その後、私たちは合流し、テレビの前に戻ってきた。話を聞くところによると、丈さんと伊織くんの方にもデジモンカイザーがやって来て、大変だったらしい。
「丈さん、デジモンカイザー見たんですか?」
「ああ、見たところ湊海くんたちと同い年くらいだったね」
「同い年なのにあのダサいセンス……目を見張るものがありますよね」
「注目するとこそこなの?」
いやーだってあれは……ねえ? ちょっとありえないというか、恥ずかしいというか……。私なら、絶対着ないかな!
まあカイザーのことはおいといて、この辺りのエリアは、アグモンたちのように、ゴマモンが護衛することになった。
「じゃあゴマモン、ここを頼んだよ」
「うん。これからここは、おいらが守るよ」
「また何かあったら、すぐ駆けつけるから」
「わかってる!」
「それじゃあ帰りましょう」
「あの、ずっと気になっていたんですけど……」
タケルくんの言葉に私たちがテレビへ向かおうとすると、突然伊織くんがそんなことを言い出した。
「なんだい、伊織くん?」
「改めて……」
「ん?」
「僕、火田伊織です」
伊織くんは自己紹介をすると、ぺこりと頭を下げた。
「あー、今さら挨拶なんかすんなよ!」
「いいえ、一度やりかけたことはちゃんと最後までやらなくてはいけませんから」
大輔くんは呆れたように伊織くんを見たが、伊織くんは至って真剣なようだ。もう名前も顔も知っているのに、わざわざ挨拶をしてくれるのは、伊織くんくらいしかいないだろうな。私は思わずくすりと笑った。
「伊織くんって、丈さんに似てる。そういう律儀で誠実なところ!」
「光子郎さんにも似てるよ。知識欲が旺盛なところ」
「ひとりでふたり分か。頼もしい後輩だな!」
ヒカリちゃんとタケルくんの発言に、丈さんは頷いた。確かに伊織くんは丈さんにも光子郎さんにも似ている。光子郎さんは知識の紋章を受け継いだので、ある意味当たり前なのだが、丈さんと似ているのはどういうことだろう。たまたま、なのかな。でも、頼もしいには違いない。私にはひとり分の力しかないしね。
「いよっ、頼もしい!」
大輔くんがニヤニヤと笑いながらからかうと、伊織くんは顔を真っ赤にして俯いていた。かわいいなあ。
私たちはパソコン室へ戻ってきた。外はすっかり夕暮れ時だ。
「デジモンカイザーめ、ざまあみろ! 支配したばっかのエリアを解放されて、どたまにどたまに来てんだろうなあ!」
パソコンの画面を見つめながら、大輔くんが得意気にそう言った。
「でも、まだまだこれからよ」
「そうだね、ここからまた頑張らないと!」
私はヒカリちゃんの言葉に拳を握った。デジモンカイザーは次々とダークタワー建てて、自分の支配下を増やしていっている。この王様気取っている痛い奴を、何とか止めないと――!
「丈さん、また来てくださいね!」
「ああ、僕のデジメンタルも、どこかにあるかもしれないからね。また寄らせてもらうよ」
「それから、僕の家にも遊びに来てください。おじい様、喜ぶと思います」
「そう? じゃあ、そのうち……」
伊織くんはすっかり丈さんに懐いたようで、お家への招待をしていた。丈さんも嬉しそうに顔をほころばせ、頷いていた。
「私も行きたいな! 伊織くんちのおはぎ、おいしいんだって?」
すると、ヒカリちゃんがひょこりと顔を出し、そう言った。
「ヒカリちゃんが行くなら、俺も行くー!」
「大輔くんはダメ!」
「ええっ! どうして!?」
「だってチビモンと一緒に私の分まで食べちゃうもん!」
さ、さすがの大輔くんもそこまでは……しないよね?
ヒカリちゃんにそのような扱いを受けた大輔くんはチビモンをじろりと睨んだ。
「……チビモン、お前来んなよ」
「ええー!? ひどいよ大輔ぇ!」
チビモンはとてとてと歩きながら大輔くんに反論した。こんなかわいいチビモンをおいていくなんて……ひどい、ひどいよ大輔くん!
「あ、あの、お母さんに頼んでたくさん作ってもらいますから!」
すると、なるべく争いを避けたい伊織くんはそう提案した。伊織くんちのおはぎか……私も食べたいなあ。
「じゃああたしも行く!」
「僕も!」
「ええ!? タケルも!?」
大輔くんが怪訝そうにタケルくんを見た。失礼だなあ、タケルくんが行くのは不満なのか。私なら大歓迎なのに。それとも、人数が増えすぎるのが嫌なのかな?
「あんまりいっぺんに行っちゃ伊織くんのお家も大変だろうし、私とタケルくんはまた今度ふたりでお邪魔しよっか」
「そうだね、湊海お姉ちゃん!」
タケルくんは嬉しそうに私と腕を組んだ。こういうところは、まだまだ可愛いんだけどな。
「なっ……、た、タケルずるいぞ!」
「大輔くんはヒカリちゃんと行けばいいじゃん」
「そうよ大輔、矛盾してるじゃない」
「ああ、もうわかったよ! みんなで仲良く行けばいいんだろ! もう!」
「あははははは!」
大輔くんが地団駄を踏んでいる姿に、私たちは思わず笑った。最初からそう言えばいいのに。
「じゃあ今度、みんなで伊織くんの家に行かせてもらうね」
「はい、お待ちしています!」
丈さんの声かけに、伊織くんは嬉しそうに返事をした。丈さんや大輔くんたちと一緒に伊織のお家に行くなんて、絶対楽しいに決まっている。今から楽しみだ。
みんながにこやかに話している姿を見て、私も顔を緩ませた。いつまでも、一緒にいられたらいいな――。