愛 | ナノ
 ミセス・ノリスは石化を解くまで、医務室に寝かせることになった。ダンブルドアの解散の一言で部屋を出たシルヴィアは、何も言わず去ろうとするセブルスを呼び止めた。
「セブルス」
 振り返り、こちらを見る彼は全身から不機嫌さを溢れだしていた。その黒い瞳の冷ややかさにぞっとする。反らしたくなるのを堪え、シルヴィアは懸命に見つめた。どれだけ冷たくなろうと、感情が読めなかろうと、彼は彼だ。本質は何も変わっていない。
「話があるの。ついてきて」
「ここではだめか?」
 頷くと、渋々ながらもこちらに歩いてきた。安堵しながらもそれを顔に出さずに歩き出す。同じ階の自分の部屋に連れていくと、ドアを開けて入るよう促した。
「入って」
 無言で足を踏み入れた彼の後ろでドアを閉め、シルヴィアは腕を組みドアにもたれ掛かった。そして、目の前にいる、未だ不機嫌さを放つ黒い影を見上げた。彼はまだ、凍りつくような冷たい瞳でこちらを見下ろした。
「何だ、話とは」
 シルヴィアは一度息をつき、言った。
「……ハリーのことよ」
 途端に彼の眉間の皺は増え、瞳の冷たさが増す。しかし、どうしてもこれは言いたかった。言わなければならないことだった。シルヴィアは再び口を開いた。
「ずっと言いたかったんだけど……あなたはハリーに厳しすぎるわ。あの子はジェームズじゃないの。わかってるでしょう?」
 静かにそう言うと、セブルスは歪んだ笑みを浮かべ、いつもより低い声で言った。
「ロジエール。私に教育論でも唱える気か?」
 ただでさえ寒い部屋が、もう数度下がったような気がした。それでもシルヴィアは、黒い空洞のような瞳を見つめ返していた。ここで目をそらせば、何も言えなくなることはわかっていた。
「そうじゃないわ、話をそらさないで……ジェームズへの憎しみを、無関係なハリーに当てないでと言っているの。確かにあの子は父親と似ているけど……」
 セブルスは鼻で笑った。
「君は良くできた人間だな。自分のことは棚に上げて他人を注意するとは」
 何のことだかわからず、訝しげな視線を送れば、彼は言葉を続けた。
「それはそれは、優しく撫でていたな? あの忌まわしい癖毛頭を」
 シルヴィアは目を見開いた。見られていた。よりによって、セブルスに。彼はますます笑みを深めた。
「ほう、気づかなかったのか。ポッター以外、余程眼中になかったのだろう。少し前にも、自分の命を忘れて、勇敢にもポッターを守ろうとしていたな? そして、先程のことと今の進言――まったく、わかりやすすぎて何の面白味もない」
「何が、言いたいの――?」
 答えはわかっていた。ずっと、ハリーを見てから抱いているものだ。それを他人に指摘されるのが恐かった。特に、自分の学生時代の想いを知っているセブルスに。心の中で狼狽する自分を嘲笑うかのように、彼は口を開いた。いや、やめて、言わないで――。
「君はどうやら」
 セブルスは言葉を切り、冷笑を浮かべた。
「彼の母親を気取っているようだ」
「違う!」
 思わず叫んでいた。
「セブルス、セブ、お願いだから話をそらさないで!」
 笑みを浮かべているが、彼の黒い目は笑っていない。自分を観察しているような視線が突き刺さった。
「そらす? これは十分話と関係しているだろう? ただ単に、君が話を聞きたくないだけだ」
 シルヴィアはついに目を伏せた。
「違う――」
「何が違う? 認めた方が楽になるんじゃないか? 自分はポッターの母親になろうとしていると。エヴァンスに成り代わろうとしていると」
「いや、やめて――」
 突き刺さる声に堪えられず、思わず耳を塞いでも、容赦なく声は追いかけてくる。
「なれるはずがない。君はエヴァンスとは違うのだから当然のことだ。時を巻き戻さない限り、事実は覆せない。それが不可能なのは、君がよく知っているだろう? 時を戻すために、研究を重ねてきた君ならば」
「違う! お願い、やめて――」
 次の言葉は落ちてこなかった。その代わり、大きなため息が投げられ、布すれの音から、こちらにかがんだことがわかった。そして、片方の手首がそっと耳から外され、静かな、いつもの穏やかさを取り戻した声が囁かれた。
「……いいだろう、やめてやる。ただし――」
 頬に骨張った大きな手が触れたかと思うと、その手は顎へと滑り、くいと顔を上げさせられた。乾いた指先で下唇をそっと押され思わず口を開くと、そのまま指がゆっくりと左右に滑った。戸惑ったが何も言わず、かさついた指の感覚と、唇に注がれる視線を感じていた。
「……二度と、私の前で、やつの名前を口にするな」
 彼はそう囁くように言うと、手を離した。そして自分をドアの前から離すと、何も言わず部屋から出ていった。扉の閉まる音が響く。
 冷静になった頭で、シルヴィアは考えた。すべて、彼の言う通りだった。言われなくともわかっている。ただ、それを認めたくなかった。他人の口から言われることで、自分の考えがどんなに浅はかで非現実的かを思い知らされる。子供の妄想よりひどいものだ。
 シルヴィアは静かに自嘲した。まったく、彼を注意する権利もない。

 一一月に入り、いつものファーつきローブに身を包んだシルヴィアは、呪文学教室目指して廊下を歩いていた。ロックハートと出会わないよう祈りながら足を進めていたその時、隣から声が聞こえた。
「ロジエール先生」
 スリザリンの監督生、クエンティンだった。彼とは今までも話してはいたが、最近は特によく話す。生徒に慕われるのは嬉しかった。
「こんにちは、クエンティン。最近よく会うわね」
「ええ、先生の行動はすべて把握していますから」
「まあ、本当? ロックハート先生みたいね」
 クエンティンは人の良さそうな笑みを浮かべたが、少し引きつっていた。
「……ロックハート先生は、そんなストーカー染みたことを?」
「ええ――多分あの角を曲がったら来るわ」
 その言葉通り、角を曲がった瞬間、前方からロックハートが白い歯を見せながらやってきていた。シルヴィアはため息をつき、隣にいるクエンティンを見上げた。
「逃げた方がいいわ。次に授業がなかったら、ずっと付き合わされるから」
「いえ、僕に任せてください。先生はここでお待ちを」
 クエンティンはロックハートに負けない白い歯を見せると、ロックハートの方へ歩き出した。シルヴィアは言われた通り、そのまま二人を見ていた。二人は何かを話し、クエンティンはこちらに戻ってきた。ロックハートは反対方向へせかせかと去っていった。
「すごいわね、何て言って追い払ったの?」
「それは――内緒です。先生、もうすぐ授業が始まりますよ」
 言われて腕時計を確認すると、あと二分ほどで鐘が鳴るところだった。
「ああ、大変。じゃあね、クエンティン。ありがとう」
「いえ、追い払いたい時はいつでも言ってください」
 笑いながら軽く手を振ると、彼もにこやかに振りかえしてくれた。最近はこうして、生徒たちと話すことが多い。土曜の授業のお陰もあるが、セブルスとあまり口を利かなくなったことも原因だろう。挨拶はするが、以前のように一緒に食べたりすることはなくなった。避けているのではない。ただ、いつも通りに話せる自信がないからだ。自分のことをすべて知り尽くしている相手と。
 そのため、土曜のクィディッチ試合はロックハートに抱えられたまま観戦することになった。そうでなくてもこうなったかもしれないが、少なくとも隣に彼はいない。代わりにシニストラ先生が右隣に立っていた。先生と目が合うと、大変ですねと言うように会釈され、こちらも会釈を返す。自分が話を聞いていないことにも気づかないロックハートは、延々とシーカーだった頃の武勇伝を話していた。本当にシーカーをしていたのだろうか。
 大歓声が上がり、ピッチに選手たちが入場してきた。緑のスリザリンチームは、今年ルシウスが与えた最高級の箒、ニンバス二〇〇一を持ち、そして新顔のシーカー、ドラコが悠々と歩いてきた。ドラコの実力はわからないが、いまだにスピードより体格のよさを重視するチームにニンバス二〇〇一は宝の持ち腐れな気がする。ああいうものは、もっと素早い、ハリーのような――ハリーは深紅のローブを纏い、いつものニンバス二〇〇〇を持って歩いていた。彼の姿を見ると、どうしてもグリフィンドールを応援したくなってしまう。セブルスの言葉が過り、内心駄目だと思っても、目は双眼鏡越しにハリーの姿を追っていた。
 そしてすぐにシルヴィアは異変に気づいた。ブラッジャーがハリーを狙って何度もぶつかろうとしている。ブラッジャーに魔法を掛けるのは容易ではない。その中に秘められた魔法よりも強力な力が必要だからだ。ひそかに杖を向けてみるが、ブラッジャーは速く、とても魔法をかけられる状況ではない。
 そして異変に気づいたウッドがタイムを取り、ハリーたちとともに降り立った。止めるか止めないかで何やら揉めているようだ。ハリーの安全を考えればやめてほしいが、彼はそうしないとシルヴィアはわかっていた。ジェームズならば、続行するだろうから。案の定、もう一度鳴った笛に合わせ、ハリーは飛んだ。そのあとはひやひやするような一瞬の連続で、シルヴィアは思わず目を覆った。そして、恐れていた事態が起こった。ハリーの腕にブラッジャーが当たったのだ。瞬間、腕はだらりとぶら下がり、ハリーは箒から傾いた。
「ハリー!」
 シルヴィアの声は、雨にかき消された。
 しかし、どよめきの中、驚いたことにハリーは持ち直し、ドラコに向かって真っ直ぐ飛んでいった。そして、何かを掴んだかと思うと、地面に向かって突っ込み、泥の中に落ちた。気を失っているようで、身動きをしない。ああ、大丈夫だろうか。ハリーを見下ろすシルヴィアは、ふと、ぐいと肩を引き寄せられる感覚に隣を向いた。ロックハートがピッチに降りようと、自分を連れていこうとしているところだった。いつの間にか相合い傘になっていた。
「行きましょう、シルヴィア。ハリーが心配でしょう?」
「ええ、心配ですが……何しに行くんですか? マダム・ポンフリーに任せた方がいいでしょう」
 困惑しながらそう言えば、ロックハートはいつものウインクをした。嫌な予感がする。
「骨折を治す魔法は、何百回もやってます。ここは私の出番でしょう」
 シルヴィアは唖然とし、ロックハートを引き留めようとしながらも、引きずられるようにしてハリーのところへ連れていかれてしまった。選手たちを掻き分け、ロックハートがハリーを覗き込んだ時、彼は目を覚ました。
「ああ、やめてくれ、よりによって」ハリーはそう呻いた。
「自分の言っていることがわかってないんだ」
 ロックハートは回りにいるグリフィンドール生たちに高らかに言った。
「ハリー、心配するな。私が君の腕を治してあげよう」
「やめて! 腕はこのままにしておきたい。かまわないで……」
「ハリーの言う通りです、ロックハート先生、杖をしまってください!」
 シルヴィアは杖に手を伸ばそうとしたが、彼は杖を高く掲げてしまった。
「大丈夫。シルヴィアも知っている、あの簡単な魔法だよ」
 どの魔法だ。骨をつける呪文など、聞いたことがない。人体の内部は調合薬でしか治せない。
「横になって、ハリー」ロックハートがなだめるように言った。「この私が数え切れないほど使った、簡単な魔法だから」
「医務室に行かせてもらえませんか?」
 歯を喰いしばりながら頼むハリーの姿に、シルヴィアはますます必死にロックハートを止めようとした。
「やめてください、これはマダム・ポンフリーにしか治せません! 本当に魔法で治せると思ってるんですか?」
 睨まれていることを意に返さず、ロックハートは「私なら治せる」とにこやかに笑った。これほどこの笑顔を忌ま忌ましく思ったことはない。
「みんな、下がって」
 ロックハートが翡翠色の袖をたくし上げた。
「やめて――駄目――」
 ハリーが弱々しい声をあげた瞬間、シルヴィアは杖を握り、ロックハートに向けた。
「エクスペリアームス!」
 ロックハートの杖は弧を描き、シルヴィアの手に収まった。呆然とするロックハートと生徒たちを背に、彼女はハリーに屈み込んだ。
「ハリー、医務室に行きましょう。ウッド、ハリーを連れていってくれるかしら」
「はい――行こう、ハリー」
 ウッドがハリーを抱えて地面に立たせた。去り際、ハリーはこちらを見上げ、弱々しく笑った。
「ありがとうございました、先生――すごく助かりました」
 ハリーは無事に医務室に行き、マダム・ポンフリーにあっという間に治してもらった。もしあのままロックハートが魔法をかけていたらと思うとぞっとする。杖の振り方でさえできていないのに、自分が目立ちたいがために、生徒にでたらめな魔法を唱えるなど信じられない。
 あの一件でシルヴィアはとうとうロックハートにキレ、顔を合わせれば嫌悪をむき出し、肩を引き寄せられればセクハラですと言って腕を剥ぎ取っていたが、全く効果はないようで、今も反省の色を見せず、隣でぺちゃくちゃと何やら話していた。もう話を聞かず、相槌も打たず、問われれば答えるという体でいたシルヴィアは、その時も無言で夕食を食べていた。
「君もそう思わないかい?」
「そうですね」
 適当な返事をすれば、ロックハートは顔を輝かせたようだった(極力見ないようにしている)。
「じゃあ、早速校長に言ってみよう。今週の土曜はどうだい?」
「ええ」
 話を丸きり聞いていないシルヴィアはナイフを片手に頷いた。
「よし、決まりだ。でもそうなると、私と実技を組む先生が必要になるな。ああ、シルヴィア、君が役不足だという意味ではないよ。ただ、女性に杖を向けるのは、私のポリシーが許さないからね」
 ここでロックハートはウインクしたが、シルヴィアは見てもいなかった。
「そうだな、代わりは――ああ、スネイプ先生」
 スネイプ先生?
 ここで初めて彼の話に興味を持ったシルヴィアは、右隣を向いているロックハートを見た。その向こうに、不機嫌さをむき出しにしているセブルスが見えた。
「先生は決闘の経験はおありですか?」
 元デスイーターに、何て質問をするのだろう。ロックハートの心の毛深さに感心してしまう。セブルスは渋々答えた。
「あるが」
「おお、それなら今週行う決闘クラブの模範として、私と組んでいただこう! 校長にはそのように伝えておきますので、ご心配なく」
 そう一方的に話を終わらせると、ロックハートは再びこちらを向いた。
「シルヴィア、ここでやるのはどうかな? きらびやかな舞台をあの壁に作って……」
 決闘など、怪物を前に、何の役に立つのだろうか?
 勝手に決められて殺気だっているセブルスをロックハート越しにちらりと見て、シルヴィアはため息をついた。
 土曜はすぐにやって来た。大広間には大勢の生徒が集まり、ロックハートと舞台に立つと、嫌でも多くの視線を浴びる。本当はセブルスの後ろに行きたかったが、移動する前にがっちり肩を掴まれてしまった。
「皆さん、集まって。さあ、集まって! 私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構! ダンブルドア校長から、私がこの小さな決闘クラブをはじめるお許しをもらいました。私自身、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要がある万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げるためにです――詳しくは、私の著書を読んでください。では、助手のロジエール先生とスネイプ先生を紹介しましょう」
 ロックハートは満面の笑みを振り撒いた。
「ロジエール先生には皆の見回りをやってもらいます。そしてスネイプ先生は、決闘についてごくわずかにご存知らしく、訓練をはじめるにあたり、短い実演をするために戯れに手伝ってくださる了承を得ました。ロジエール先生に杖を向けるわけにはいきませんからね! さてさて、若い皆さんに心配を掛けたくはありません――私が彼と手合わせしたあとでも、皆さんの調合薬学の先生は、ちゃんと存在します。ご心配なく!」
 そして、ロックハートとセブルスは向き合って一礼した。シルヴィアはロックハートの後方から二人を眺めることにした。二人は杖を剣のように構えた。
「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています」
 ロックハートはシンとした観衆に向かって説明した。
「三つ数えて、最初の呪文を唱えます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」
「ロジエール」
 ロックハートの言葉を遮るように、セブルスの声がした。シルヴィアが脇からセブルスを見ると、彼は言った。
「そこよりこちらの方が安全だと思うが」
 正論だ。シルヴィアはすぐにセブルスの後ろへ歩いていった。恐らく、壁に激突させるつもりなのだろう。ロックハートは動揺していたが、合図をしだした。
「一――二――三――」
 二人とも杖を肩より高く振り上げ、セブルスが叫んだ――「エクスペリアームス!」
 目も眩むような紅の閃光が走ったかと思うと、ロックハートは予想通り舞台から後ろ向きに吹き飛び、壁に激突すると、壁伝いに滑り落ちて大の字になった。数人のスリザリン生が歓声をあげる中、後ろから近づいてセブルスに声をかけた。
「手加減しないのね」
 セブルスはこちらを向くと、微かに笑みを浮かべた。
「随分残念そうだな、君もやりたかったろう」
 シルヴィアが含み笑いを浮かべたとき、ロックハートが立ち上がった。帽子は吹き飛び、ウェーブがかった髪が逆立っていた。
「さあ、皆さんわかったね!」
 彼はよろめきながら壇上に戻って言った。
「あれが武装解除魔法です――ご覧の通り、私は杖を失ったわけです――ああ、ミス・ブラウン、ありがとう。スネイプ先生、たしかに生徒にあの魔法を見せようとしたのは素晴らしい考えです。しかし、遠慮なく申し上げれば、先生が何をなさろうとしたか、あまりにも見え透いていましたね。止めようと思えば、いとも簡単にできたでしょう。しかし、生徒に見せたほうが教育的に良いと思いましてね……」
 セブルスが殺気だつのが、後ろからでもよくわかった。ロックハートもそれに気づいたようだった。
「模範演技はこれで充分! これから皆さんのところへ下りていって、二人ずつ組にします。ロジエール先生、スネイプ先生、お手伝い願えますか……」
 三人で生徒の群れに入り、二人ずつペアを組ませた。ロックハートはネビルとジャスティンを組ませた。セブルスがハリーとロンのところに行こうとしているのを見て、あとについていこうとしたが、やめた。口出ししたら、また注意されるだろう。もう一度あのことを抉られたくはなかった。
 その手前でペアを組ませていると、案の定、ハリーはドラコと、ロンはシェーマスと、ハーマイオニーはミリセントと組まされていた。見物するつもりなのか、ハリーのところにセブルスがいたため、シルヴィアはハーマイオニーのところに向かった。ハーマイオニーはこちらを見て、ほっとしたように微笑み、シルヴィアもまた、微笑み返した。
「向き合って! そして、礼!」
 ハーマイオニーはきちんと礼をしたが、ミリセントはわずかに頭を傾けただけだった。
「杖を構えて! 私が三つ数えたら、相手の武器を取り上げる魔法をかけなさい――武器を取り上げるだけですよ――皆さんが事故を起こすのは嫌だからね。一……ニ……三……」
 ミリセントは「二」ですでに魔法を唱えはじめていた。呪文はハーマイオニーに効き、くらりと彼女はよろめいた。
 ――まったく、これだからスリザリンは!
 自身がスリザリン出身なのを棚に上げ、シルヴィアはストップをかけようとした。しかしその前にハーマイオニーは、なんと素手でミリセントに向かっていった。
「ハーマイオニー!」
 シルヴィアは慌てて叫んだが、ミリセントはにやりと笑うと、掛かってきたハーマイオニーと取っ組み合った。この体格差で勝つのはどう見ても無理だ。何か勝算があるのだろうか。そう思い、シルヴィアは黙って見ていたが、ミリセントにヘッドロックをかけられそうになっているのを見る限り、そうは思えない。すぐに二人を離そうとしたが、ミリセントは体格がよく、なかなか大変だった。ようやく二人を離すと、ロックハートを見回ってきた。
「なんと、なんと。マクミラン、立ち上がって……気をつけて、ミス・フォーセット……しっかり押さえていなさい。鼻血はすぐ止まるから、ブート……どうやら、非友好的な呪文の防ぎ方を教えたほうがいいようですね」
 大広間の中心に立ち、面食らいながらロックハートは言った。
「さて、誰か進んでモデルになる組はありますか? ――ロングボトムとフィンチ・フレッチリー、どうです?」
「ロックハート先生、それはまずい」
 セブルスが滑り出た。
「ロングボトムは簡単極まりない呪文でさえ惨事を引き起こす。フィンチ・フレッチリーの残骸を、マッチ箱に入れて医務室に運び込むことになるでしょうな」
 ネビルのピンク色の丸顔がますます濃くなったのを見て、シルヴィアはセブルスを睨んだが、彼は口元を歪めて笑っただけだった。
「マルフォイとポッターはどうでしょう?」
「それは名案!」
 まったく名案ではない。だがロックハートは生徒の仲を観察するような人間ではなく、ハリーとドラコに大広間の中心に来るよう手招きした。他の生徒たちは下がって空間を空けた。
 自分の杖を振り上げ、何やら複雑にくねくねさせたあげく、杖を落としたロックハートを見てそちらに行こうとしたが、「私の記憶が正しければ、君はスリザリンだろう? ロジエール」とセブルスに聞こえよがしに言われたため、ドラコ側に行かざるを得なかった。ハリーはちらりとこちらを見た。それは助けを求めているような視線ではなく、少し気にかかったが、彼はもうこちらを見なかった。
 ドラコに屈み込み、何事かを囁いているセブルスに内心ため息をつく。本当に、ハリーのこととなるとムキになる。あの子はたった一二歳で、自分の守るべき子だというのに。自分の反対だと言われれば、何も言えないが。
「何て言ったの?」
 隣に立ったセブルスに囁けば、彼も囁き返した。
「すぐにわかる」
 それじゃ、私の来た意味がないじゃない。そう返そうとしたが、ロックハートの号令にかき消された。
「三――ニ――一――それ!」
 ドラコは素早く杖を振り上げ、怒鳴った――「サーペンソーティア!」
 なんということだ。杖の先が炸裂し、呪文通り長い黒ヘビが出てくる。ヘビは愕然とするハリーの前にドサッと落ち、鎌首をもたげて攻撃の体勢を取った。生徒たちは悲鳴をあげ、素早くあとずさりし、そこだけが広く空いた。
 ヘビを消そうと、前へ出ようとしたが、隣から出た腕に阻まれてしまった。
「動くな、ポッター」
 こちらを見ず、セブルスは悠々と言った。ヘビと目を見合わせ、ハリーが立ちすくんでいる光景を楽しんでいることがはっきりとわかる。本当に、なんて素晴らしい先生だろう。
「私が追い払ってやろう……」
「私にお任せを!」ロックハートが叫んだ。
 彼はヘビに向かって杖をこれ見よがしに振り回すと、バーンと大きな音がして、ヘビは消え去るどころか十フィート宙を飛んでからピシャリと床に落ちた。怒り狂ったヘビは、ジャスティンめがけて滑り寄り、再び鎌首をもたげ、牙を剥き出して攻撃の構えを取った。
 杖を振ろうとしたが、その前にハリーが進んで行った。そして、驚いたことに、ヘビに向かってシューシューと叫んだ。するとヘビはまるで庭の水撒き用ホースのように、床に平たく丸まり、従順にハリーを見上げた。今のは蛇語だ。例のあの人が話せる、スリザリンの末裔しか話せない言葉。それをなぜハリーが――。
「何でからかうんだ?」
 ジャスティンはそう叫ぶと、ハリーが何か言う前に背を向け、大広間から荒々しく出て行った。
 セブルスが進み出て杖を振ると、ヘビは黒い煙を上げて消え去った。ざわめきの中、ハリーはロンたちと広間を出ていった。
「セブルス、今のは――?」
 彼に問いかけると、セブルスは苦々しく頷いた。
「あり得ないが、そうとしか思えんな――校長に報告しておく」
 スリザリンの継承者がハリーな訳がないが、パーセルタングなら話が違ってくる。石化した猫とコリン、壁の文字、秘密の部屋、スリザリンの怪物。そしてパーセルマウス。不穏なことがこの学校で起きていた。

 ジャスティンとほとんど首なしニックが襲われたことで、学校中がパニックになった。犯人、または怪物は、幽霊までも石化させる。これによって、夜に交代で見回りが行われ、教師と監督生がペアになり暗い廊下を歩いた。
 生徒たちはクリスマス休暇に帰ろうと、汽車の予約に殺到した。残った生徒は数えるほどしかいないようで、広間は去年よりがらんとしていた。見回りがなくなり自分の溜めていた仕事につきっきりだったため、去年と同じようにシルヴィアは部屋に籠もっていた。そしてクリスマス当日。去年とは違う黒のドレスを着たシルヴィアは、鏡の前に立っていた。この時期にドレスは不謹慎かと思ったが、フリットウィック先生がクリスマスは何もかも忘れてパアッとやった方がいいと言ってくれたのだ。
 広間に入ると、念入りにカーラーでもかけているのかロックハートの姿はなく、セブルスの隣につくことができた。決闘クラブ以来普通に話せるようになり、本人も特にそれに触れることはなかった。
「こんな時にドレスか?」
 席に着くなり眉をひそめる彼に、何だか笑ってしまう。褒められるのを期待していた訳ではないが、外見を褒めないのがセブルスらしい。
「私もどうかと思ったんだけど、フリットウィック先生にいつも通りやろうって言われたから」
 数席隣に座ったハグリッドと目が合い、にっこり親指を上げた彼にシルヴィアは微笑み返した。
「だとしても、もう少し露出を抑えたらどうだ」
 振り向けば、セブルスは面白くなさそうな顔をしていた。露出と言ってもデコルテを出しているだけで、しかもその上にショールを羽織っている。
「まさか、腕を出すだけであなたにとっては露出になるの?」
 彼は苦い顔をした。
「そうではないが――」
「セブルスは露出をしなさすぎるからそう思うの。最後に腕を出したのは、学生の頃でしょう?」
 セブルスが口を開いたその時、広間の扉が開いた。中から深緑のローブを着たロックハートが入ってきた。シルヴィアは慌てて言った。
「セブルス、少しぼやけてても気にしないで」
 そして杖を自分に向け、二言唱えた。曖昧魔法だ。これで隣に座っているのがシルヴィアだとわからないだろう。その証拠にロックハートは目を細めてこちらを見ていたが、認識できなかったらしく、諦めて料理を食べ始め、代わりにフリットウィック先生が犠牲になってしまっていた。心の中で謝りながら、シルヴィアはセブルスと話しながら、悠々と料理を楽しんだ。途中で彼は自分のゴブレットを取り上げてしまったが、それでも楽しめた。
 お開きまで魔法を持たせたシルヴィアは、別れを告げて自分の部屋へ戻ろうとしたが、セブルスが引き留めた。
「部屋まで送る」
 シルヴィアは少し驚き、そして首を振った。
「大丈夫よ、襲われたりしないわ」
 セブルスは広間にいる生徒に顔を向け、眉を寄せて呟いた。
「……何も、襲うのは怪物だけではない」
 その視線の先にはクエンティンがいた。彼と目が合うと、愛想よく微笑んできたので、シルヴィアも微笑み返した。
「クエンティンがどうかしたの?」
 そう聞くと、そのやり取りを険しい顔で見ていたセブルスは言った。
「気を付けろ。あいつは裏表が激しい――行こう」
 ――裏表が激しい?
 あの好青年に裏があるとは思わなかったが、シルヴィアは頷き、セブルスと広間を出た。
 その言葉をすぐに思い知らされることとなる。
 それから二日ほど経った晩、シルヴィアが部屋で仕事をしていると、ドアをノックされた。
「はい」
「スリザリンのワトソンです」
 クエンティンだ。
「どうぞ、入って」
 ドアが開き、クエンティンが入ってくる。防衛術の教科書を持っていた。机のところへ来ると、彼は申し訳なさそうに言った。
「お忙しいところすみません。先生に教えてもらいたいところがあって……」
「ううん、大丈夫よ。座って」
 シルヴィアはペンを置くと、いつものテーブルに促し、彼の向かいに腰かけた。七年生ともなると、上級防衛術はかなり専門的なものになってくる。土曜に教えるだけでは時間が足りない。シルヴィアはクエンティンの質問に丁寧に答えた。
「ありがとうございます、よくわかりました」
 教科書を閉じ、彼はにこやかに笑うと、ローブから何かを取り出した。
「お礼といっては何ですが、紅茶の葉を持ってきました。先生の好きなカモミールです。よかったら、どうぞ」
 自分の好きな茶葉を生徒に話したことがあっただろうか。疑問を感じながらも、シルヴィアは茶葉の入った高級そうな缶を受け取った。
「ありがとう、戴くわ。今から淹れるから一緒に飲みましょう?」
 クエンティンは驚いたように首を振った。
「いえ、僕、そんなつもりであげたのでは……」
「いいの。お茶は誰かと一緒に飲むものよ」
 杖を振ってティーセットを出すと、杖で軽く缶を叩いた。茶葉はひとりでにポットの中に入り、すでに沸いていた湯が注がれた。ひとりでに茶を淹れる陶器たちを見るクエンティンに言った。
「ごめんなさい、魔法でやってしまって……私がやると、どうしても美味しく淹れられなくて」
「いえ! 全然気にしてませんよ」
 そう言って朗らかに笑うクエンティンは、裏があるようには思えなかった。ただ、注意はした方がいい。セブルスの言葉が脳裏に浮かんだ。ぼんやり考えている内に、ティーカップがこちらに移動してきた。
「じゃあ、いただきます。どうぞ」
「ありがとうございます」
 シルヴィアは、紅茶を飲むふりをした。唇に熱い紅茶を当てるが、飲むことはしなかった。
「ん、美味しい――見慣れない名前だけど、どこで買ったの?」
「祖母が送ってきてくれたものなので、僕もよくわかりません」
「そう……飲まないの?」
 未だに彼の前に置かれたカップを指差せば、クエンティンは笑いながら首を振った。
「いえ、僕は――」
 やはり、何か入れたのだ。飲まなくてよかったと思った瞬間、心臓が大きく高鳴った。だんだん全身が熱くなっていく。息が上がり下腹部が疼き始める。前にいるクエンティンは、いつもの笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。
「何を……はぁ、入れたの……?」
 胸を押さえながら尋ねれば、クエンティンは目を細め柔らかく言った。
「媚薬ですよ、それも強力な。粘膜に触れただけで効果が現れます」
「何のために……!」
「決まってるじゃないですか」
 彼は立ち上がり、こちらに近づいてくる。ドアへ逃げようとしたが、手首を捕まれクエンティンの腕の中へと引き戻されてしまった。
「ぁっ……!」
 背中を撫でられただけでゾクッと快楽が走る。脱け出そうとも力が入らず抵抗できない。耳元でクエンティンは囁いた。
「先生を愛しているからです。僕を見ないあなたが悪いんですよ……スネイプとばかり親しく話をして。あいつがあなたをどんな目で見ているか、わかってるんですか?」
 耳たぶを舐められ、びくりと身体が震える。クエンティンはにやりと笑い、ソファに倒された。そして彼が舌なめずりをしながら被さってきた。
 ローブを取られ、ジャケット、シャツのボタンを上から外されていく。いけない、このままでは――。
「ああ、先生――綺麗だ……」
「んっ……はぁっ……」
 下着の上から胸に揉まれ、嫌でも指の間から声が出てしまう。目の前の男に貫かれたい欲求が込み上げる。
「かわいい声だ……背中を浮かせて……」
 しかし、シルヴィアはそれを押さえつけた。背中を反らし、笑みを浮かべたクエンティンが近づいてきた瞬間、渾身の力で彼のみぞおちを膝で蹴り上げた。油断したその隙にすぐさま杖を取り、彼に向けて言った。
「インカーラス……!」
 しゅるしゅると縄がクエンティンに絡み付き、全身を縛り上げる。ぎょっとした彼はもがいたが、振りほどけない。ふらふらとドアへ向かったシルヴィアの背中に、彼は呼び掛けた。
「先生! その状態で何処に行くんです? 僕が楽にしてあげますよ!」
 シルヴィアは自室のドアを閉めた。瞬間、床に崩れ落ちる。動悸は激しく、全身が男を求めていた。すぐにでも部屋に戻り、クエンティンにこの欲を静めさせたかった。しかし、微かに残った理性がそれを引き留めていた。
 頭の中に、ふと一人の名前が浮かんだ。セブ。セブルス。セブルスのところへ行かなければ。壁に手をつき、何とか立ち上がったシルヴィアは、そのまま壁伝いに地下へと向かった。

 セブルスは部屋の前で何かがドサリと崩れ落ちる音を聞き、羊皮紙から顔を上げた。気配からして人間だろう。すぐさま立ち上がり、杖を持ちながらドアにそっと近付き耳をそばだてる。衣擦れの音と、息を切らす声。恐らく女性だ。敵意は感じられない。
 それでも警戒しながらゆっくりと扉を開くと、そこには床に座り込み、胸を押さえて息をするシルヴィアの姿があった。
「ロジエール! どうした?」
 すぐにかがみ込み、顔を上げさせようと肩に触れたとたん、シルヴィアは小さく喘ぎ、身を震わせた――媚薬か。目を下ろせばシャツの前がはだけ、白いレースの下着と深い胸の谷間が覗いている。
 肩から手を離し、息で刺激しないよう距離をとってセブルスは言った。
「……誰にやられた?」
 その声には自分でも驚くほど怒りが込められていた。
 シルヴィアは顔を上げた。頬を火照らせ潤んだ瞳でこちらを見上げる彼女は、あまりにも辛そうで、欲を無理矢理押さえつけているようだった。
「クエン……ティン……」
 予想通りの名前に舌打ちする。やつは常にシルヴィアを見つめていた。最初から注意しておけばよかったのだ、こんなことになるのなら。
「今は何処にいる?」
「部屋……私の……はぁっ……セブ、助けて……」
 切なげにそう言う彼女に、思わず手を伸ばしかけたが、途中で握り、自分のマントを取り彼女をくるんだ。
「少し中で待っていろ……一人で立てるか?」
 シルヴィアは頷き、石床に手をつくと、マントを巻き付けたままゆっくり立ち上がった。手を貸してやりたいが、それは彼女をひどく刺激してしまう。シルヴィアが壁伝いに中に入り、ソファに崩れ落ちたのを見届けると、セブルスは彼女の部屋へと急いだ。
 ワトソンはソファの前に縄で縛られていた。開けた瞬間からこちらを睨み付けてきたやつを蹴り飛ばしたかったが、ぐっと堪え、テーブルの上のティーカップに目を移した。冷めきったカップを持ち上げれば、強力な媚薬の匂いが漂ってくる。濃い――あまりにも濃すぎる。これで正気を保てたのが不思議なくらいだ。ソファで一人苦しむ彼女の姿が目に浮かび、ぎりと歯を鳴らした。振り返れば、やつはまだ睨んでいる。セブルスは思わず杖を向けていた。
「覚悟はできているだろうな? 貴様は退学だ。教師に媚薬を盛り、性的暴行を振るうとは……」
 ワトソンは動揺した様子を見せず、嘲笑った。
「暴行? そんな低俗なものと一緒にしないでください。シルヴィア先生は満更ではないようでしたよ、それはそれはかわいらしい声を――」
 セブルスは衝動的にワトソンの腹を爪先で蹴り上げた。彼の整った顔は一瞬歪んだが、すぐに薄笑いを浮かべ、挑発的にセブルスを見上げた。
「先生に彼女を満足させることができるんですか?」
「黙れ……!」
 腹が煮えくり返りそうだった。セブルスはワトソンの髪を鷲掴んで無理矢理立たせると、そのまま引きずるように部屋を出た。校長室に連れて行き、事情を説明すると、険しい顔で聞いていたダンブルドアは、退学処分を認めた。
「君には反省の色が見えない。再犯する気があるのだろう。明日、ホグワーツ特急に乗りなさい。ご家族にはふくろうを出しておく。行きなさい」
 頭を下げ、ワトソンが颯爽と出ていった後、ダンブルドアはセブルスに目を移した。
「セブルス、この件はシルヴィアのために内密にしておこう……彼女に忘却魔法を掛けてもいい。早くシルヴィアのところに行ってあげなさい」
 校長室を出て、すぐに地下へ向かった。彼女を残して三〇分は経過している。あの濃度の媚薬を飲まされ、放置され続けることは拷問に近い。一刻も早く、薬――精力剤を作り、彼女に触れなければならなかった。
 ソファで息を切らし、切なげに体を揺らすシルヴィアを横目に、セブルスはすぐさま精力剤を煎じた。それを入れたゴブレットをテーブルに置くと、脚を擦らせている彼女に屈んだ。こちらを見上げる目は欲を湛えて潤んでいる。すぐにでも楽にしてあげたいと、衝動的に思った。彼女が助けを求めたのは自分なのだ。しかし、選択権はシルヴィアにある。
「ロジエール、君が飲んだ媚薬には解毒剤がない。つまり、子宮に精液が注がれることでしか、性欲を静められない。君の相手ができるような比較的若い教師は、ロックハートか……私くらいしかいないだろう。どちらがいい? ロジエール……」
 この聞き方では自分を選ぶしかないだろうと、言った後でセブルスは自嘲した。読み通り、シルヴィアはこちらに腕を伸ばし、首元にしがみつき囁いた。
「あなたが……いい……セブ……早く……」
 喜びと興奮にうち震えながら、セブルスはすぐにゴブレットを傾け飲み干した。そしてシルヴィアを優しく抱き上げ、寝室へと入っていった。
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