愛、というものの定義は知らないが、クロエにはそれが何なのか、なんとなくわかっていた。
例えばサンジの膝に座るとき、彼に撫でられるとき、鼻先を合わせてキスするとき。クロエはサンジが好きだと感じるし、きっとサンジも、自分を好きだと思ってくれているだろう。
麦わらの一味の仲間になってから、クロエが一番好いているのはサンジだった。もちろんみんな、優しく接してくれるけれど、サンジは美味しいご飯を作ってくれるし、自分が何をしてほしいのか、ちゃんとわかってくれるのだ。だから彼といる時間が、船の中では多かった。
今日もまた、サンジの膝の上で一緒にレシピを見ていると、ナミとロビンがダイニングに入ってきた。

「あらクロエ、またサンジ君と一緒にいるの」

「そうだよ」

「ふふ、サンジのことが本当に好きなのね」

「うん、好き!」

そう答えると、二人は何がおかしいのか、くすくすと笑った。サンジを見上げると、彼も少し微笑んでいるようだ。

「ナミさん、ロビンちゃん、何かお茶でも……?」

「ああ、自分でやるから大丈夫よ。今サンジ君を動かしたら、クロエに睨まれちゃうし」

ナミはよくわかってるなあと、クロエは少し身じろぎしながら思った。今のこの時間が、クロエにとって一番幸せなのだ。
一度、サンジが好きなのだと、チョッパーに相談したことがある。チョッパーは驚いた様子もなく、やっぱりなと納得していた。

「何でわかったの?」

「クロエはサンジといるときが一番嬉しそうだし、くつろいでるから……ちょっと確認するけど、それは恋とかじゃないんだよな?」

「恋だよ、恋に決まってるじゃん。きっとサンジも私のことが好きだよ」

いわゆる両想いってやつだ。そうだったらいいなとうっとりしていると、チョッパーは何やら気まずそうに頭を掻いた。

「うーん……まあ、クロエが幸せならおれは何も言わないよ」

「?」

チョッパーの言っている意味はよくわからなかったが、あまり考えないようにした。

「サンジ、お腹減ったー」

「ん? メシか?」

「うん!」

「ちょっと待ってろ」

自分をそっと下におろして、サンジは立ち上がった。自分用のご飯を作ってくれるのだ。もちろん、ほかのみんなとは違う、特別メニュー。ここにも、サンジからの愛を感じる。
「たんと食えよ」と目の前に置かれた皿に目を輝かせて、クロエはゆっくりと食べ始めた。本当はガツガツ食べたかったけど、サンジのいる前でそんなガサツな真似はできない。

「美味いか?」

「うん、サンジのご飯は世界一美味しい!」

「はは、そりゃよかった」

そう言って、笑うサンジが好きだ。眼鏡をかけて料理の勉強をするサンジも好きだし、楽しそうに料理するサンジも好き。
ただ、ナミたちに対してハートの目になるサンジは、好きになれない。自分も女なのにそうはならないのも、納得できない。けれどそれを言っても、サンジは困ってしまうだろうから、クロエは言わない。
自分はサンジを最も理解している女だと、クロエは思う。これからも彼とずっと一緒にいられたら、どんなに幸せだろう。
大きな手でそっと頭を撫でられる。その手つきは優しく、無意識にゴロゴロと喉が鳴る。
チョッパーの気まずそうな表情も、ナミたちのクスクス笑いも、全部どうだっていい。サンジさえいれば、それでいい。それでいいのだ。

20190630

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