呼び出し


 あの春の戦いからしばらく経ったある夏の日――私は太一さんとヒカリちゃんと一緒に、宿題をこなしていた。

「湊海、ここ分かんないんだけど……」

「太一さんが分からないのに私が分かる訳ないでしょう!? 私は貴方より2つも学年が下なんですよ!?」

 私が思わずそう怒鳴ると、太一さんはため息をつき、机をゴソゴソと漁り始めた。そして何かを見つけると、私の前にドンッと勢い良く置いた。


「ほら、教科書! 参考書もあるから!」

「そういう問題じゃない……!」

 太一さんは私に向かって親指を立てた。そのふざけた態度に思わず鉛筆をギリギリと握る。


「頼むよ! もう湊海しかいないんだから!」

「……はあ」

 頭を下げる太一さんを横目に、私は教科書を捲った。さっきからこの調子で、自分の宿題が進まない。もう今度からは空さんたちを呼ぶか、ヒカリちゃんだけとしよう――。
そのヒカリちゃんはと言うと、黙々と自分の宿題を進めていた。流石である。
 するとその時、リビングの方から電話の音が聞こえた。普段なら伯母さんが応対に出るが、生憎今日は不在だ。


「電話? 誰からだ?」

「私が出てきます!」

 太一さんは立ち上がろうとしたが、私はそれを制した。


「太一さんは分かる所だけでも進めといてください。ヒカリちゃん、見張りよろしくね」

「うん」

 ヒカリちゃんが頷いたのを確認して、私は部屋の外へ出た。その際に太一さんの「ちえっ!」という声が聞こえたが、聞かなかった事にする。


「もしもし?」

『もしもし、もしかして湊海さんですか!?』

 受話器を耳に当てると、電話の相手は食い気味にそう叫んだ。


「その声は光子郎さん! どうしたんですか?」

『急いで僕の家に来てください! 太一さんとヒカリさんも一緒に!』

「い、今ですか?」

『今です! デジヴァイスも忘れずに持ってきてくださいね!!』

「あ、光子郎さん!?」

 光子郎さんはそう言うと、電話を切ってしまった。随分慌てていたが、一体どうしたのだろう……。しかも、デジヴァイスが必要って――?


「太一さん、ヒカリちゃん!」

 私は太一さんたちに事情を説明し、急いで光子郎さんのお家へ向かった。


「さ、どうぞ。上がってください」

 インターホンを鳴らすと、光子郎さんが出迎えてくれた。どうや、光子郎さんのお母さんも、丁度出掛けているらしい。光子郎さんに促され部屋の中に入ると、空さんたちが座っていた。


「太一、湊海ちゃん、ヒカリちゃん!」

「よー! お前らも来てたのか!」

 太一さんは手を上げ、気軽にそう言った。


「光子郎さん、もしかして私たち全員呼んだんですか?」

「……はい」

 私の質問に光子郎さんは神妙な顔で頷いた。そんな光子郎さんの様子に、太一さんが眉を顰める。


「一体何が……って、あれ? ヤマトは?」

「ヤマトならタケルくんを駅まで迎えに行ってるよ」

「そろそろ来るんじゃないかしら?」

 丈さんと空さんが答えたその時、インターホンの音が鳴り響いた。再度光子郎さんが応対をしに部屋を出る。


 全員が揃った私たちは挨拶もそこそこに、光子郎さんをじっと見つめた。光子郎さんは息をつくと、こう話を切り出した。


「……実は、ゲンナイさんから呼び出しが掛かったんです」

「じいさんから?」

 太一さんが首を傾げて聞き返した。


「詳しい事は着いたら説明するから、とりあえず来いと……」

「相変わらず勝手だな!」

「来いって言われても、ゲートは閉じられてるんだろ? どうやって行くんだ」

 太一さんが憤怒する横で、そうヤマトさんは疑問を口に出した。


「ゲートに関しては、ゲンナイさんが予め開いてくれているそうです」

 光子郎さんはそう答えると、パソコンを操作し始めた。私たちは画面を覗き込み、それを見守る。少しすると、ゲートの表示が浮かび上がった。


「本当に開いてる……!」

 タケルくんは目を見開き、心底驚いた様子だった。


「……でも、何か変よね」

 その言葉に、私たちは一斉に空さんを見た。


「何が?」

「だって、今までゲートが開いて行く事はあっても、あっちから来て欲しいなんて事は一度も……」

「確かに……」

 丈さんが顎に手を当てうーんと唸る。


「デジタルワールドに何かが起きて、私たちの力が必要になった……という事なんでしょうか?」

「恐らく」

 光子郎さんは私の意見に頷いた。その瞬間、みんなの表情が真剣なものに変わる。
ラブラモン――。私はぐっと拳を握った。


「……行ってみよう。デジタルワールドに!」

『うん!』

 太一さんの号令に私たちは立ち上がり、デジヴァイスを掲げた。


「よし、行くぞ!」

 その瞬間パソコンの画面が光り、私たちは吸い込まれた。この独特の感覚に思わず目を瞑る。――いざ、デジタルワールドへ。




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