きみはてんし。
通学路で見かける男の子がほしかった。
強い光を放つ目をした可愛い顔の男の子。
私にショタコンの気はないけれど、彼を見た瞬間背筋がぞくぞくしたのを今でも鮮明に覚えている。
絶頂の快感にもよく似たそれはおそらく本能レベルでの恋だったのだろう。
そこからの私の行動は早かった。
思い立ったら即行動の性格をこの時ほど尊んだことはない。
突発的かつ盲目的な恋だったから、私は彼のことを何も知らない。
だから、男の子の名前を調べた。
高倉亮くん。近所の高校に通う1年生。運動と数学が得意。両親と妹と住んでいる。
特筆すべきとしては相当な綺麗好きであることと、人と触れ合うことが大嫌いだということ。
友だちはあまり多くないのか、特に特定の人間と共に登下校をしているとか、休日に遊びに行くとか、そういうことはないようだった。
とりあえずこれだけの情報を集めてしまえば彼の通学路を把握できた。
ストーカー?なんとでも言えばいい。
かの有名な言葉を借りるなら「私の行動は純愛だ」というやつだもの。
で、昨日の夜の話。
今日は月曜日で部活があったはず。
それが終わり、疲れた様子で帰ってきた彼の腕を掴み、突然の出来事にパニックになりかけた彼のお腹に一発叩き込んで気絶させた。
綺麗な体に攻撃するなんてそれだけで涙が出そうだったんだけど、一介の大学生にクロロホルムみたいな相手を失神させるやばいお薬なんて手に入れられるはずもないし。
というわけで合気道サークルに入ってる友人に教わって一番相手を気絶させられる可能性の高い拳のねじ込み方でやってみた。
亮くんは一瞬苦しそうな顔をしてそのまま膝から崩れ落ちてしまったので慌てて支える。
その瞬間黒髪からふわりといい匂いがしてまたくらくらした。
ああ、この子がほしい。
ほしい。
ほしいのだ。
体の奥底で何かが叫んでいるような感覚がずっと続いている。
この子に見てほしい、この子を愛したい、この子に愛されたい、この子を自分だけのものにしてこの子のものになりたい。
この小さな男の子を愛している。
この地球上に存在する誰よりもこの子が愛しい。
抱き上げると怪しいかと思っておんぶにした。女の私でも軽々と持ち上がるほど亮くんは軽い。
ふと亮くんは天使なのかもしれないな、と思った。
「うふふっ」
思わず口から笑い声が漏れる。
可愛い可愛い亮くん。
私の、亮くん。
「天使だから――天に帰っちゃったら困るもんね」
死んでしまったかのように動かない彼の頬に小さく口づけて異常者≪わたし≫は笑った。
「これからよろしくね、亮くん」
ああ、次は君の目を見てキスができたらいいなぁ!
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