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「ねぇ、雲雀」

「何だい?」

「確かに制服でいいって言ったけど、何でセーラーなわけ?」


黒いスカートの裾を摘まみ、赤いスカーフタイを撫でて希明は言った。

それに嫌そうな響きがあるのは当然かもしれない。
何せ希明は肉体は中学生のものであっても、精神的にはすでに大人だ。
ブレザーの制服を着るのも初めは抵抗があったのに、セーラー服となればもっと嫌に決まっている。
……まぁ、本人の意志はともかくとして、とても似合っていたのだが。


「それしかなかったんだから仕方ないでしょ」

「……何でセーラーがあって他がないんだか……。着替えられただけマシかもしんないけどさ」


諦めたように大きな溜め息を吐いて閉じられたままの扉に目を向けた。


「跳ね馬は?」

「ディーノさんでしたらボンゴレアジトの方に戻りました。やはり気になるようでして……」

「あぁ……」


スクアーロが真6弔花のザクロにやられたのは聞いていた。
この時代の希明はヴァリアーと接点があったらしいが、今の希明にはリング争奪戦の時に顔を合わせた程度。

そういうわけで特に何思うわけでもなく、認めているわけでもないが……。
殺されても死にそうにないなとは思う。
あんな荒くれ集団の幹部を務めるぐらいだから悪運は強そうだと。


「何考えているの?」

「真っ白男を潰すにはどうするのか手っ取り早いかなって」


革張りのソファにもたれかかり面倒そうに呟く。
実際に考えるだけでも面倒だった。

敵陣に飛び込んでも大将一人しかいないなら話は早いが、あの男には部下がいる。それも手強い。
それに加えてツナ達のこともあるのだ。
敵対するつもりは向こうもこちらもないとはいえ、希明には共闘する気も更々ない。
大体、キャラを差し置いてラスボスというところの白蘭を自分が倒すのかと思うと、あまり気が乗らなくなってしまった。

佳弥を巻き込んだ白蘭は許せない。自分の手で倒したいとも思う。
けれど、もういっそのことツナに押し付けてしまおうかとも思い始めていた。
原作がどうなのか知らないし、この世界が原作通りなのかもわからない。仮にツナが負けたとしたら自分が相手をすればいいか。それとも……


「んー……」

希明の気難しそうな表情を眺めていた雲雀は、その顔に若干の眠気があるのに気付き、隣りに座ると希明を引き寄せて自分の肩に寄りかからせた。
ふわりと深海の如き長い髪が揺れてくすぐる。

あまり恋人に甘えることをしない希明だが、今回ばかりは眠気が勝ったのか抵抗はしない。
色々なことがありすぎて疲れもあったのだろう。
戦闘の疲労もあり、精神の消耗だって無視はできない。


「おやすみ、希明」


あまり恋人らしいことをしない二人だが、この時ばかりは二人の周りには穏やかな甘い雰囲気が流れていた。
それこそ、草壁が黙って応接室から退出するぐらいには……。