26*とても安心する腕の中



「ん……。」


目を開けると隣にはベッドの頭の縁を背もたれにして読書をするローの姿。
窓から入る光は赤みがかっている。


「……結構寝てたみたいね。」

「もう日も暮れるからな。疲れてたんだろ。」

「夕方になったら起こしてって言ったじゃない。」

「そうだったか。」


ぷうっと怒った顔を作ったクーラが、本から目を離したローと目が合うといつもとは違う、優しい笑みをこぼした。ローの手がクーラの髪を撫でる。


「誰かさんのお陰で海賊船に乗ることになっちゃったから疲れてたのかしら。……それにしても、やっぱり格好良いわね、ロー。その笑顔も、私の頭を撫でるのも反則。」


いつの間にか怒りから照れに変わったクーラの表情。見られないよう、ローの胸に顔を寄せた。


「なんだ、急に。」

「素直にそう思っただけ。じゃあ、私行くね。」



クーラはキッチンに向かい、イルカと夕食の準備をした。
今回は、ローはついてこなかった。

片付けまで終わると、今日もプリンを貰い、部屋へ戻る。

ローの姿は無いが、シャワーの音でシャワールームに居ることが分かった。

クーラは椅子に座るといただきまーすと小さく言った。


「んー!美味しい!」


プリンをぺろりと平らげるとローがシャワールームから出てきた。
全裸で当たり前のように出てきたローはバスタオルで身体を拭き始めた。


「もう、女性の前で平気で全裸はやめてよね!」

「ちょうど良い。このままお前を抱けるな。イヴ、来い。」

「嫌!なんか、こう、雰囲気を大事にしたいの!それに、また人が入ってくるかも!」

「夜に人が入ってくることはねェな。あいつらも大人だ。雰囲気、か……とりあえず、来い。」


全裸のままベッドの中に入ったロー。しょうがない、という風にクーラもベッドの中に入った。


「イヴ。」と呼ぶとクーラの身体を抱き寄せた。


(抱き締められるとやっぱり、すごく安心するなあ……)


「……シャボンディパークには明後日行く。」

「初デートが遊園地なんて素敵。」


クーラは微笑む。


「ねえ、ロー。今までどんな恋愛をしてきたの?モテるでしょう?」

「恋愛、ねェ……まともにしたことねェな。女はいくらでも寄ってくるが。抱ければみんな一緒だ、と思っていた。」

だが、とローは続ける。
「……お前と出会って何か変わるのかもな。」


クーラの額にそっと口付けた。


「格好良いなんて言われ慣れてたが、お前に言われると、他の奴とは違うな。それに、」

「それに?」

「……イルカの奴と仲良く話してるのが気に食わねェ。」

「どうして?」

「いや、わからねェなら良い。……そういや、お前、おれと歳同じくらいか?何故今まで処女だった?何故おれには簡単に許した?」

「……あなたと同じ歳よ。何故かって、そうね……秘密。」

「おれに秘密なんて許さねェ。」

「それはこわいわ。うーん、一目惚れ……かな。経験がなかったのは……今までいい相手に出会えなかったから。」

「そうか。一目惚れ、ねェ……。」

そのまま暫く無言で抱き合った。

「……抱かないの?」

「このままでいい。」

「そう。」



細身だけれど筋肉質な身体に心地良さを感じながら、抱き合ったままクーラは眠りに落ちた。




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