32*女性としての
他の女の人が抱き着いていただけ。それだけなのにこんなに嫌な気分になるなんて。ついこの間学んだ感情が、ぐるぐるとクーラを不快にさせる。
そのままの勢いで船に戻ったクーラはローの部屋に向かう。
外はもう夕焼けに包まれている。
荷物の入った鞄を手に取ろうとした瞬間、ローの部屋の出入口の扉が勢い良く開いた。
「ハァッ、ハァッ……イヴ。何してる。」
「ロー!」
クーラは目を丸くして肩で息をするローを見る。
「ハァッ……何で戻ってきた。」
暑そうにいつもの帽子を脱いで、額から流れる汗を手の甲で拭った。
「だ、だって!ローが他の女の人と楽しそうにしてたから!あなたはモテるからしょうがないけど、デート中にそれはないと思うわ!」
「……そうか。」
ローの目は怒りよりは安堵の目をしているとクーラは感じた。
ローはそれだけ言うとクーラを抱きしめた。
「……心配した。」
「……だって、ローが。」
「パーク内スキャンするのに随分体力を使った。」
「ローが他の女性に抱きつかれるのは嫌。」
「この前他の男に抱きついてた奴が言うか。」
「観覧車乗りたかった。」
「船まで戻ってくること無ェだろ。」
相当体力を使ったのだろう、ローはクーラに支えられる程度の体重を預けている。重いと感じたけれど、悪い気分には全くならなかった。
少しの沈黙の後、二人の口からごめんなさいとすまねェが出たのは同時だった。そのタイミングに思わずクーラはふふっと笑った。
ローが身体を離し、パンツのポケットを探る。
ごそごそと取り出したのは小さなピンク色の包み紙。
可愛く包装されていて、リボンが結ばれていた。
「……お前に。」
「私に?」
クーラは再び瞳を大きくさせる。
「そうだ。今日の格好、可愛らしくしてるから、似合うアクセサリーでもと思ってな。たまたま声掛けてきたあの女にどんなのがいいか聞いてたんだ。」
今日はもしデートできたらと買っておいた、薄い黄色のシフォンワンピースを着て、長い水色の髪はハーフアップ、リボンのバレッタで止め、毛先はくるんと巻いてある。朝、美容室でセットしてもらったものだ。化粧も綺麗にしてもらった。
「そうだったの……。本当に、ごめんなさい。というか、可愛いって……。何も言ってくれなかったから好みじゃなかったのかなって思ってた。」
「……これ、開けてみろ。」
「うん。」
包みを受け取り、リボン解いて開けてみると銀色で小さなハート型のピンクダイヤが一つ光るネックレスだった。
「かわいい……!これ、クリミナルブランド。」
(この前シャボンディで洋服見てたときにかわいいって思ってたネックレスだ。すごく高かったはず……。)
「髪を上げて後ろ向け。」
ローに背を向け髪を上げるとクーラの首にネックレスがつけられた。
ローの方に向き直ると、少し目を細めて「似合ってる。」と呟いた。
「ほんと?」
「ああ。」
頬が一気に赤くなる。
クーラは鞄を漁り、鏡を取り出し、自分の姿を見た。ピンクダイヤがクーラの首もとできらきらと光る。
"家族"として、くれたプレゼントではなく"女性"として、くれたプレゼントにクーラは今までにない幸せを感じた。
「すごく綺麗。私には勿体ないなあ……」
「そんなことねェよ。」
ローはまたクーラを腕の中に包んだ。
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