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四つに増えた手錠を『面白い手品』と評し、いくつ増やしたところで無駄だと笑うデイジー。

それに雲雀自身も同意しながら、突進してくるデイジーを迎え撃つ。
攻撃を避け、「10や20ならね」と謎の言葉を吐きながら。


「あ、」


雲のボンゴレリングが光を放ち始めた瞬間、思わず希明が声を上げた。
次の瞬間には手錠が腕から始まり、目にも止まらぬスピードで胴体や足にまでその範囲を広げていく。

ほんの僅かな時間でデイジーの全身は手錠によって拘束されていた。

それこそ、誰にも予想ができなかった姿。
希明ですらも、驚いてガチャガチャと音を立てる手錠の拘束具を見やった。


「自切するスピードを上回る雲属性の増殖!!……にしても……こんな形態になるのか!!」

「こんなの……聞いてない!!」


全身を拘束されてようやく余裕の表情にも焦りが浮かぶ。

入江の思惑通り、他の世界で作られていないボンゴレ匣はディーノの奥義とは違って攻略されていないらしい。
頻りに「白蘭様から聞いていない!!」と叫んだ。


「君……死にたがってたみたいだけど、そんな甘えは許さないよ」

「え?」

「締め上げよう」


ギリギリと手錠がデイジーの体を締め上げ、ブシュッと血が飛び散る。
耳を劈くような絶叫が辺りに響き、ついには泡を吹いて拘束されたまま地面に倒れた。

そんなデイジーに雲雀が近付き、膝を着く。


「思ったよりも情けないね。君が死にたくても死ねないのは、晴の活性の炎が体内を巡っているからだろ?」

「……てか、それで死ねないのが悩みとか言うよね……」

「これは風紀委員が没収する」


指から晴のマーレリングを取り上げた途端、シュウウウと音を立てて姿が修羅開匣する前に戻った。
これでデイジーは“ただの人間”同然。真6弔花といえど、リングなくしては化け物染みた能力も意味はなく何の脅威にもならない。

それなりに苦戦していた割にはあっさりと着いた決着に希明は溜め息を吐く。
結果はわかりきっていたとはいえ、もう少し敵も歯ごたえがあればよかったのに。確かに真6弔花の能力は恐ろしいが、これではまだ佳弥の方が強かっただろう。
きっと雲雀だって物足りないと感じているはずだ。

希明に応戦を頼んだ時と打って変わった草壁の雲雀を讃える言葉に、現金な奴らと思ったのは言うまでもない。