「ルフィ!?」

「ルフィくん。しっかりするんじゃ!!」


凍った海の一角に固まる三人の影。
先に逃がしたはずの二人がまだいることに眉を寄せた。


「何、まだいたの」

「雪花!ルフィの様子が可笑しいんだ!!」

「ルフィくんはインペルダウンの時点でかなり無理をしておるんじゃ。おそらくその反動が今に来ているのじゃろう」


ジンベイの言葉にぐたりとしたまま動けないルフィを見下ろし舌を打つ。
確かに無茶の連続だったことには違いないけれど、何も今ダウンしなくてもいいだろうに。

一体どこまで面倒を負えばいいのだろうかと頭が痛くなる。


「動けないものは仕方ないでしょ。海侠、アンタが背負っていけばいい」

「うむ、そうじゃな。すまんが背中を頼めるか?」


そこまで手を貸す義理もないのだが、乗りかかった船だ。
名前はしかめっ面のまま、エースとジンベイの後ろを走る。

もうすぐ凍った海から抜けるというところで海賊達の悲鳴が背後から聞こえた。


「逃がさん言うとるじゃろうが、雪花ぁ……!!」


二度あることは三度あるというが、何て執念だろうか。
白ひげにやられ、口から血を流す姿は手負いであっても気は抜けない。

ティーチから逃れることはできても、赤犬からは今の状況では不可能だろう。


「雪花ッ」

「いいから行け。アンタらにいられても足手まといだ」


赤犬の存在に速度が僅かに落ちるも追い払う。

ロッドを構えれば降ってくるマグマの塊。
それを覇気を纏わせて叩き落とす。

決して名前から仕掛けることなく防衛に徹していると、待っていた声が耳に届いた。


「麦わら屋をこっちへ乗せろ!ここから逃がす!!」


死の外科医、トラファルガー・ロー。
名前をこの戦場に向かわせた原因の船長である。


「やっと来たか。……ッ、」

「油断大敵だねぇ〜」

「名前ッ!!」


“約束”の時が来て現れたローに気を抜いたその一瞬の隙を見逃さず、黄猿が光線を放ち名前の肩を射抜く。

走る鋭い痛み。血が飛沫を上げる。
ベポの悲鳴じみた声を耳にしながら、名前は無表情を僅かに歪め、歯を喰いしばって耐えた。


「“ROOM”――“シャンブルズ”」


半球の円が名前の元まで伸び、一瞬にして見える景色が変わる。
ローの能力で移動させられたと瞬時に理解できるほどに、今となってはそれも慣れていた。

僅かにぐらつく体を、泣き出しそうに顔を歪めたベポが支える。


「大丈夫?名前……!」

「平気。大した怪我じゃない」


船へと帰って来た名前に船員達も口々に声をかけるが、一つ一つ返すのも面倒で代わりに視線を一通り流した。


「名前、お前はもう中に入ってろ。後で手当てしてやる」

「これぐらい一人でも、」

「いいから中に行け。怪我はともかく、“声”が煩ぇんだろ」


ローに再度促され、否定できず渋々名前は船内へ入って行く。
名前に与えられた部屋は一番奥にある船長室の隣りの一人部屋。

喧噪から遠ざかって行く名前の耳に、若い海兵の叫びと赤髪の登場にざわめく戦場の名残が微かに届いていた。