「……って、元の部屋のまんまじゃないですか!」 たどり着いた――と言うよりは、恐らく移動していない。今私がいるのは、自分の部屋だった。 「元から怪しかったですけど、ついに頭が……」 『ほんっと失礼じゃなお主は! 流石にそんな凡ミスはしない。机の上をよく見てみよ!』 「机の上……?」 ゲンナイさんと言う通りに、机の前まで移動する。そしてじっと机見ると――。 「……時間割が、4年生?」 時間割だけではない。教科書も、ノートに書いてある学年も、全て4年生になっていた。 『うむ。今回の湊海は4年生じゃ! ここからはどんどん学年が上がっていくぞー!』 「4年生ですか……」 4年生と言うと、光子郎さんとミミさんと同じ学年か――。ノートに書いてあったのが正しければ、恐らくクラスも同じだ。あの2人と同じクラス……うん、想像がつかない。 『さあ、そろそろ学校の時間じゃ。行ってこい!』 「ええ!? 学校あるんですか!?」 『もちろん』 「そ、そんな事言われても……私、4年生の内容なんて分からないですよ?」 『大丈夫じゃ、そこら辺も上手い具合にデータを弄ったからちゃんと分かるようになっとる!』 「逆に怖いですよそれ!」 私の頭は一体どうなってしまったのだろうか。 『パラレルワールド内だけだから問題ない! 現実世界に戻ったら全て元通りじゃ!』 「はあ……」 イマイチ信用出来ないが、今更どうこう言っても仕方ないし――もうこれ終わったらラブラモンに成敗してもらおう。 「湊海、学校遅れるわよー!」 「あ、はーい! じゃあ、いってきます」 『頑張ってな!』 私はパソコンを閉じ、玄関へ出た。するといつも通り太一さんとヒカリちゃんが待ってくれていたので、一緒に学校に向かう。 「湊海、光子郎に渡しといてくれ。クラブの予定表」 「わ、私ですか?」 「え? 同じクラスなんだから良いだろ?」 「あ、ああ、そうでした……」 私は予定表を受け取った。 「湊海お姉ちゃんどうしたの?」 「い、いや、ちょっとボーッとしてて……」 「おいおい、しっかりしてくれよ」 「あはは、すみません……」 ほ、本当に光子郎さんたちと同じクラスなのか……。何故か緊張してきた。 「じゃあまたな!」 「お兄ちゃん、ちゃんと授業受けるんだよ?」 「わーってるって! 湊海、よろしくな!」 「あ、はい!」 学校に着くと私たちはそれぞれの教室へ向かった。途中で光子郎さんと会うときもあるのだが、今日に限って会わず。ど、どうしてだ――!? 私は階段を上り、4年生の教室へ向かった。普段行かないから緊張する……。 「お、おはよー……」 力無くドアを開け、教室の中へ入る。席が分からない――と思ったが、すぐ分かった。脳を弄られた影響だろうか。これ本当に現実世界に戻っても大丈夫なのか!? 「湊海ちゃん、おはよう」 「おはよう結城」 「お、おはよう」 知らないけど知っているクラスメイトに挨拶をし、自分の席へ着く。今日は1日ずっと妙な違和感を抱えつつ過ごさなきゃいけないのか……頑張れ、私。 「湊海さん、おはようございます」 「あ、光子郎さ……光子郎くん! おはようござ……おはよう!」 色々と普段の癖が出たが、何とか挨拶をする。どうやら光子郎さん――光子郎くんは隣の席のようだ。ラッキーなんだかそうじゃないんだか。 「今日は早いで……早いね。どうしたの?」 「日直だったんですよ。ミミさんも一緒のはずなんですが……恐らく寝坊でしょう。来てません」 「あはは……忘れてるのかもよ?」 「それも有り得ますね」 光子郎くんは何度も頷いた。流石ミミさん――今はミミちゃん。相変わらず我が道を貫いている。 「あ、これ。太一さんから。サッカークラブの予定表だって」 「ありがとうございます」 私は太一さんから預かっていた予定表を渡した。 「湊海さんもクラブ入ったらどうです? 太一さんや空さんもいますし、楽しいですよ」 「わ、私? 私はそんなに運動出来ないしなぁ……」 「僕も湊海さんがいたらもっと楽しくなるんですけど」 「えっ、ええ……!?」 私は思わず光子郎くんを見つめた。ふ、普段そんな事言わないくせに――。同い年だから? あんまり関係ない気もするけど! 「湊海さん?」 「か、考えとく……」 私は光子郎さんから顔を逸らし、そう答えた。サッカーか……見るのは好きだけど、実際やるとなると大変そうだ。太一さんにも相談してみよう。 そのとき、教室のドアが開いた。 「おっはよー! 湊海ちゃん、光子郎くん!」 ミミちゃんは上機嫌な様子で教室にやって来た。席は私の後ろらしい。光子郎くんの隣で、ミミちゃんの前なんて楽しそうな席だなぁ。 「おはよう、ミミちゃん」 「……ミミさん、何か忘れてませんか?」 「え? 何が?」 光子郎くんがそう問いかけると、ミミちゃんは首を傾げた。光子郎くんはため息をつき、黒板を指さす。そこには光子郎くんとミミちゃんの名前が書かれていた。 「あ、ごめん。忘れてた」 「でしょうね。朝の仕事は僕が全部やったので、ミミさんは放課後の仕事お願いします」 「ええー!? あたし1人で!?」 「当たり前でしょう!」 光子郎くんとミミちゃんは今にも喧嘩しそうな勢いで言い合いを始めた。この2人、仲が良いんだか悪いんだか分からないな!? 「ま、まあまあ。ミミちゃん、私も手伝うよ」 「本当!? 湊海ちゃん、大好き!」 私がそう宥めると、ミミちゃんは嬉しそうに抱きついてきた。一件落着である。 「湊海さん、甘やかしちゃダメですよ」 「そ、そういうつもりじゃないんだけど……」 ――と思っていたが、そうでもなかったようだ。光子郎くんは口調は穏やかなものの、とんでもない表情で私を睨んでいる。どういう感情なんだろうか。大変怖い。 するとミミちゃんがにやりと笑い、更に力強く私に抱きついた。 「光子郎くんヤキモチー? 残念! 湊海ちゃんは、あ・た・し・の!」 「は? 何言ってるんですか? 湊海さんは誰のものでもありませんよ。強いて言うなら幼馴染である僕の方が、湊海さんの事をよく知っています」 「ふふ、知ってるだけでしょ?」 「あ?」 2人の間を冷たい空気が流れる。おかしいな、ちょっと前にこんな光景見た気がするなぁ――。それと光子郎くん、女の子に対して「あ?」はダメだよ。「あ?」は。 「お、きたきた。このクラス名物の結城争奪戦!」 2人の戦を見ていたクラスメイトの1人が楽しそうにそう言った。おい、今なんて? 「今日はどっちが勝つんだ!?」 「私ミミちゃん!」 「俺は泉かな!」 「私も泉くん!」 「いやいや、やっぱり太刀川が……」 「そこは光子郎だろ!」 クラスメイトたちはワイワイと楽しそうにどちらが勝つかを予想していた。そもそもこれ、勝ち負けの問題じゃない気がするだけど。 「湊海ちゃん!」 「湊海さん!」 「あ、えっと……」 私はジリジリと詰め寄るミミちゃんと光子郎くんを見比べた。何でこう同級生になるとみんな態度が変わるかな……!? 「わ、私は、ミミちゃんも光子郎くんも大好きだよ!」 私が頬をかきながらそう笑うと、2人は息をついた。 「ふう……仕方ないわね。湊海ちゃんに免じて、許してあげる」 「許してもらう筋合いはありませんが、良いでしょう。湊海さんに無理させないでくださいね」 「させる訳ないでしょ!」 こうして何とか喧嘩には発展せず、2人は席に着いた。 その後授業、給食、昼休み、また授業、掃除と順番に事をこなしていく。ちなみに授業の内容は本当に分かった。なぜ分かったかは分からないが、分かった。恐るべし、ゲンナイさん。 そして放課後。光子郎くんは早々とサッカークラブに行った。その前に本当に大丈夫かと私に何度も問いかけていたが、私が無理やり背中を押し、クラブへ行かせた。そんなに私頼りないかな……!? ――と、黒板を消しながらそう思うのであった。くそぉ、あの担任字を濃く書きすぎだよ! なかなか消えないし! 「湊海ちゃん、日誌書くの手伝ってー!」 「うん、あとちょっとで黒板綺麗になるから待ってて!」 私はミミちゃんにそう返事をして、黒板の方を向いた。こりゃ1回叩かないとダメだな。窓の外で黒板消しを叩き、再度黒板を消すと、何とか綺麗に消す事が出来た。日直なんて久しぶりにやったが、やっぱり大変だな。私は息をついて、ミミちゃんの元へ向かった。 「お待たせー」 「あ、湊海ちゃん。今日1日どうだった?」 「え?」 私はドキリと心臓が高鳴った。ま、まさかミミちゃん、私の目的を知って――!? 「日誌書かなきゃいけないのよ! あたしは特に変わった事なかったし、湊海ちゃんはどうだったのかなって!」 ――いる訳がなかった。そりゃそうだ。 「そうだなぁ……。じゃあ、ちょっと貸して!」 私はミミちゃんから鉛筆を受け取り、日誌を書き始めた。 『今日は1日、とても楽しかったです。国語も、算数も、もちろん体育も。いつも通りだけれど、楽しかった。クラスメイトと……友達と一緒に過ごすだけで、いつも通りの日常も楽しいものに変わる。これがどれだけ幸せな事か、改めて気づきました。明日もまた、みんなが楽しい1日でありますように。 P.S. 先生、日直の人が消すの大変なので、字はもう少し薄く書いてください。』 「これでよし……と! あ、字で私ってバレちゃうかな?」 「大丈夫大丈夫。あの先生甘いから!」 「あはは、そっか。ならいいか……ね、ミミちゃん」 「なーに?」 「私、ミミちゃんと同じクラスで良かった!」 「ふふ、あたしも!」 「……もちろん、光子郎くんともね!」 私がドアの外へ向かってそう言うと、ミミちゃんが目を見開いた。 「……気づいてたんですか」 光子郎くんはゆっくりと教室へ入ってきた。ユニフォームに着替えているので、恐らく抜けて来たのだろう。 「光子郎くん、いたの!?」 「心配だったので戻ってきたんですよ……でもまあ、大丈夫そうですね」 光子郎くんは私とミミちゃんを見比べて、安心したように笑った。何をそんなに心配していたかは分からないが――ま、いっか。 「光子郎くん、ミミちゃん」 私がそう名前を呼ぶと、2人はこちらを振り返った。 「……あの、もしもだよ? 私が違う学年になったとしても、仲良くしてくれる?」 私のその言葉に、2人は不思議そうに顔を見合わせた。そしてくすりと笑い合うと、私に笑顔を向けた。 「当たり前じゃない!」 「ええ。年齢が変わろうと、学年が変わろうと関係ないです。僕にとって……僕たちにとって、湊海さんはとても大切な人ですから」 光子郎くんに続けて、ミミちゃんも大きく頷く。それが分かれば、私は――。 「……ふふ、ありがとう。じゃあ、またね!」 今度は会うときは年下として、仲良くしてくださいね。 |