「だから、船を貸してくれって言ってんだろ!!!」
ピンク色の海岸に、サンジの声が響く。
「約束があるんだよ、おれ達には!! お前らとバカやってる間に時間食っちまった…!!」
対峙するおかまたちのリーダーは、口を開いた。
「そんなこと言って、キャンディちゃん、逃亡を図るつもりね? そうはさせないわ!」
「ああそうだよ、まったくその通りだよ!! さっさとこの地獄からおさらばしてェに決まってんだろ!」
おれのオアシスはララだけだ!、とぎゅっと抱きしめられる。急に抱きしめられたララは、少し恥ずかしくなりながらもおかまたちを見上げた。
「約束があるのは本当なの。お願い、船を貸してください」
「あら、そんなかわいい顔で見つめても無駄よ? なぜなら私たちはオカマだから!!!」
どーんと音が聞こえてきそうなほどのドヤ顔で言われ、反応に困っていると、おかまの一人が海を見て言った。
「ん? あの軍艦はなーに?」
皆が一斉にその方向を見る。そこには海軍の軍艦があった。
「海軍?」
おかまの一人が望遠鏡を出し覗き込む。
「イ!! イワ様よ!!! イワ様が乗ってらっしゃるわ!!!」
キャーと皆が船のもとに走り出す。
「何だ? イワ様ってのは……」
「イワ様はねェ」
おかまの一人がにやにやと嬉しそうに笑いながら言う。
「このカマバッカ王国の女王、エンポリオ・イワンコフ様よ!!」
「あっ、新聞に載ってた人…!!」
「渡りに船ってやつだ。ルフィと一緒にいたってんならいろいろ知ってるだろ」
おかまたちをかきわけ、二人は到着した船の前で待つ。かつかつとヒールを鳴らして降りてきた大男は、やはり奇抜な格好をしていた。そして何だか顔が大きい。おかまたちに慣れつつあるララは、特に驚かなかった。
「久しぶりっチャブルねェ……お、ヴァナータ達は誰かしら?」
「おれはサンジ、こっちはララだ。聞きたいことがある……ルフィのことだ」
「え? ルフィ……麦わらボーイのこと?」
「ビンゴ、やっぱりあんたはルフィと海軍本部にいたんだな。詳しく話を聞かせてもらうぜ」
「で、ヴァナータ達、麦わらボーイの何なの?」
仲間だ、とサンジが答えると、仲間ですって!?とイワンコフは驚いた。そして自分の顔をじっと見つめられる。
「?」
「……確かにヴァナータの顔は見たことがあるわ、けど」
サンジに向かってイワンコフは言った。
「ヴァナタの顔に覚えはないわ!!」
「うっ!」
サンジは苦い顔をする。確かに、あの手配書の似顔絵はサンジと似ても似つかない。イワンコフはどこからか手配書を取り出した。
「これが、麦わらボーイの手配書ね」
サンジの前に手配書を見せる。
「ああ、そうだ」
「これが”海賊狩り”のゾロ」
「アァ!?」
「これが”泥棒猫”ナミ」
「アァアァ〜〜v」
「これが”狙撃の王様”そげキング」
「ああ…」
「これがヴァナタ?」
似顔絵を見せられ、違う!!!とサンジは怒りながら否定する。
「ホラ見なさい!!! じゃどこにヴァナタがいっチャブルの!? 麦わらボーイの仲間だって証拠がないじゃないっ!!!」
「だから仲間だっつってんだろ!!! ルフィは今どうなってんのか教えろ、カマキング!!!」
「――じゃ、コレヴァナタ?」
「違う!!! ……違うけど違わねェ!!」
サンジは四つん這いになり震えながら言う。
「名前は…おれだ!!! ハァ、ハァ」
「サンジ、無理しないで…!!」
「何その身を切るような葛藤…!!!」
「おれだよ!!! その変な手配書は間違いなく…おれだ…だから」
「いえ、似てない」
「じゃあ言わせんなよ!!! 血ヘド吐いたわアホ!!!」
「ムダよ、ヴァナタが政府や軍の手先である可能性が0.1%でもあるうちは、ヴァターシは麦わらボーイに関するすべての情報を微塵も渡さないっ!!!」
ヴァナタにもね!!と指をさされ、ララはえっ、とイワンコフを見る。
「どうして?」
「ヴァターシが教えたら、絶対にそのボーイに情報を教えるでしょ」
「…わかったよ、じゃあ船を貸してくれ。ルフィが来るはずの集合場所へ行く!!」
「船もあげない」
「じゃ、泳いでく」
「……ン〜〜フフ、仕方ないね、胸打たれたわ。その熱意に免じて…麦わらボーイのその後の情報を…」
喋らなーい!!!ヒーハ〜!!!とイワンコフが叫ぶ。わああああとやり取りを見ていたおかまたちが歓声を上げた。
「黙れ、てめェらァ!!!」
くそ、とサンジは再び四つん這いになる。だいぶ精神的に弱っているようだ。大丈夫?としゃがみこむと、ちょっと補充させてくれと言って、サンジにまた抱きしめられた。
「あら、ヴァナタたちデキてるの?」
イワンコフの言葉に、恥ずかしくなりながらも頷く。
「だったら尚更、情報は教えられないわね」
「オイ…」
サンジはララを離し、立ち上がった。
「船は海賊らしく奪ってくことにした。おれと”一騎打ち”をしろ!!!」
いいよ、と軽く返事をしたイワンコフに、もしや強いのではと思ったララの勘は正しかった。
「サンジ!」
倒れたサンジにしゃがみこむ。傷一つないイワンコフが口を開いた。
「麦わらボーイの安否ぐらい、教えてあゲチャブルわ。キュートガールとぐるぐるボーイ……!!」
「!」
「どういう風の吹き回しだよ……」
「なぜなら…それはもう世間に知れたから…どういうつもりかしら――一体」
渡された新聞を、サンジと一緒に開く。
「え!? ルフィ!!?」
麦わら帽子を手に、目をつむるルフィの姿がうつっている。急いで文字を追った。
――”麦わらの一味”船長モンキー・D・ルフィが、元「王下七武海」”海峡のジンベエ”、さらに”冥王”シルバース・レイリーとともに再びマリンフォードに現れた。海軍の軍艦を奪い、マリンフォードを一周したのち(水葬の礼と思われる)、広場へ踏み込み”オックス・ベル”を16点鐘した。そして広場に残る戦争の大きな傷跡に、花束を投げ込み「黙とう」――
もう一度ルフィの写真を見る。黙とうしている彼の右腕には、見慣れぬタトゥーがあった。3Dにバツが付き、その下に2Yと書かれている。
「そうか…ルフィ」
「これは私たちへのメッセージね…」
サンジと顔を合わせ、笑いあった。ルフィのメッセージはこうだ。
――3日後ではなく、2年後にシャボンディ諸島へ。
20180420
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