みんなには、それぞれ役割があるでしょ?
ルフィは船長、ゾロは戦闘員、サンジはコック、ナミは航海士、チョッパーは船医、ウソップは狙撃手、フランキーは船大工、ブルックは音楽家、それからロビンは考古学者。
私には特化してることがないし、そんなに強くもない。私、ちゃんと役に立ってるのかな?
思っていたことをすべて言うと、隣に座るロビンは驚いたように瞬きをした。線上の青の光が、薄暗い室内を照らす。クロエにとって、この船にあるアクアリウムは、ダイニングの次にお気に入りの空間だった。水槽で泳ぐ様々な魚がその光を遮るたび、ロビンの表情がわかりづらくなる。
「クロエはみんなの手伝いをしてるでしょう? 役に立ってないなんて、誰も思わないわ」
「うーん……」
「それに、十分強いと思うけれど」
「でもゾロほどじゃないでしょ? ゾロくらい強ければ、戦闘員になれるんだけどな……せめて覇気が使えればよかったのに」
はあ、とため息をつくと、「覇気が使えなくても、自分の身を自分で守れるのなら、それは強いと言えるわ」と、ロビンは本を閉じて言った。
「役に立つ、立たないではなく、みんな、それぞれにできることをやろうとしているだけよ」
「そう、だよね……」
こんなことを考えること自体、おかしいのだ。それはわかってる。けれど――
「あら、腑に落ちない顔ね」
ロビンがふっと笑った。
「そんなに心配なら、ルフィに聞いてみたらどうかしら」
「ルフィに?」
船長であるルフィに聞いて、役に立ってないなんて、ズバッと言われたらどうしよう。考え込んでいると、ロビンは微笑みながら言った。
「大丈夫よ、そんな悩み、吹き飛ばしてしまうと思うわ」
*
夕食はとうに終わり、ルフィはもう寝てるんじゃないかと思ったが、特等席である船首の上に寝転んでいるのを見つけた。麦わら帽子を傍らに置き、すっかり暗くなった空をぼんやり見上げている。星が瞬き、月明かりが優しく甲板を照らす。クロエはゆっくり彼のもとへ近づいた。
「……クロエか?」
視界に入る前に気配で気づいたのか、ルフィは言った。うん、と返して彼のそばに立つ。ルフィはちらりとこちらに目を上げた。
「どうした? なんか元気ねェな」
「ちょっと悩んでて……」
「ん? どんな悩みだ?」
「あのね……私って、この船の役に立ってるかな?」
「は?」
ルフィはぽかんと口を開けた。クロエは話を続ける。
「いや、みんな役割があるじゃない? 私は戦闘員になるほど強くないし、航海もできないし、料理もそんなに上手じゃない……できるものが何もないの、そんな自分がこの船に乗ってていいのかなって、たまに思うの」
「…………」
ルフィは無言で眉根をひそめた。クロエは下を向き、堰を切ったように話し続ける。
「私はみんなの手伝いしかできない。そう思うと不甲斐なくて、悲しくて……ルフィが、もし、私が役に立ってないと思うなら――」
それ以上は続けられなかった。ルフィの手が伸び、口元を覆ったからだ。目を上げると彼は身を起こし、胡坐をかいていた。
「それ以上、言うな」
ルフィに睨まれたのは初めてだった。その気迫に、クロエは圧倒された。いつも自分に見せる顔とは、まるで違った。
「おれが、役に立たねェって理由で船から下ろすような、そんな船長に見えるか?」
低い声で言われ、クロエはぶんぶん首を振った。自分の言おうとした言葉が、ルフィにとってどれほど屈辱的なものだったかを、今更ながらに気づいた。
ルフィの手が、口元から離れる。彼は表情を緩めて言った。
「それにクロエには、でけェ夢があるんだろ? それを叶えたいって思いはその程度なのか?」
「ううん……みんなが夢を持つこの船で、絶対叶えたいって思ってるよ」
心を込めて言うと、ルフィはにかっと笑った。
「じゃあ、それでいいじゃねェか。役割なんて誰も気にしてねェし、クロエにはクロエにしかできねェことがある」
「私にしかできないことって?」
「みんなを喜ばせることに決まってるだろー、特にサンジなんかは、クロエが手伝ってくれて嬉しいって言ってるぞ」
「それは女好きだからじゃ……」
そう突っ込むと、ルフィはパチンと手を叩いた。
「ま、それもあるだろうけど、とにかく、もう二度とそんなこと言うなよ」
手伝い『しか』できないのではなく、手伝い『が』できる。そう考えれば、気が楽になった。
「うん、ごめんね」と謝ると、ルフィは腕組みをして、考えながら言った。
「んー……でもまあ、クロエの気持ちもわかるぞ。おれなんて不器用だし、何もできねェからな。クロエたちがいるから、おれは船長ができるんだ」
ついてきてくれてありがとな、とルフィが笑う。やっぱり彼には笑顔が似合う。太陽のようなその笑顔が、クロエは好きだった。
「ふふ、ルフィだからこそ、ついて行きたいって思うんだよ。私たちを引っ張ってくれてありがとう」
そう言うと、へへ、とルフィは照れたように頭をかいた。
「クロエちゃーん、お風呂先入る〜? 何ならおれと一緒に……って、何このいい感じの雰囲気!?」
くるくると船の中から出てきたサンジが、ショックを受けたように叫ぶ。クロエは慌てて手を横に振った。
「別になんでもないよ、相談してただけ」
「お、サンジ、先風呂入っていいか?」
「おれはクロエちゃんに聞いてるんだよ!」
「あ、いいよ、ルフィ先入って」
「おう!」
船首から降り、スタスタとルフィは船内に入っていく。ぐぬぬ、とサンジはその後ろ姿を見た後、煙草を取り出しながらこちらを向いた。
「ルフィに相談して、解決したかい?」
クロエはにっこり笑って頷いた。
「うん! やっぱり頼りになるね、船長は」
「はは、そうでなきゃ困るよ」
サンジの笑みを見て、確信する。やはりみんな、ルフィが好きで、ついて行きたいって思うんだ。ルフィは、本当に海賊王になれる。そう信じさせる何かを、彼は持っている。
「……皿洗いは終わっちゃったよね。あと何か手伝えることってないかな?」
サンジは一瞬驚いたようだったが、にっと笑って言った。
「じゃあ、おれの話し相手になってほしいかな」
「ふふ、わかった」
そんな彼を支えるために、みんなの力になるために、まずできることから始めていこう。
20190104
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ルフィは船長、ゾロは戦闘員、サンジはコック、ナミは航海士、チョッパーは船医、ウソップは狙撃手、フランキーは船大工、ブルックは音楽家、それからロビンは考古学者。
私には特化してることがないし、そんなに強くもない。私、ちゃんと役に立ってるのかな?
思っていたことをすべて言うと、隣に座るロビンは驚いたように瞬きをした。線上の青の光が、薄暗い室内を照らす。クロエにとって、この船にあるアクアリウムは、ダイニングの次にお気に入りの空間だった。水槽で泳ぐ様々な魚がその光を遮るたび、ロビンの表情がわかりづらくなる。
「クロエはみんなの手伝いをしてるでしょう? 役に立ってないなんて、誰も思わないわ」
「うーん……」
「それに、十分強いと思うけれど」
「でもゾロほどじゃないでしょ? ゾロくらい強ければ、戦闘員になれるんだけどな……せめて覇気が使えればよかったのに」
はあ、とため息をつくと、「覇気が使えなくても、自分の身を自分で守れるのなら、それは強いと言えるわ」と、ロビンは本を閉じて言った。
「役に立つ、立たないではなく、みんな、それぞれにできることをやろうとしているだけよ」
「そう、だよね……」
こんなことを考えること自体、おかしいのだ。それはわかってる。けれど――
「あら、腑に落ちない顔ね」
ロビンがふっと笑った。
「そんなに心配なら、ルフィに聞いてみたらどうかしら」
「ルフィに?」
船長であるルフィに聞いて、役に立ってないなんて、ズバッと言われたらどうしよう。考え込んでいると、ロビンは微笑みながら言った。
「大丈夫よ、そんな悩み、吹き飛ばしてしまうと思うわ」
*
夕食はとうに終わり、ルフィはもう寝てるんじゃないかと思ったが、特等席である船首の上に寝転んでいるのを見つけた。麦わら帽子を傍らに置き、すっかり暗くなった空をぼんやり見上げている。星が瞬き、月明かりが優しく甲板を照らす。クロエはゆっくり彼のもとへ近づいた。
「……クロエか?」
視界に入る前に気配で気づいたのか、ルフィは言った。うん、と返して彼のそばに立つ。ルフィはちらりとこちらに目を上げた。
「どうした? なんか元気ねェな」
「ちょっと悩んでて……」
「ん? どんな悩みだ?」
「あのね……私って、この船の役に立ってるかな?」
「は?」
ルフィはぽかんと口を開けた。クロエは話を続ける。
「いや、みんな役割があるじゃない? 私は戦闘員になるほど強くないし、航海もできないし、料理もそんなに上手じゃない……できるものが何もないの、そんな自分がこの船に乗ってていいのかなって、たまに思うの」
「…………」
ルフィは無言で眉根をひそめた。クロエは下を向き、堰を切ったように話し続ける。
「私はみんなの手伝いしかできない。そう思うと不甲斐なくて、悲しくて……ルフィが、もし、私が役に立ってないと思うなら――」
それ以上は続けられなかった。ルフィの手が伸び、口元を覆ったからだ。目を上げると彼は身を起こし、胡坐をかいていた。
「それ以上、言うな」
ルフィに睨まれたのは初めてだった。その気迫に、クロエは圧倒された。いつも自分に見せる顔とは、まるで違った。
「おれが、役に立たねェって理由で船から下ろすような、そんな船長に見えるか?」
低い声で言われ、クロエはぶんぶん首を振った。自分の言おうとした言葉が、ルフィにとってどれほど屈辱的なものだったかを、今更ながらに気づいた。
ルフィの手が、口元から離れる。彼は表情を緩めて言った。
「それにクロエには、でけェ夢があるんだろ? それを叶えたいって思いはその程度なのか?」
「ううん……みんなが夢を持つこの船で、絶対叶えたいって思ってるよ」
心を込めて言うと、ルフィはにかっと笑った。
「じゃあ、それでいいじゃねェか。役割なんて誰も気にしてねェし、クロエにはクロエにしかできねェことがある」
「私にしかできないことって?」
「みんなを喜ばせることに決まってるだろー、特にサンジなんかは、クロエが手伝ってくれて嬉しいって言ってるぞ」
「それは女好きだからじゃ……」
そう突っ込むと、ルフィはパチンと手を叩いた。
「ま、それもあるだろうけど、とにかく、もう二度とそんなこと言うなよ」
手伝い『しか』できないのではなく、手伝い『が』できる。そう考えれば、気が楽になった。
「うん、ごめんね」と謝ると、ルフィは腕組みをして、考えながら言った。
「んー……でもまあ、クロエの気持ちもわかるぞ。おれなんて不器用だし、何もできねェからな。クロエたちがいるから、おれは船長ができるんだ」
ついてきてくれてありがとな、とルフィが笑う。やっぱり彼には笑顔が似合う。太陽のようなその笑顔が、クロエは好きだった。
「ふふ、ルフィだからこそ、ついて行きたいって思うんだよ。私たちを引っ張ってくれてありがとう」
そう言うと、へへ、とルフィは照れたように頭をかいた。
「クロエちゃーん、お風呂先入る〜? 何ならおれと一緒に……って、何このいい感じの雰囲気!?」
くるくると船の中から出てきたサンジが、ショックを受けたように叫ぶ。クロエは慌てて手を横に振った。
「別になんでもないよ、相談してただけ」
「お、サンジ、先風呂入っていいか?」
「おれはクロエちゃんに聞いてるんだよ!」
「あ、いいよ、ルフィ先入って」
「おう!」
船首から降り、スタスタとルフィは船内に入っていく。ぐぬぬ、とサンジはその後ろ姿を見た後、煙草を取り出しながらこちらを向いた。
「ルフィに相談して、解決したかい?」
クロエはにっこり笑って頷いた。
「うん! やっぱり頼りになるね、船長は」
「はは、そうでなきゃ困るよ」
サンジの笑みを見て、確信する。やはりみんな、ルフィが好きで、ついて行きたいって思うんだ。ルフィは、本当に海賊王になれる。そう信じさせる何かを、彼は持っている。
「……皿洗いは終わっちゃったよね。あと何か手伝えることってないかな?」
サンジは一瞬驚いたようだったが、にっと笑って言った。
「じゃあ、おれの話し相手になってほしいかな」
「ふふ、わかった」
そんな彼を支えるために、みんなの力になるために、まずできることから始めていこう。
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