▽ 暑さと熱さ(ロー・微裏)
グランドラインに入り、ハートの一味が船を着けたのは夏島のジャングルの生い茂る無人島だった。
船を降りると鳥や動物たちの声がジャングルから聞こえた。
「何もない島ですね。ログがすぐ溜まると良いんですけど」
「……暑い」
ローが着ている紺のタンクトップを膨らませてぱたぱたと風を送りながら怠そうに言った。暑さに耐えかね、いつもの帽子は頭に乗ってはいない。
「いやあ、暑いですねえ……ほんと、嫌になりますね」
「とか言ってるわりには楽しそうな顔してんじゃねぇか」
イヴの隣でシャチがにやにやしながらイヴの肩を叩いた。
イヴは水色のビキニ姿で身体に通した浮き輪を抱え、シャチは海パン姿でビーチバレーボールを手にしている。
「遊ぶぞー!」
「わーい!」
イヴとシャチは高らかに言うと、コバルトブルーに輝く海へ走っていった。
「やれやれ」
シャチと同じく海パン姿のペンギンもゆっくりそれに続いた。
ローは砂浜近くの木陰に腰を下ろした。
「気持ちいいー!ローさんも!遊びましょうー!」
膝ほどまで海に浸かったイヴが振り返ってローに手を振る。
「無理に決まってんだろ」
「少しくらい!」
「無理だ」
「涼しいですよー!」
ローが返答をせずぼうっとイヴに視線をやると、シャチに海水を掛けられたイヴが楽しそうにシャチに仕返しをした。
「この、シャチめ!」
「お、やったな」
シャチがイヴに近付くとイヴの身体をひょいと持ち上げ海に放り投げた。
すぐさまイヴが姿勢を立て直す。
「シャチめー!」
イヴがシャチに向かってアクションを起こそうとした瞬間、イヴの気付かない間に背後にいたペンギンがイヴの両脇を持って赤ん坊をそうするように抱え上げ、投げると、再びイヴは海の中へ。
ばしゃん、と海が大きな音を出すと、再び体勢を立て直したイヴが顔を拭った。
「ぷはっ、ペンギンも敵か!」
わいわいと騒ぎながら海遊びを堪能する三人。
ローは子どものようにはしゃぐイヴを何を言うわけではなく、ただ眺めていた。
ふと、砂遊びをしていたイヴが何かを握ってローの元へ嬉しそうに駆け寄った。
「ローさんっ!」
にこにこと握っていたものをローに見せる。
掌に握っていたのは、綺麗な色をした貝殻だった。
「綺麗なの見つけました!」
「……ほォ。これは」
ローが悪戯っぽく笑って続ける。
「ナナイロ貝じゃねェか」
「何ですかそれ?」
イヴが首を傾げると前髪から水滴が、白い肌をした胸元に落ちた。
「それ舐めてみろ。甘い味がするらしい」
イヴは「へー」と関心の声を漏らしながら貝殻に付いた砂を払い、言われた通りそれをぺろりと舐めた。
「……?甘い味はしないような……」
「だろうな、嘘だ。それは別名"媚薬貝"と言って、粉末にして飲ませると強力な媚薬になる。女にしか効かねェらしいが」
言ってローはイヴの腕を掴んでぐい、と引くと、体勢を崩したイヴが木に体重を預けて胡座をかくローの太股の上に馬乗りになった。
ローがイヴの耳元に顔を寄せる。
「舐めても効果がある。……どうだ、そろそろ効き始めただろ」
「え……?」
「身体、熱くなってきただろ」
ローはイヴの背中に手を回し、イヴの鎖骨から首にかけて舌を這わせた。
「んん……っ」
「どうだ、気分は」
「言われてみれば、熱くなってきたかも……」
顔を赤くして目を細めるイヴを見てローがにやりと口元を歪ませると、背中に回した右手を今度は胸にやった。
水着越しに胸に触れるとびくっとイヴの身体が反応した。
「ん……っ」
「丁度良い大きさだな」
「あっ……ローさん……っ」
その手に収まる程のイヴの胸をゆっくり揉みしだきながら、イヴの染めた頬に何度か口付けた。
「せ、船長何やってるんですか!」
ペンギンとシャチが慌てた様子でローとイヴに駆け寄ると、ローは舌打ちをしてその動きを止めた。
「おれも楽しむくれェ良いじゃねェか」
「いやいや、駄目でしょ!」
「一線越えてもねェしキスもしてねェよ。おいイヴ」
「はい……?」
「媚薬っていうのも嘘だ。そんな貝見たこともねェよ」
ローがククッと喉を鳴らすと、我に返ったイヴの目がみるみるうちに見開かれていった。
「……えっ!?」
「プラシーボ効果ってのはこういう事を言う。勉強になっただろ」
「ロ、ローさんの嘘つき!」
咄嗟に胸を腕で隠し、俯くイヴ。
そんなイヴの濡れた頭に手を置いてローは可笑しそうに笑った。
「うぅ……」
「可愛いな」
「からかわないで下さい……」
「船長、羨まし」
「シャチ」
「お前らも十分楽しそうにしてたじゃねェか」
「それとこれは違いますよ」
「私、しばらくトラさんって呼びますね」
「やめろ」
「日も暮れ始めたしそろそろ船に戻りますか、トラさん」
「ペンギン、てめェ……」
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