05



あの男の存在を初めて知ったのは前世。漫画の中。
実際に声を聞いたのは未来に飛ばされてすぐ。モニター越しだったけどその姿を目に映し、その声を記憶した。

何をしようと興味はない。好きにすればいい。
あの男自身に興味など欠片もなかった。

けれど、いうなれば、漠然とした予感。


感情の読めない瞳の奥に秘められたものが、何かとんでもないことをしでかすんじゃないかと希明に一抹の不安を与えていた。


『あぁ、そうだ。希明チャンも必ず連れてきてね。彼女に会わせたい子がいるからさ』


会わせたい、子。
白蘭の声を反芻させ、希明は眉を寄せた。


「心当たりは……ねーみたいだな」

「全くね。第一、その会わせたい子とやらが“私”の知り合いとは限らないでしょ。“この時代の私”ならまだしも」


録画された映像を最後まで一通り見て、確認のために訊いてきたリボーンにあっさりと頷く。

それにしても、と面倒なことをしてくれた白蘭に舌打ちした。
これじゃあ、今更かもだが巻き込まれたも同然だ。チョイスに参加しなければならないということ。
もちろん無視することは可能だが……すでにその“会わせたい子”とやらに興味を持ってしまった希明は無視できない。

もし希明の性格を理解した上でああいう言葉で投げかけたのなら、侮れない喰えない奴だと思う。


「これを渡しておくぞ」

「……これって、」


手のひらに乗せられたものに顔をしかめるのを止められなかった。

銀にも灰色とも言える色にボンゴレの紋章。
すなわち、希明が嫌だと拒絶したボンゴレ匣だ。


「だから私はいらないって、」

「いいから貰っとけ。どうせそれを使えんのはお前しかいねーんだ」


希明が所持している匣はこの時代の自分が残してくれたもの一つだけ。
力は持っておいて損はないし、何よりリボーンの言うように希明が使わなければ宝の持ち腐れ。せっかくのものが勿体ない。

つまるとこ、後は希明の気持ちの問題だった。


「守護者になれとも味方になれとも言わねぇ。敵にならねーならそれで今は十分だ」

「“今”は、ね……」


諦めたわけではないのだろう。
おそらくボンゴレは希明手放さない。執拗に勧誘にしてくるのが目に見える。
ただでさえ希少な雪属性なのに、初代以降現れなかった守護者の適任者を諦めてくれるはずがない。

興味のあるなしは別として、希明も自身の貴重さは理解しているつもりだった。
理解しているからこそうんざりしているのだが。


「……わかった。一応、貰っとく」

「あぁ、そうしてくれ」


彼女にとってそれは最大限の譲歩。
受け取ってくれたことに安堵し、リボーンは微かに口角を上げた。