『覇王色の覇気』。
王の素質を持つ者だけが扱うことができる“相手を威圧する力”。

覇気のコントロール・使い方においてずば抜けて高かった名前は、覇王色の覇気も自在に使うことができていた。


「今のあの女が……!?」

「薄々予想はしていたが……!やはりどんな手を使ってでも引き入れるべきだったか……!!」


名前を海軍に引き入れることに躍起になっていたセンゴクが悔恨を漏らす。

気の弱い者を気絶させることができる覇気だが、海軍の上位兵や黒ひげ達は意識を一瞬だけ飛ばす程度にしか効果はなかった。
が、元よりそこまで期待していなかった名前は、特に反応を示すことなく白ひげを背にティーチと対峙する。


「ゼハハハ……!!規格外の懸賞金をかけられた雪花が今更何をしようが驚きゃしねぇが……一体どういうつもりだ?オヤジとおめぇには何の繋がりもねぇはずだ。エースのこともそうだが、なぜオヤジを庇う……!!」

「単純に“そう”なるとこっちが困るってのもあるけど……アンタの思惑通りに行くのも癪なんだよ、黒ひげ。ここに来た目的はグラグラの実の能力でしょ?」

「!!おめぇ、それをどこで……」

「話す必要がどこに?」


挑発的に見上げる鋭さにティーチは息を呑んだ。

恐ろしいほど冷たい鋭さを孕んだ雰囲気は佇むだけで人を圧倒させる。
人形じみた美しい容姿は戦場に不釣り合いで、状況が状況でなければ見惚れていても可笑しくはない。

名前とティーチの会話の中に疑問を抱く点があったが、名前に助けられたと理解することはできた白ひげが「どういうつもりだ」と問うた。
最強の名を持つ白ひげが小娘に庇われたという事実は、あまり受け入れたいと思うものではないのだろう。


「捨てなくてすむのならわざわざ命を落とさなくてもいいんじゃないの。アンタは自分の死が如何に世界に影響するか理解した上での覚悟みたいだけど、実際に被害を受けるのはアンタじゃなくて世界だ。世界はそこまで覚悟なんてできないでしょうよ」

「グララララ……生意気な。だが……そうだな、お前の言う通りかもしれねぇ」


白ひげは新時代を進むであろう背中を見つめ、笑い声を上げる。

敵意にも似た、自分にむけられた視線が緩んだことに気付いた名前は息を吐き、先程も見た時計を再び確認した。
針は“約束”の数分前を指している。


「さて、と。私もそろそろ帰るか」

「おいおい、このままただで帰すと思ってるわけねぇよな……!!」


目的は遂げ、後は無事に船に帰るだけ。
用はなしとばかりに踵を返した名前にティーチが能力を発動させた。

けれど、名前はそんなものどこ吹く風。


「生憎、アンタ自身に興味はないんだよ」


淡々と無感情に吐き捨て――ダンッ!と勢いよく地を蹴った。

逃走を図る名前を当然ながら見送るわけもなく、闇が名前の元まで伸びる。
だが、それに捕まる名前ではない。

見聞色の覇気を広範囲に広まらせ、ティーチだけではなく海軍の動きからも逃れる。
あまりに多い声は煩く、できるだけ使いたくないのだがそうも言ってられなかった。

足を止めることなく駆けて行くその姿は、まるで一線の青が走るかのよう。