初代雪と、雨



※初代雪の守護者、グレイシアの話になります
※名前変換無し










竜笛の美しい音色が響き渡る。

イタリアにあるにもかかわらず、日本家屋を思わせるような建物。
そこに踏み入れると同時に聞こえてきた音にグレイシアは気配を絶ち、そのまま発生場所へと近付いた。


「……」


美しい庭園に佇む男の影。
こちらに背を向ける形で立っている彼の様子を柱に寄りかかりながら眺める。

グレイシアは彼の奏でる音が嫌いじゃなかった。
少なくとも毎回、邪魔をしないよう黙って聞いているほどには。

そうしている間にも最後の音が響いて空気に融けていき、同時にグレイシアは絶っていた気配を徐々に表に出していった。


「!グレイシア。来ていたのでござるか」

「こっちに少し用があったからついでに顔を出しに来ただけよ。久しぶりね」


白金の髪が動く度に揺れて宙を舞う。
それが空から降り落ちる白雪のようで美しいと雨月は毎度飽きることなく思っていた。

ひと度牙を剥けば吹雪のように鋭い激しさで他者を寄せ付けないが、他人を魅了することに関しては誰よりも自然にやってのける。それも本人の意図しない内に。


「Gが嘆いたでござるよ。グレイシアは神出鬼没で連絡を取るのはひと苦労だと」

「そんなこと私には関係ないわ。私は私の好きにしか動かないもの。大体、他人に指図される謂れはないはずよ」

「まぁ、ジョットも認めていることでもござるな」


基本は従わず、自由に動く。
それを条件にグレイシアが渋々守護者を引き受けたことはボンゴレであればだれもが認知していることだ。
束縛を嫌う彼女を未だに諦めず引き止めようとしているのはGぐらいなものだろう。

雨月としては、行方知れずであってもグレイシアならば大丈夫だろうという確信があるため取り敢えず心配はしてない。
自分から会いに行くことはできずとも、こうして彼女から時折会いに来てくれる。

そして雨月はジョット同様、彼女は冷酷であるが同時にとても優しい人だと知っていた。


「そんなことより、もう一曲吹いてくれる?アナタの音、嫌いじゃないのよ」

「もちろんでござる」


……まったくGも心配しすぎでござるよ。
ファミリーが危機に陥った時、彼女はきっと何食わぬ顔をして助けてくれるだろう。

澄んだ音が響くのを実感しながらグレイシアを見れば、彼女は笑みこそないものの穏やかな表情で佇んでいた。