イチジとニジ、というサンジの兄達がジェルマに帰還し、ヴィンスモーク家は朝食を摂るために別室へ移動した。ララは侍女たちと朝食を食べながら、サンジの兄弟のことを考えた。侍女の一人に教わったことだが、イチジ、ニジ、サンジ、ヨンジは四つ子で、レイジュは四人の姉らしい。
船を出航させるために入ったヨンジの心は、氷のように冷たかった。今まで操った人々の比ではない。『情』というものが、完全に抜け落ちているかのようだった。イチジとニジも、そうなのだろうか。その答えは、すぐに出た。
「誰か来てくれ!! ドクターを呼べ!!」
「!?」
朝食を食べ、部屋でサンジが帰ってくるのを待っていると、廊下から彼の声がした。侍女たちと一緒に慌てて外へ出る。ララは、思わず息を呑んだ。
そこには、コック服を着た女性が倒れていた。彼女の瞼は腫れ上がり、顔一面に痛々しいあざがあった。
「こんなクズ、今まで会ったことがねェ!!!」
女性を抱えたサンジが、歯ぎしりする。誰がこんなことをしたのか、知っているようだった。
「お前のせいだよ、サンジ」
「!! ヨンジ……!!」
「身分違いの女をつけあがらせた」
ドクターたちが出てきた通路に、ヨンジがいた。
「ニジに会いてェだろ? 勿論その犯人だからな。ついてこい、会わせてやる」
「ああ、望むところだ……!!!」
サンジは彼女をドクターに任せ、ヨンジについていった。女性をこんなにしたのは、意識がなくなるまで殴ったのは、まさかサンジの兄のニジだというのか。ララはぞっと寒気を覚えた。無抵抗の女に力の加減をせず手を上げるなど、人としての何かが欠落している。
ニジのところへ行くサンジが心配になり、ララは二人の後を尾けた。二人は、厳重に閉じられた扉の中へと入っていった。何の部屋なのだろう。
通路の陰から様子を見ていると、後ろから足音が聞こえてきた。ララはすぐに、音を立てずに身を隠した。
赤と青の、派手な色が目に入る。イチジとニジは、サンジたちのいる部屋へ入っていった。
嫌な予感がしたララは、レイジュに知らせるべく廊下を走った。
「……どこにいるんだろ」
数分後、ララはレイジュの部屋の前で立ち尽くしていた。ノックをするも、返事がなかった。四人の王の首を取ったという、あの悪趣味な写真が飾られている部屋にいるのだろうか。
ぼんやり考えていると、ドクターらしき人々が後ろを通った。急いでいる様子もなく歩いていたが、少し困惑しているように見えた。
「何故レイジュ様は、治療をさせてくださらなかったのだろう……?」
「さァ……」
誰の治療だろう。サンジがニジに怪我をさせたのか、それとも。そんなことありえないと思いながらも、心配になったララは、元の道を戻りはじめた。
一つの角を曲がったところだった。レイジュと、変わり果てた姿のサンジを見つけたのは。
「……サンジ、様!!」
慌てて駆け寄ると、サンジは少し驚いたようにこちらを見た。
「君はさっきの……」
「そのような怪我、一体誰に……!?」
「イチジたちよ」
「えっ?」
レイジュの言葉に、ララは戸惑いを隠せなかった。
「どうして、イチジ様たちが、サンジ様をこのような目に遭わせるのですか……?」
「……色々あるのよ」
そうレイジュは答え、再びヒールを鳴らして歩き出した。ララはサンジ達の少し後ろをついて歩く。ついていってもいいのだろうか、と一瞬思ったが、何よりサンジの身が心配だった。彼の両頬は腫れて膨れ上がり、服には血の跡があった。サンジは、抵抗しなかったのだろうか。
レイジュたちは、写真の飾られた部屋に入っていった。自分も入っていいのか迷っていると、何してるの、とレイジュに言われ部屋に入る。中に侍女たちはおらず、ララは一人、隅に立った。
レイジュにパックをつけられたサンジは、顔の腫れが引き元通りに戻った。彼は新しいシャツに袖を通し、着ていたものをレイジュに渡したところで、ノックの音がした。侍女が扉を開けて言った。
「サンジ様、出発します! ホールケーキ城にて結納です」
「……!!」
結納という言葉に、胸がずきりと痛んだ。
ふと視線を感じて侍女の方を向くと、どうしてここに、と言いたげにこちらを見ていた。ララは慌てて二人に会釈し、部屋を出ようとしたが、レイジュに呼び止められた。
「あなたも出発の準備をして」
「えっ?」
何かの間違いかと思い、聞き返す。
「あなたを私の侍女として連れて行くからよ。お父様からはもう許可が出てるわ」
「か、かしこまりました」
ララはお辞儀をし、部屋を出た。侍女と一緒に自分たちの部屋へ向かいながら、レイジュの配慮に感謝した。ビッグ・マムのところの方が、ルフィたちと落ち合える可能性がある。それに。
(……フィアンセがどんな人かも、見れる……)
20180922
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