Izaya:14



まだ赤みの残る頬を気遣いながら、久しぶりに一緒に池袋を歩く二人。
時刻は夕日の射しかかる午後。

このままぶらぶらとデートをして、帰りに露西亜寿司でも食べようかと話していた時、心優の目に彼の姿が映り込んだ。


「あ、静雄くん」


声を上げた心優に、手を繋いでいた臨也が途端に浮かべていた笑顔を落とす。

サンシャイン通りの人混みの中でも目立つ金髪にバーテン服。
あんな恰好をしているのは池袋の中でも静雄ぐらいである。
向こうはこちらに背を向けているため二人には気付いていないらしい。
だが動物的嗅覚を持っている静雄だ。時間の問題だろう。

顔色を窺う心優の視線に、わかってると言うように臨也は頷いた。


「臨也、」

「……いいよ、行っておいで。俺もけじめはつけなきゃダメだしねぇ」


口ではそう言いつつも、本心では行かせたくはないのがまるわかりで。
忌々しげにその背中を睨みながら繋いでいた心優の手をそっと放した。

心優は一度苦笑してから臨也を置いて静雄の元へと小走りで近付く。


「静雄くん!」

「心優じゃねぇか。どうした……って……」


振り向いて心優に優しげな目を向けると同時に、見たくもないであろう仇敵の姿も視界に入ってしまった模様。心優の延長線上にいるのだから当然かもしれないが。

ピキッと浮かび始める血管。
異変に気付いた者から慌てて三人から距離を置き始める。


「やあ、シズちゃん」

「いざ……、」

「……?」


いつもならこの時点で怒声が響き、標識やら自動販売機やらが飛ぶはずなのにそれがない。
疑問に思うもすぐさまそれは解消された。

動きを止めた静雄の視線の先。
心優から臨也に移り、また心優へと戻る。
「なるほどな」と納得する声が静雄の口から漏れた。


「やり直すのか、お前ら」

「……うん。でも、そのっ……」


慌てる心優をなだめるように、静雄の大きな手が頭をくしゃりと撫でる。


「俺が言っときたかっただけだからよ、気にすんな。お前が幸せならそれでいいんだ」

「静雄くん……」

「はーい、そこまで」


恋人が目の前で大嫌いな奴と話していることに耐えきれなくなったのか、臨也は二人の間に割り込み、心優を奪って抱き締めた。

一度は収まったはずの沸点が高まり始める。
いつもの戦争的喧嘩には発展しないのかと安堵していた周囲も慌て始めた。
この街の人間ならこの二人の“喧嘩”がどれほど危険なのかわかっているから。

臨也も静雄が激怒する手前なのだとわかっていながらも、なおも挑発する言葉を紡いだ。


「ダメだよ、シズちゃん。心優は俺のなんだから口説いたりしちゃ」

「い、臨也……!」


心優が挑発を止めようとするがすでに遅し。

数秒後には爆発音が可愛く思えるような、凄まじい轟音が通りに響き渡ったのであった。





「相変わらず化け物じみてるよねぇ。本当、早く死ねばいいのに」

「物騒なこと言わないの!」


そんな会話をしながら走り続ける二人。
二人の間には固く手が結ばれていて、それはまるで、これからの二人を表しているようだった。








繋いだ心をその手に結んで
(もう離れることはない心。すぐ側にいる愛しい君)


fin.