06



こつこつと靴音を響かせながら、ボンゴレ側に詳しい連絡を入れた白蘭はとある部屋に向かっていた。

機嫌は上々。
鼻歌が飛び出しそうなぐらいまで機嫌を良くしているのは、長年の夢である新しい世界を創造するのに一歩近づいたからか。彼女に会う機会が設けられたからか。はたまた、全く関係ない別のことが理由か。

答えは本人以外にわからないけれど、とにかく上機嫌な白蘭は目的の部屋の扉をがちゃりと開けた。
途端に広がるは『白』。


「遅くなってゴメンね、『――』チャン」


声をかけるも返事はない。
けれど白蘭は気にした様子もなく、ポツンと置かれているイスに悠々と腰を下ろした。

そういえば、『これ』がここにいるようになってどれぐらいだろうか。
対面の『それ』を眺めながら白蘭はふと考える。
彼女に会ったのは1ヶ月前だから……確かもう1、2ヶ月は経ったはずだ。時間をかけた割にさして大切でないからあまり実感が湧かないけど。

おそらく普通の人間がこの部屋にたった数時間過ごしただけでも発狂するだろう。
それほどこの部屋は現実味が薄く、不気味で、息の詰まる空間。
けれど、精巧な人形……否。壊れてしまった少女が過ごすには何の問題もない環境ではあった。


「希明チャンが『これ』を見たらどう思うかな?」


くすくすと白蘭が嗤うも少女は何一つとして反応を見せない。
身動ぎをしない様は人形のようだが、耳を澄ませば微かに呼吸音は聞こえてくる。
でも、目には正気がなく虚ろ。感情がない。心もない。
人間である証拠はあるけれど、それはまるで――壊れてしまった人形のようで。

この少女は誰なのか。なぜこんなところにいるのか。何でこうなってしまったのか……。
その疑問の全てに答えられるであろう白蘭は、楽しそうに楽しそうにほんの僅かな狂気を込めて笑うだけ。

イスも壁も床も全てが真っ白に染まっている空間で唯一の『黒』を持つ少女の瞳に一瞬、何かが過ぎ去った気がした。