翌朝。元気になったララは、開店前の客席で、昨日から雑用になった、麦わら帽子の男――ルフィに、接客の基礎を教えていた。
「いい? 大きな声で挨拶するの。『いらっしゃいませー!』 はい、言ってみて」
「いらっしゃいませー!!」
「おお、良い声出るね! じゃあ次は、注文とる時の練習。この伝票に注文と個数を書いて、お客さんに復唱するの。『若鶏ときのこのフリカッセとほほ肉のワインプレゼでよろしいでしょうか?』 はい」
「肉ときのこのイブリガッコと肉のワインプレゼントでよろしいでしょうか?」
本人は真面目にやっているらしく、ララは思わず吹き出す。
「あはは、面白い人だね、ルフィくんて」
「そうか?」
「まあこんな感じで、元気にやれば良いよ! 注文はちょっと厳しそうだから、お皿下げるのを頼むね」
よしきた!、とルフィは胸を張る。その意気だよとララは言って、開店するために扉を開けた。
しかし、ルフィの不器用さをララは知らなかった。ガシャーンという音にララが振り返ると、ルフィがお盆から皿を落としたようだった。すぐさま駆け寄り、近くにいた客に声をかける。
「お客さま、お怪我はございませんか?」
「大丈夫よ……ちょっとびっくりしたけど」
大変申し訳ございませんと、ララは客達に深々と頭を下げる。
「ルフィ君も怪我はない?」
「ああ……悪ィな、皿割っちまって」
「大丈夫だよ、誰にでもあることだから」
箒と塵取りを持ってくるよう言いながら、ララは大きな破片を拾おうとした。が、その手を別の手が掴んだ。サンジの手だった。
「危ねェからおれが拾う。雑用、ゴミ袋持ってきてくれ。箒と塵取りは持ってきてある」
「わかった」
ララは箒で破片を掃きながらルフィに言う。
「ゴミ袋は厨房の隣の倉庫にあるからね」
「ああ」
ドアから出て行ったルフィを見て、サンジは塵取りに大きな破片を入れながら言った。
「やっぱ雑用には厨房にいてもらうのがいいかもな」
「うーん……でもルフィくんは、接客に向いてるような気がするんだけどなあ」
「なんでそう思うんだ?」
「なんとなく」
ララはそればっかだな、とサンジは笑いながらこちらを見上げる。直感は大事だよ、と返し、ゴミ袋を持ってきたルフィを笑顔で迎えた。
20171221
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