02



「あなた大丈夫?ふらふらだけど」

「ああ……」


私の家は海岸のすぐ側にある。
男があまりにもおぼつかない足取りなので腕を掴んで誘導した。
私の家は質素な作りで家具も最低限しか置いていない。
彼はそんな私の家に入ると、ドアの側で壁にもたれる様に座り込んだ。


「暖炉焚くから服を乾かすと良いよ」


と、私は暖炉の薪に火を付を付けるためライターで紙を燃やした。
ぼうっと小さく火が着くと段々と周りの薪に炎が広がった。


「ほら、立てる?」


男は無言でゆっくり立ち上がると暖炉の側で腰を下ろした。


「それで、どうして海に飛び込んだの?」


私は箪笥の引き出しからバスタオルを一枚取り出した。


「……捕まるくれェなら死んだ方がましだと、思った」

「海賊なの?」

「ああ」


何となくそうだろうと感じはしていた。
海軍の船から落ちて手錠の掛けられた人なんて、海賊くらいしか居ないだろうと、そう思った。
海賊。嫌な響きだ。だけれど気付けば目の前にいる弱った人間の顔を、髪を拭いてあげていた。


「名前は?」

「ロー……トラファルガー・ロー」


見た目からして歳は二十代といったところかな。


「私はイヴ。寒くない?着替えがあるといいんだけど、生憎男物はないしその手錠で着替えも出来なさそうだね」


トラファルガー・ローと名乗ったその人は特に返事をすることもなく、私に髪を拭かれながら暖炉の薪を見つめていた。


「すごく弱ってるように見えるけど」

「……これのせいだ」


と、彼は手錠を上げて見せた。


「海楼石の手錠」

「海楼石、って何?」

「……悪魔の実はわかるか」

「うん、色んな能力が使える実でしょ」

「おれはその能力者で、海に入ると能力を使えなくなり力が抜ける。……この手錠は海と同じ成分で出来ているんだ」

「なるほど、だから」


彼は小さくこくんと頷いた。


「喋るのも辛いなら多くは聞かないから。お腹空いてない?何か食べたい?」


ローはその質問にまた小さく頷いた。


「じゃあすぐ何か作るから待ってて」


私はそう言ってキッチンへと向かった。
冷蔵庫の有り物で、クラムチャウダーを作った。それをスープディッシュに注いでスプーンと一緒に彼のもとに持って行くと、彼はスプーンを他所にお碗ごと飲もうとした。


「熱いから気を付けて」


私はそう言って彼の隣に座ると彼の持った湯気のたったスープにふう、ふうと息を吹き掛けた。
彼はスープに軽く口をつけると、少しずつ飲み始めた。


「お口に合うかな?」

「……美味い」

「そう、それは良かった」


手錠の掛けられた弱った彼はそのスープを無表情で飲み干した。その間私は彼の隣で彼の顔を見つめていた。
人相は悪いけど、整った綺麗な顔をしていた。海賊だと知っても何となく悪い人とは思えなかった。
本当に何となく、だけど。




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