la mer

「恩返しだと……!?」

 サンジの言葉にコックたちが騒然とする。

「サンジ!! 余計なマネするな。チビナスにかばわれる程おれは落ちぶれちゃいねェ!!」

「余計なマネしやがったのはどっちだよ。その右足さえ失ってなきゃ、こんな奴らにナメられることはなかった!!」

 フラフラとサンジは立ち上がる。

「あの野郎フラフラじゃねェか…!!」

「オーナーのあの足はどうやらサンジのために失ったものらしいな」

「じゃああいつがずっとこの店にこだわってたのは」

「オーナーに恩返しするためだったのか……!」

 ゼフとサンジの間の因縁を知ったララだったが、それでも足に力は入らなかった。このままではサンジが死んでしまう。恐怖でどうにかなりそうだった。ララはルフィに向かって叫んだ。

「お願いルフィくん、何とかして!!!」

 こちらを向いたルフィが、おれが?と自分を指差して問いかける。ララは大きく頷いた。
 ララの想いが伝わったらしく、ルフィは空に向けて足を伸ばした。

「やめろ、手ェ出すな雑用!!」

「あの野郎、何する気だァ!?」

「ゴムゴムの、オノ!!!!」

 ドバンとヒレが店から切り離され、砕ける。ララは海へ放り出されそうになったが、パティとカルネがすんでのところでつかんでくれた。

「ありがとう!」

「ううわああああっ」

「ギン!! ゼフの頭をブチ抜け!!!」

 クリークの命令にギンは躊躇する。ルフィが声をかけた。

「おい、おれはお前たちに手ェ出してねェぞ!! 『ヒレ』割っただけだ」

「てめェ雑用、何のつもりだ!!!」

「この船沈める」

「…な!!?」

 ふざけんなァーーっ!!!とコックと手下たちから怒号が上がる。

「てめェ正気かクソ野郎、おれが今まで何のためにこの店で働いてきたと思ってんだ!」

 サンジがルフィの首元に掴みかかる。

「だって船ぶっ壊せばあいつらの目的なくなるじゃん」

「てめェがおれの受けた恩のデカさと、この店の何を知ってるんだ!!」

「だからお前は店のために死ぬのかよ。バカじゃねェのか!!?」

「何だと!!?」

「死ぬことは恩返しじゃねえぞ!!!」

 ルフィはサンジの手を払うと、彼の胸ぐらを掴んだ。

「 そんなつもりで助けてくれたんじゃねェ!!! 生かしてもらって死ぬなんて、弱ェ奴のやることだ!!!」

「じゃあ他にケジメつける方法があんのか!!!」

「まァケンカはよせよ、キミ達。キミらの不運はただこのクリーク海賊団を相手にしちまったことだ。どうせ何もできやしねェだろ!! あの人質がある限りな!!」

 ファイヤーパールで燃えて死ねェ!!!と盾男が二人に襲いかかる。が、それはギンによって止められた。

「ギン!!?」

「悪いなパール、ちょっとどいてろ」

「何で…!!? ギンさん…!!?」

 盾を壊された男は血を吐き倒れる。

「ギン、てめェ裏切るのか!!!!」

「申し訳ありません、ドン・クリーク。やはり我々の命の恩人だけは、おれの手でやらせてください」

「アァ!?」

 あの野郎砲弾も効かねェたて男の盾を割りやがった、とパティが呟く。下っ端じゃなかったらしい。

「サンジさん、あんたには傷つくことなくこの船を降りてほしかったんだが、そうもいかねェようだな」

「あァ、いかねェな」

「だったらせめておれの手であんたを殺すことが…おれのケジメだ」

「……ハ……ありがとうよ、クソくらえ」

「あんたもだ、麦わらの人。さっき仲間と一緒にここを離れてりゃよかったのに」

「ん?」

 ルフィはあっけらかんと言う。

「別に! おれはお前らみてェな弱虫には敗けねェから!」

「!!!」

 クリークの手下たちが一斉に拳を握る。

「コ…コイツら、我らが総隊長に向かってクソくらえだの弱虫だの好き勝手言いやがって!!! おれ達ァイーストブルー最強のクリーク海賊団だぞォ!!!」

「一番人数が多かっただけじゃねェの?」

「!!!?」

 クリークの手下たちは固まる。ふふ、とララは笑ってしまった。

「コイツらやっぱりおれたちの手でブッ殺してやる!!!」

 海から上がろうとしてきた手下たちに、クリークが叫んだ。

「引っ込んでろてめェら!!!」

「でもコイツら…」

「弱ェと言われてとりみだす奴ァ、自分で弱ェと認めてる証拠だ。強ェ弱ェは結果が決めるのさ、おれがいるんだ、ギャーギャー騒ぐんじゃねェよ」

「はっ、ドン・クリーク!!」

「なァ小僧、てめェとおれとどっちが海賊王の器だと思う…」

「おれ」

「てめェ少しは退けよ!!」

 パティが突っ込むと、なんで、とルフィは不服そうな顔をした。クリークは怒ったらしく、大きな盾をこちらにかざした。

「その夢見がちな小僧に、『強さ』とはどういうモンかを教えてやる…!!!」

「エ…”MH5”!!!」

「そんな…待ってくださいドン・クリーク!!!」

 手下たちが恐れるMH5とは何だろうか。

「お願いします、この男はおれの手で…」

「誰の手で殺そうとも同じことだ。勝ちゃあいいんだ、たとえこんな”毒ガス弾”を使ってもな!!!」

「ど…毒ガスだと!!?」

「一息吸えば全身の自由を奪う猛毒よ。これが『強さ』だ!!!」

 ドンっと盾から弾が出される。

「!!」

「あんなもん海に叩き落としてやる」

 ルフィが言い、砲弾のほうへ走り出す。そして砲弾に追いつきたたいた瞬間、手裏剣が飛び散った。

「ぐ…痛ェ〜〜っ!!!」

「炸裂手裏剣か!! ダマシ撃ちだ!!!」

 はっはっはとクリークは笑う。

「貴重な毒ガス弾だ。使う場所を選べば小せェ町の一つくらい毒に冒せる代物。たかだか2匹のゴミをやるのに使うまでもあるまい」

「なるほど、一本取られた!!」

 ルフィの言葉に、何で納得してんだあいつ、とカルネが呟く。

「戦闘ってのはこういうことさ、お前を殺す方法はいくらでもある。さァ言ってみろ、おれかお前かどっちが海賊王の器だ!!!」

「おれ!!! お前ムリ!!」

 即答したルフィにクリークは青筋を立てる。

「ギン!! そのコックはてめェが責任もって息の根止めろ!! この世間知らずの小僧はおれが殺る!!!」

「わかりました、ドン・クリーク。悪いがサンジさん、あんたじゃおれには勝てねェよ……!!」

「……へへ……言ってろよ。上等だ、ザコ野郎」

 いくぞ、とギンが両手の丸い金棒を回しながらサンジに向かう。手前の床を壊すとサンジの足元へ金棒を回し、よけたサンジは蹴りをかますがひょいと避けられ、倒されたサンジは首元に金棒を置かれてしまった。

「せめて跡形もなく消えてくれ!!!」

 ギンはもう片方の金棒をギュルルと回しはじめる。

「サンジ!!!」

 サンジの頭に金棒が当たる直前、サンジは煙草をギンの顔にプッとふき出した。ギンが目をつぶりその隙をついてサンジは金棒から抜け出すと、ギンの顔を思い切り蹴った。ギンもサンジの脇腹に金棒をかます。二人とも甲板へ倒れた。サンジは腹を押さえながら起き上がる。

「サ……サンジの野郎大丈夫なのか」

「大丈夫なもんか!! さっきのたて男からあわせて、アバラ5.6本はイッてるはずだぜ……!!」

「………」

「あんがいチョロイんだな、艦隊の総隊長ってのも。クリーク海賊団ってのは名ばかりの集団かよ」

 サンジの挑発に、ギンの目の色が変わった。それからは怒涛の攻撃だった。サンジは腹を押さえて膝をつき、苦しげに息をする。しかし。

「……ハ……たいしたことねェな、その”くし団子”の威力も…この…ザコ野郎」

「もうやめて、サンジ!!!」

「とどめをさす!! もう足掻くな…!!!」

 金棒を回しながらギンがサンジに近づく。死ねサンジ!!!と言いながら振りかぶった金棒を、サンジは簡単にかわした。

「なんだ…!!? そりゃ同情かよ……!! フザけんな!!!」

 どかっとギンを蹴り倒す。同時にサンジもがくりと膝をついた。

「サンジ!!?」

「だ…だめだあの野郎!! もう自分の攻撃の衝撃にも耐えられねェんだ…!!」

 ギンが立ち上がり、倒れているサンジの首元をつかむ。サンジの死を覚悟した瞬間、ギンは大声で叫んだ。

「できません!!!! ドン・クリーク!!!」

「!?」

「おれには…この人を殺せません……!!!」

「なんだと!!? もういっぺん言ってみろてめェ!!」

 ギンは泣きながら答える。

「…あんなに人にやさしくされたのは、おれは生まれて初めてだから……!!! おれには…この人を殺せません!!!」

「フヌケが…!! 殺せねェだと? がっかりさせてくれるじゃねェかギン。海賊艦隊50隻の戦闘”総隊長”をハらせたのは、その腕っぷしも必勝を貫く卑劣さも、艦隊随一と見込んだからこそのことだ!!」

「わかってます、おれは別にあんたを裏切るつもりはねェ。今までやってきたことを間違ってるとも思わねェ。あんたの強さを尊敬してるし感謝もしてる…だけどこの人だけは殺せねェんだ!!! ドン・クリーク、あわよくば…あわよくば!! この船を見逃すわけにはいかねェだろうか……!!」

「!!」

「艦隊一忠実なお前が命令に逆らうことに飽き足らず!! このおれに意見するとはどういうイカレようだ、ギン!!!」

 クリークは再び盾をこちらに向ける。

「うわあっ、”MH5”だ!!」

 手下たちはマスクをつけ始めた。

「しかしドン…!! おれたちは全員この船に救われて…」

「ガスマスクを捨てろ、てめェはもうおれの一味じゃねェよ」

「ドン・クリーク……」

「マスクを捨てろ!!!」

「毒ガスなんか撃たせるかァ!!!」

 ルフィがクリークに向かって行く。邪魔だ!!とクリークは体から槍を放った。ルフィは柱にがっちりつかまり、よじよじとクリークの方へにじり寄る。

「カナヅチ小僧が……!!! てめェは黙っててもおれが殺してやるよ」

 クリークが柱を殴り、折った。急いでこちらに戻ってきたルフィは、ギンに言う。

「ギン!! あんな弱虫の言うことなんて聞くことねェぞ、今おれがぶっとばしてやるから!!!」

「貴様!! ドン・クリークを愚弄するな!!! ドン・クリークは最強の男だ。お前なんかに勝てやしねェ」

 サンジがギンの肩をつかむ。

「てめェ…目ェ覚ませ!!! あの男はお前を殺そうとしてたんだぞ!!」

「当然だ。妙な情に流されて一味の本義を全うできなかったふがいねェおれへの」

 ギンはマスクを海へ投げた。

「これが報いだ!!」

「猛毒ガス弾『MH5』!!!!」

 どんっと大きな音ともに砲弾が放たれる。

「オーナー、おれたちも店の裏へ!!」

「でもルフィくんが……!!」

 マスクのないルフィの姿を見てララが言うが、強引に連れられてしまった。

20180117


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