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するりと抜けて落ちた制服に、露わになる白磁の肌。
キャミ姿のままスカートのファスナーに手が伸びるが、止まる。その目は自身の腕に向けられていた。


「……何、これ」


右肩から上腕にかけて伸びた黒いうねった線のようなもの。
刺青みたいだが、当然そんなもの彫った記憶はない。

指の第一関節ほどの長さまで伸びたそれをなぞっていると、不意に背後から声がした。


「それは『契約印』だ」

「……いきなり現れるのやめてくれる?」


深い溜め息を吐いて振り返る。

黒羽に鈍色の鎌。
全てを呑み込むかのような漆黒は不穏な雰囲気を増長させ、とてつもなく恐ろしく心臓を掴まれた気持ちになる。

しかし呉葉はそんな素振りも一切見せず、チラリと化粧台に備え付けられた鏡を一瞥し、「へぇ、」と呟く。
感心したような、含みがある声音で。


「鏡にも映らないんだ。さすがは死神……ってとこか」


呉葉にゲームを持ちかけ、皆瀬をこの世界に連れてきた男――死神は薄い笑みのまま『それ』を指差した。


「それは俺がお前がある条件の元に契約を交わしたという証明であり、残り時間を示すものだ。
 ルールを忘れたわけじゃないだろう?」

「『1ヶ月以内に皆瀬サンの補正を解けたら私の勝ち。負けたら私の魂を君に差し出す』……でしょ?わかってる、忘れてないよ」

「あぁ、そうだ。その刺青は半月で肘に、ひと月で甲にまで達する。より正確に言うなら、刺青が甲に届くまでに皆瀬マナの補正を解けばいい」


結果がどうなるにしろ、呉葉か皆瀬のどちらかは来月には消えてしまう。

こんなハイリスクノーリターンな賭け、呉葉以外の誰が応じるだろう。


「ちなみにもう一つお前が勝つ条件があるが……まあ、いいだろう。お前がそっちの条件で勝つことはないだろうしな」


と、死神は付け足すが尋ねようとはしなかった。
ゲーム自体に重要なルールであれば聞きたいが、死神がこう言ってるのであれば別にいいし、興味もない。

「あは、」と呉葉が口元を歪ませて昏く嗤う。

捻じれ、歪み、イカレた狂人。
狂った始まりをもう覚えてないけれど――きっと些細なことだった。
箍が外れたきっかけなんて大したことじゃない。どうでもいいことだ。


「せっかくのゲーム、愉しませてもらうよ」


好奇心の末に狂ってしまった少女は、どこか壊れた笑みで嗤った。