだからね!」
サクラちゃんがオレを指さしながら言ってくる。
「いやぁ、ナルト…。本当におめでとう」
イルカ先生まで…、ってかなんか涙が滲んでないか!?
「結婚式には呼んで欲しい」
我愛羅が微笑んで言ってくる。なんか素直にそう言われるとこっちが恥ずかしいってばよ…。
けど、そんなのいちいち気にするオレじゃねぇってばよ!
「みんな――、ありがとうってばよー!!!」
そう言って権兵衛を抱き上げる。きゃっと小さく声がこぼれるがお構いやしない。
「パーティーの続き、しようぜ!」
みんなを置いて先に会場を目指す。
抱き上げる権兵衛の耳に小さく
「権兵衛、本当にありがとう。最っ高に幸せだ」
自然と出る笑顔と一緒に言う。
「私も…、今すっごい幸せ」
極上の笑顔をくれる君に見蕩れてまたキスをする。
あぁ、最高の誕生日だってばよ…!!!



ナルトお誕生日記念

なんでもねだり





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