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サンジ奪還編@

ロビン、ゾロ、ウソップ、フランキーと別れ、ララはルフィ達とサニー号の船上にいた。船はサンジを連れ戻しに、ビッグ・マムの元へと向かっていたが、ララ達は芝生の上でぐったりとしていた。ルフィが初日に、積んであった全ての食材を使ってカレーを作り、この数日間、何も食べていなかった。
最初はララが作ると言ったが、料理をしたことがないと話すと止められ、ナミが作ることになった。しかし一人ずつお金を取ると言ったため、結局ルフィが作った。とてもカレーとは言えないもので、これなら自分が作ったほうがマシだったのでは、とララは食べた瞬間思った。幼い頃からサンジ達の料理を毎日食べていたのだ。料理の仕方さえ教われば、上手くできたかもしれない。

「もうダメら……しぬ…暑いィ〜〜ひぬ〜〜…」

「暑いのダメだ……毛皮脱ぎたい……」

「我々もだ……ミンク族は暑さに弱い……」

釣りをしているルフィ、チョッパー、ペドロが口々に言う。

「暑いですねー……私ミイラになりそう。ミイラに……ナミさん、それって私的に少し”再生”じゃないですか?」

ブルックの問いに、ナミが隣でしるか、と突っ込んだ。

「じゃあ、パンツ見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

「シバく元気もないわ……」

「ナミ〜〜ララ〜〜お腹ペコペコで暑い〜〜……」

「喋ると余計お腹空くよ……」

「おれに栄養を……!!」

ララは、ナミとキャロット、ペコムズと一緒に、木陰に座り込んでいた。じりじりと日が照り、汗が額から伝うのを感じる。連日の嵐から一転し、海が煮えたぎるくらい晴れていた。魚も釣れないのではと思ったその時、ルフィの釣り糸がピンと張った。

「ルフィ!! 糸が引いてるぞ!!」

「引けールフィ!!」

「がんばって、ルフィ!!」

「おおおおお〜」と叫びながら思い切りルフィが引くと、大きな魚が上がった。

「食い物〜〜〜っ!!!」

「やった」

「でかいですね〜!!」

「うわ――でも変な色の魚!! 食えるのか!?」

ずしんと船の上に乗った魚は、確かに食べられるのか怪しかった。

「ララ、サンジの魚図鑑ってロッカーにあったよな?」

「うん、あったと思う」

「ルフィ!! ちょっと待てよ!! すぐこの魚調べるから!!」

ララもチョッパーと一緒に船の中に入り、男子部屋のサンジのロッカーを開ける。

「どこだ、魚図鑑」

チョッパーがばさばさと中の本を投げていく。ララはそれらの本の表紙を見て、固まった。裸でスタイル抜群のきれいな女性が、こちらに色気を放っていた。

(これって……もしかして……)

エロ本、というものだ。男ならだれでも持っているという話は聞いていたが、実際に目にしたのは初めてだった。
ララはエロ本を一冊手に取る。サンジも持っていることは薄々気づいていた。しかし、こうして目の当たりにすると、なんだかショックだった。自分では、物足りないのだろうか。サンジが戻ったら聞いてみよう、とララは思ったが、本当にサンジは帰ってくるのだろうかと不安が湧いてきてしまった。
あの時、サンジは自分を抱きしめ、絶対に戻ってくると囁いた。彼を信じてないわけじゃないが、心配してしまう。四皇のもとから、本当に帰って来れるのだろうかと。

「あった!! ……って、ララ、何で泣いてるんだ!?」

「な、なんか不安になっちゃって……」

「裸の本見てか!?」

チョッパーとともに、ララはルフィ達のところへ急いで戻った。図鑑には、皮に猛毒があると、サンジのメモが書かれていたのだ。しかし、遅かったようだった。

「皮うんめ〜〜〜っ!! ホラ食ってみろ、キャロット」

「ルフィ〜〜〜〜!!!」

むしゃむしゃと皮を食べていたルフィは、突然口から泡を吹いて倒れてしまった。

「ルフィ! 大丈夫!?」

「お、おれ薬草持ってくる…!!」

戻ってきたチョッパーによって、薬を飲んだルフィだったが、痙攣は収まらず、効果はないようだった。チョッパーがもう一度薬を作りに船の中に入ったとき、ぐるぐるとキャロットのおなかが鳴った。

「……とりあえず、まずは体力つけましょ! 私、魚焼いてくるわ」

ナミが立ち上がり、ラウンジへ去っていく。私も手伝う、とララもナミの後に続いた。幸い図鑑には、猛毒の皮のことのほかに、焼き方のメモも書かれていた。

「ララ、そのメモ読み上げてってくれる?」

魚から切り取った身を、包丁でざっくり切りながらナミが言う。ララは頷き、メモを読み上げようとした、が――

「ララ!? あんた何泣いてんの?」

「な、なんか、サンジの書いた文字見てたら悲しくなってきちゃって……」

「……ちょっと休んでた方がいいわね」

ナミに勧められ、ララはテーブルに着いた。ナミの作った料理は、とてもおいしかった。

「おいしー!! おいしいよ、ナミ――!!!」

「サンジ君のメモ通りに焼いたから」

自分の分を食べ終わると、ルフィの様子が心配になり、キャロットたちと甲板へ出た。薬草が足りないらしく、チョッパーはルフィが死んでしまうと泣いていた。

「ルフィ……!!」

「死にそうなの?」

「大丈夫……川が……きれいだな……」

「三途の川見えてるよ――っ!!!」

「日数的には、黒足たちはもう島についてるはず。おれ達もそろそろナワバリに差し掛かってもいい頃……」

「ナワバリ?」

ペコムズの言葉に首をかしげると、空から雪が降ってきた。

「え? 今度は雪かしら。違う、あの雲は……甘み雲!?」

「その通りだ、降ってるのはわたあめ雪」

わたあめ!?とチョッパーが嬉しそうに反応する。空を見上げていると、中から電伝虫の音が聞こえてきた。

「おや、誰でしょう、電伝虫!」

「警告念波をキャッチしただけだ。ビッグ・マムのナワバリに入った。お前らも隠れるか変装をしろ!!」

「何か見えるぞ、ペコムズ」

見張り台に立っていたペドロが言う。

「早ェな、もうか。ウチの偵察船(タルト)だガオ!! おれがうまくやるから、みんな黙ってろ」

「解毒剤もってねェかな」

近づいてきた船は大きく、66と帆に大きく書かれていた。

「え!!?」

『こちら「ジェルマ」――麦わらの一味の船と見受ける』

「違うっ!! ジェルマ66の船だ!!!」

船のように見えていたが、それは城を乗せた大きなカタツムリだった。

『――なぜお前たちがここにいる!? 麦わらの一味!!』

船がぶつからないよう、急いで帆をたたんだララ達は、かたつむりの上でこちらを見下ろしているマントの男を見上げた。男は、左半分だけ顔が見え、眉がぐるりと円を描いているのがわかった。

「サンジ君!!」

「サンジ――!!」

「ヨホホ!! よかった!! こんなに早く会えるとは!!」

「……違う、サンジじゃない」

「ララ?」

サンジはこんな、冷たい目をしていない。

「さっきから、サンジサンジと……!! 人違いだ…!! 似ていて当然だがな」

マントのフードを脱いだ男は、ヨンジと名乗った。

「サンジじゃなくてヨンジ!!? 顔そっくりで、眉毛ぐるぐるなのに別人!!?」

「お前たちのよく知るサンジとの関係性は秘中だが」

(絶対弟だ……!!)

「ん!?」

ヨンジは急にこちらを向いた。目が合った瞬間、

「ワーーオ もろタイプ!!!」

ヨンジの目がハートになった。サンジそっくりの反応に、ララは本当に弟なんだ、と納得する。

「お前やっぱりサンジだろ!!!」

ヨンジはバサリとマントを翻し、中へ入っていこうとする。それをチョッパーが止めた。

「待ってくれよ、サンジ―――!!!」

「ヨンジだ!!!」

「ああ!! ルフィ!!!」

ルフィの容体はさっきより悪くなっていた。湿疹が体に広がり、苦しげに咳をしている。

「ルフィ!!! 死なないで〜〜!!」

「おい、頼むよ!!! 解毒剤くらい積んであるだろ!!?」

「お願い、ルフィを助けて!!」

ヨンジに向かって叫ぶと、彼は嫌な笑みを浮かべた。

「悪いな……私に人助けの趣味はない。お前が私の妻になるっていうなら、助けてやってもいいが」

「えっ!?」

想像していなかった言葉に、皆がどよめいた。

「ララがあいつの妻に!?」

「なるわけないでしょう!! 何あいつ、サンジ君とは似ても似つかないっ!!」

「ヨンジ」

ヨンジの後ろからもう一人現れた。ヨンジを蹴り、サニー号へ彼女はやってきた。

「こんにちは、ごめんなさいね。弟は人情の欠片もない人でなしなの!」

ピンク色の服を着た、眉がぐるぐるの、綺麗な女性だった。

「もしかして、サンジのお姉さん……!?」

「レイジュ〜〜!!! おのれよくも私に恥をかかせたな!!」

海に落ちたヨンジは、空に浮いていた。

「え……浮いてませんか!? あの人!!」

「ジェルマは、科学戦闘部隊だ。それこそがママの欲している力!!」

「ペコムズさん……ヴィンスモーク家とは、確か王族の名じゃありませんでしたか? 大昔……ノースブルーを武力で制圧した一族!!」

「あら、ガイコツさん。歴史に詳しいのね」

レイジュと呼ばれた女性が、ブルックに笑う。

「長く生きてますので……死にましたけど……」

「でも過去の話じゃない。今もまだ王族よ。ジェルマは国土を持たない国。治める土地はないけど、レヴェリーへの参加も認められてるわ」

(そうだったんだ……)

サンジは、王族だった。本物の王子だったのだ。

「――さて、じゃあ、いただいちゃおうかしら

「!?」

レイジュはルフィにかがむと、いただきますと言って彼に口づけた。

「え〜〜おいおいおい!! そんな毒吸ったら、お前が死んじゃうぞ〜!!!」

「あ―――っ!!! うらやましい、チュ〜〜〜〜

ルフィの湿疹が、レイジュの顔に移っていく。きゅぽ、と唇を離し、レイジュは恍惚とため息をついた。

「え〜〜〜!!? ルフィの湿疹が全部消えた!! お前が吸ったのか!? 大丈夫か!?」

「ええ、勿論……私はポイズンピンク……!!」

「!?」

レイジュは、ごち、とぺろりと舌を出した。同じ女同士だけれど、その妖艶さにドキリと胸が高鳴った。

「ぷっは〜〜〜!!!」

目を覚ましたルフィは、けろっとしていた。

「あれ!? おれ魚食ってたら…寝ちまったのかな!? 皮がうめェのなんのって!! まだあるか!?」

ないっ!!!とナミが怒鳴る。ルフィが元気になって、本当によかった。ララは心底ほっとした。

「弟が今まで、お世話になったわね

「!!?」

「へ――っ!! お前サンジの姉ちゃんか!! サンジは今どこにいるんだ!?」

「さァ……ビッグ・マムのところかしら……それとも父の所か。私たちも出迎えに来たんだけど、行き違ったみたい

「サンジの姉ちゃん! おれの恩人なのはありがとう。だけどサンジは返せよ!!? あいつはおれの仲間だ!!!」

それに、とルフィはこちらを見た。

「サンジと結婚するのはララだ!!」

「ルフィ……」

ララは驚き、ルフィを見つめた。やがて猛烈な照れが襲ってきた。

「い、いやいや、そんな、結婚だなんて、そんなそんな……!!」

「なんだ、しねェのか?」

「……照れてるだけよ、ルフィ」

「あら、あなたは確か……」

レイジュに話しかけられ、ララははっと顔を上げる。

「”危険分子”ララ、ね? サンジと幼い頃から一緒にいたっていう……」

「は、はい、そうです!」

レイジュは意味深に微笑んだ。

「なるほど、そういうことだったのね」

「おいおい、ありえねェ……こんなかわい子ちゃんがサンジの彼女だってのか?」

信じない、信じないぞ……とヨンジがぶつぶつとカタツムリの上で言う。ララは、レイジュと向き合った。

「あの、レイジュさん」

「何かしら」

「……サンジのこと、教えてくれませんか?」

サンジに兄弟がいたことも、王族だったことも、何も知らなかった。サンジのことをもっと知りたい。その一心で尋ねると、レイジュは静かに言った。

「……サンジがあなたに話してないのなら、それが答えよ。私から話すことはできないわ」

「…………」

それでもララは、知りたかった。髪に隠されていない彼女の左目を、じっと見つめる。瞳の奥にある心へと、手を伸ばす。
シャボンディで能力を開花させたララは、イワンコフと特訓し、自分の意志で人の心を操れるようになった。操られているという、自覚も持たせずに。

「……いいわ」

魅入られたようにこちらを見つめ返しながら、レイジュは言った。

「私たちの船の中で、少し話しましょう」

「おい、レイジュ……!!」

「話をするだけよ」

レイジュはジェルマの船へと飛び上がった。

「ララ、あんた……!!」

心配するようにこちらを見る皆に、ララは声を落として言った。

「……大丈夫、私に考えがある。もしジェルマの船が私を乗せたまま動き出しても、何もしないで。皆で動くより、少しばらけたほうがいいと思うの」

「ララ……」

「本当に、大丈夫なんだな?」

船長の言葉に笑って頷く。

「大丈夫、あとで合流する」

20180914


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