la mer

「ハァーーッハッハッハッハッ!! てっぺき!! よって無敵!!」

 何やら鉄板のような丸い大きな盾を体に着けた男が立っていた。全く気付かなかった自分に、ララは歯噛みする。体調のせいにはしたくないが、サンジやゼフの言う通りかもしれない。

「パティ!! カルネ!! 無事!?」

 ララが叫ぶと男が答えた。

「ハァーーッハッハ!! 無事じゃね〜〜よ。このおれの殺人パンチ”パールプレゼント”をくらっちまったんだからよォ!!」

「何、あいつ……」

「わからん」

 ララの呟きにサンジが答える。得体の知れなさにララが何も言えないでいると、手下の一人がパティのところへ駆けてきた。

「みろよこれを。立派な包丁もってやがるぜ、コイツ! へへへもらっとくか、おれのナイフより切れそうだ」

 手下はパティの包丁を奪おうとするが、パティは包丁から手を離さなかった。サンジがララを離して立ち上がる。
 その手を離せ!! くたばり損ないが!!!と叫んだ手下を、ドッとサンジが蹴る。飛んで行った手下がほかの手下たちを巻き込み、最後はパール男が彼らを受け止めた。落ちてきたパティの包丁を、パシッとサンジが手に取る。

「包丁はコックの魂。クソ素人がやすやすとコックの包丁に手をかけんじゃねェよ」

「サンジ……」

 サンジは包丁をパティに返す。

「ホラ……しっかり持ってくたばってろ。あいつらはおれが片づける」

「なァにが片づけるだ!! たかがコックにおれたちがやられるか!!!」

 向かってきた手下たちを、サンジは回し蹴りで蹴散らした。

「うわあああ!!!」

「たかがコックだと? オロすぞてめェら…」

「ッハ!! 蹴りだけで彼らをヤッちまうとは横着なヤローだね、どうも…そりゃポリシーかい?」

 パール男がサンジに問いかける。

「料理人は手が命。戦闘で傷つけるわけにゃいかねェんだ。てめェもこの足で仕留めてやるよ」

「仕留めるう? きみがおれを!? 無理だね、そりゃあ!! おれは過去61回の死闘を全て『無傷』で勝ってきた鉄壁の男だ。君は手を守るだけだがおれは全身を守り戦える。おれは戦闘において一滴の血も流したことがね〜〜のよ。血の一滴たりともだ」

 手に持った鉄板をガツンと鳴らし、男は言葉をつづける。

「無傷こそ強さの証!! クリーク海賊団”鉄壁の盾男”パールさんとはおれのことよ。おれはタテ男で、ダテ男だ。イブシ銀だろ」

「ごちゃごちゃ言ってねェで無傷でおれに勝ってみろ!!!」

 サンジが蹴りを入れるが、笑いながら盾で止められた。

「おれは軍艦の大砲でも正面から立ち向かうことができるんだ!!」

 おれはどんな攻撃にも無傷!!と盾男が言った瞬間、後ろから飛んできたルフィが盾男の頭にぶつかった。

「ん?」

「はーーびっくりした、海に落ちなくてよかった。ん?」

「……え?」

 盾男は鼻血を出していた。

「血だ!!! やべェエ!!!」

「……血!!」

「パールさん!! 大丈夫っすよ!! 気を静めてください!! パールさん!!」

 必死に言う手下たちにララは首をかしげる。どうしたんだろう。

「……おれの鉄壁がくずされた!! コイツら危険だぜ!!」

「何だコイツ、様子が変だな……」

「鼻血がどうかしたのか…!?」

 盾男はガチッガチッと両手の盾を摺合せ始める。

「身の危険!! 身の危険!!」

「パールさん落ち着いて!!」

「身のキケーーン!!!」

 驚いたことに、盾男の盾がすべて燃え出した。

「火!!?」

「やべェ出ちまった!! ジャングル育ちの悪い癖!!! 猛獣の住むジャングルで育ったパールさんは、身の危険を感じると火をたいちまうクセがあるんだ!!!」

「おれに近づくんじゃねーーっ!! ”ファイヤーパール 大特典”!!!」

 炎がこちらに襲い掛かる。ララはさっとそれをよけたが、このままでは店に引火してしまう。

「燃えろォ!!! この炎と炎の盾で、おれはそりゃあもう超鉄壁だ!!!」

 炎は徐々に甲板を覆っていく。手下たちは海を飛び込み始めた。サンジが一人、盾男へ向かって行った。

「てめェ店を勝手に燃やすんじゃねェよ!!!」

「サンジ…!!」

 サンジが盾男に蹴りを入れるが、盾で防がれた。

「な…何!? 猛獣もよせつけねェファイヤーパールを!!」

「バーカ、火が恐くてコックが務まるかよ」

「ち…畜生ォっ!! なんてイブシ銀な奴だっ!!!」

 確かに。ララは心の中で頷いた。
 ファイヤーパールプレゼントォ!!!と盾男が攻撃するが、サンジはそれをかわし、男の顔へ蹴りを入れた。

「うわっ!!! 入った!!! 鉄壁のパールさんの壁を抜けた!!!」

 どかっと盾男が倒れる。サンジがニッと笑ったのが見えた。

「おぼの…おのれェ〜〜っ!!! 危険だ!!! 危険すぎるっ!!! ファイヤーパールをもっとくべねばァ!!!」

 より炎が飛び散り、店の方に飛んでゆく。その正面にはゼフがいた。

「ゼフ!!!」

 ララがゼフの方へ駆け寄る前に、ゼフは右足をブオっと振り炎を消した。

「足一本なかろうとも、これくらいなら造作もねェこった」

「すごい…!!」

「てめェら『ヒレ』ごと沈めてやる!!!」

 クリークの声がしたかと思えば、サンジ達の方へ大きな鉄球が投げられていた。

「危ない、サンジ!!」

 火に囲まれ逃げ場を失ったサンジを助けたのは、ルフィだった。

「ゴムゴムの…バズーカ!!!」

 思い切り鉄球を弾き返し、その拍子に折れた船の柱が盾男に当たる。男は気絶したようだった。

「コイツは何なんだよ」

「バカだなーコイツ」

「ぬあ!!」

 ゼフの声にそちらを見ると、ゼフはギンに義足を折られ、拳銃を向けられていた。

「もうやめてくれ、サンジさん。おれはあんたを殺したくねェ!!!」

「ギン、てめェ…!!!」

「過去にどれだけスゴかった男でも、こうなっちゃただのコック。頭を打ちぬくのも簡単だ」

「あンの野郎オーナーの義足を!!!」

「この男を助けたいだろ? 頼むサンジさん、大人しく船を降りてくれ!!」

 サンジは答える。

「船を降りろ? やなこった。何てマヌケな姿だよ、クソジジイ。そんなんじゃ示しがつかねェだろ? ララと戦うコックどもに!!」

「フン…チビナスにァ言われたかねェな」

「何がチビナスだクソ野郎っ!!! いつまでもガキ扱いすんじゃねェ!!!」

 サンジの野郎この期に及んで……!!とコックたちがどよめくが、サンジはギンに言った。

「ギン、そのピストルおれに向けろ」

「!?」

「サンジさん、何で……!!」

「そんな死にたきゃ…殺してやるぜ、イブシ銀にな!!」

 起き上がった盾男が言う。

「超天然っパールプレゼントッ!!!」

 男は盾でサンジの顔を殴り、サンジは店の柵へ当たる。

「サンジ!!!」

 ララはサンジの方へ駆け寄ろうとしたが、パティとカルネに止められてしまった。

「離して!!!」

「だめだララ、危険だ! それにお前までピストル向けられたらどうする!?」

「………」

 ララは力を抜いた。サンジが叫ぶ。

「卑怯じゃねェかよギン…そんな条件どっちものめねェよ!!」

「何でだ!! 簡単だろ、この店捨てりゃ全員命は助かるんだぜ!!? ただ店を捨てるだけでみんな…」

「この店は、そのジジイの宝だ!!!」

「!」

「サンジの奴オーナーが嫌いだったんじゃねェのか!?」

「おれはクソジジイから何もかも取り上げちまった男だ。力も!!! 夢も!!! だからおれはもう、クソジジイには何も失ってほしくねェんだよ!!!」

「サンジ…」

「こんな時にくだらねェことほざいてんじゃねェ……チビナスが」

「うるせェな!! おれをいつまでもガキ扱いするなっつってんだろうが!!!」

 サンジの後ろに盾男がいることに気づき、ララは叫ぶ。

「危ないサンジ!!!」

「!」

「パ〜〜ルクローズッ!!!」

 ガキっとサンジの首に盾が入る。サンジは倒れた。

「サービスパ〜〜ル」

 盾男は飛び上がった。
 卑怯だぞギン!!!とルフィが叫ぶ。

「これがおれたちの戦い方なんだ!!! 悪ィのはあんたたちのだぞ!!! 船さえ渡せばおれたちの目的は果たされるのに!!!」

「イブシギ〜〜ン!!」

 盾男が空中で頭を下にしサンジめがけて落ちてくる。

「プレゼント!!!」

「よけろサンジ!!!」

 サンジはよけなかった。
 大きな音とともにサンジの背中に盾男の頭が入る。

「サンジ……!!!」

 ララはその場にへたりこんだ。

「ハァーッハッハッハッハ!! てっぺき!!」

「オーナーから取り上げたって何のことだ!! 何があったんだよサンジ!!」

 サンジは起き上がり、甲板に拳を打ち付けた。

「…てめェの足をてめェで食って、おれに食糧を残してくれたんだ……おれを生かしてくれた」

「サンジ!!」

「レストランは渡さねェ!! クソジジイも殺させねェ…たかがガキ一匹生かすために、でけェ代償払いやがったクソ野郎だ。おれだって死ぬくらいのことしねェと、クソジジイに恩返しできねェんだよ!!!!」

20180112
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