本当の意味 「あ、あれは……!」 私たちがたどり着いたのは、草原だった。そのまま少し歩くと、ゲンナイさんとラブラモンたちの姿が見えた。 「湊海様!」 「ラブラモン!」 ラブラモンは私に気づくと、一目散に駆け寄った。私はギュッとラブラモンを抱き締めた。 「少し背が伸びましたね。お元気でしたか?」 「うん、元気だったよ!」 この前のゴールデンウィーク振りだろうか。ラブラモンも変わらない様子だったので、私は頬を緩めた。 他のみんなもパートナーとの再会を喜んでいた。――昨年の今頃はずっと一緒にいたんだ。たった3ヶ月でも、会えないのは寂しい。 「ほっほっほっ、久しぶりじゃのう……子どもたち」 そのゲンナイさんの声に、私たちはそちらを向いた。 「やいジジイ! デジタルワールドはもう大丈夫なんじゃないのか!?」 相変わらずの喧嘩腰で太一さんが尋ねる。気持ちは分からんでもない。むしろ同意見だ。 「そうよ! もうこの世界は平和になったんじゃないの?」 「何かあったんですか?」 続けてミミさんと光子郎さんもゲンナイさんに尋ねる。私たちがゲンナイさんと会う時――それは即ち、何か問題が起きた時。 するとゲンナイさんに「とりあえず座りなさい」と促されたので、私たちは円になるよう地面に腰掛けた。 「今回お主たちを呼び出したのは、新しい敵が現れたとか、デジタルワールドの危機とか、そういう類のものではない」 「じゃあ何なんだよ?」 「うむ。お主たちがアポカリモンを倒したおかげでこの世界の歪みは無くなり、正常に戻った……はずじゃった」 「はずだった……って事は、まだ歪みは直ってないって事?」 空さんの問いにゲンナイさんは大きく頷いた。 「その通り。歪みを直すには、アポカリモンを倒すだけじゃ駄目だったのじゃ」 『ええ!?』 私たちは思わず声をあげた。 「じゃ、じゃあ、どうすればいいんだよ!」 「歪みを完全に正すためには、闇の力に封じ込まれたデジタルワールドを守護する力を解き放つ必要がある!」 「デジタルワールドを守護する力……?」 「それって、なあに?」 「それはじゃな……」 タケルくんが首を傾げて尋ねると、ゲンナイさんが神妙な顔になる。私たちはじっとゲンナイさんの言葉を待ったのだが――。 「知らん」 私たちは思わずずっこけた。 「おいジジイ!」 「はは、すまんすまん」 太一さんが怒鳴ると、ゲンナイさんは笑いながら謝った。 「でも、これだけは分かっておる。この力が弱まると、闇の力が増大してしまうのじゃ」 闇の力が増大……。私は息を呑んだ。この世界が再び闇に包まるという事態は何とか避けたい。 「それで、僕たちは何を?」 「うむ。お主たちには、紋章の力でその封印を解いてもらいたい」 光子郎さんの問いにゲンナイさんはそう答えた。すると太一さんがつまらなそうに口を尖らせた。 「何だよ、それだけか?」 「それだけではないぞ。まさにお主らは、紋章で封印を解くために選ばれし子どもに選ばれたのじゃ」 『ええ!?』 私たちが選ばれた理由――何だかあっさり明かされてしまった気もするが、そういう訳だったのか。アポカリモンたちとの戦いはあくまで経過にすぎないと……。ただ、彼らを倒すのも私たちの役目だったんだと思う。そのおかげで、今この世界は平和になったのだから。 「そうだったんだ……」 「もっと早く教えてくれれば良かったのに」 「そう言うでない。わしも最近知ったんじゃから」 ミミさんが小さく不満を漏らすと、ゲンナイさんは苦笑いでそう言った。 「ま、いいや。とっととその封印とやらを解こうぜ!」 「待て。まだ説明は終わっとらん」 そう立ち上がろうとする太一さんを、ゲンナイさんは止めた。みんなが不思議そうにそれを見つめる。 「……封印を解くと、アグモンたちは完全体や究極体に進化する事が出来なくなるのじゃ……それでも、いいか?」 そのゲンナイさんの発言に、私たちは一瞬言葉を失った。 「完全体に……」 「進化出来ない……?」 「そんな事って……」 私は思わずラブラモンを見つめた。ラブラモンも悲しそうに目を伏せる。究極体はおろか、完全体にすら進化が出来なくなるなんて――。進化出来るのは、私たちが冒険で頑張ってきた証。そして絆でもある。 もし、またこの世界が闇に包まれた時……私たちは何の役にも立てない。 みんな同じ気持ちだったのか、周りの空気がどんよりと淀む。 「紋章の力を使うって……そういう意味だったんですね……」 光子郎さんがぽつりとそう呟いた。完全に力を使い切る――そういう意味だったのか……。 「アグモン……」 太一さんはそうアグモンを呼んだ。そのアグモンはというと、しばらく何かを考えていた様子だったが、真剣な表情でスッと立ち上がった。 「……太一、やってよ。それでデジタルワールドは救われるんでしょ?」 「アグモン……でも、」 「大丈夫だよ。だって、紋章はみんなの心の中にあるじゃない!」 太一さんの言葉を遮り、ガブモンがそう私たちを励ます。 「ガブモン……」 ヤマトさんが寂しそうに笑い、ガブモンを見つめた。 「1人の紋章はみんなのために、みんなの紋章は1人のために……ヒカリ、そうでしょう?」 「テイルモン……」 「タケル! 君が希望を忘れなかったら僕はきっと、また進化出来るよ!」 「パタモン……うん……!」 「そーら、私が進化出来なくても、パートナーでいてくれるでしょう?」 「そんなの……当たり前じゃない!」 「ミミ……。トゲモンじゃあまり可愛くないかもしれないけど……良いかな?」 「……ふふ、何言ってるの。トゲモンも、パルモンも、とってもキュートよ!」 「光子郎はんがいてくれはったら、何かわてもまた進化出来そうですわ。デジモンの進化の謎、是非解いたってください」 「……はい。任せてください」 「まあ、オイラはアグモンたちみたいに究極体になれた訳じゃないから! ……あー、その、ごめんな。丈」 「なーに謝ってんだよ。……いつか、究極体の君の姿を見せてくれるんだろ?」 「もっちろん!」 デジモンたちは自分も辛いだろうに、パートナーに優しく声を掛けていた。……彼らはいつもそうだ。例えどんな事があろうと、私たちを第一に考えてくれる。それはもちろん、私のパートナーも……。 「湊海様、私の力不足で申し訳ありません」 「い、いやいや、ラブラモンのせいじゃないよ!」 土下座をする勢いのラブラモンを、私は慌てて止めた。ラブラモンは顔をあげると、私の上に手を重ねた。 「……例え進化出来なくても、どんな姿でも、私は貴女を守り続けます。……絶対に」 「……ありがとう、ラブラモン」 私はラブラモンを抱き締めた。 進化出来なくたって関係ない。ラブラモンは私の大切なパートナーだ。1人じゃ難しくても、ラブラモンと一緒なら、きっと――。今までの冒険も、そうして困難を乗り越えて来たのだから。 「うむ。では、準備は良いかの?」 『はい!』 私たちは元気良く返事をした。今度も絶対、大丈夫だ。 |